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メディアグランプリ

短歌の中に見つけた私


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記事:渡邊 真澄(リーディング&ライティング講座)
 
 
「彼氏にサラダ作ってたひとが、息子と餃子包むようになったんやなあ」息子に頼まれていた『鬼滅の刃23巻』を買いに行った書店で、新刊コーナーに平積みにされていた本に目が留まった。『俵万智』という名前を見て1冊手に取った。巻末の著者略歴を見て、デビュー作『サラダ記念日』から30年以上経っていると知り、自分が生きてきた年数の長さに驚く。表紙カバーにはいくつかの短歌が並んでいる。
 
『手伝ってくれる息子がいることの幸せ包む餃子の時間』
 
へー。いいなあ。うちの息子は中学生になってから後は、全く手伝わんようになったよなあ。小説、エッセイ、料理本。息子の部屋にある漫画本。最近そんな本しか読んでいなかったので、十七文字で語り切る短歌が新鮮に映った。久しぶりに買うて読んでみようかな。鬼滅の刃と一緒に手に持ち、レジに並んだ。
 
未来のサイズ 俵万智著(公益財団法人 角川文化振興財団発行)
 
家に帰り、パラパラとページをめくった。俵さんと息子さんの日常が浮かんでくる短歌を読むごとに、自分と息子の過去が次々浮かんでくる。
 
「あー、そうそう。自粛期間中、うちの息子もお昼ごはん食べてすぐに、『今夜のごはん何?』って聞いてきたわ」
「せやせや、小学校高学年になったら、ユニクロのキッズコーナーでなく、メンズコーナーでSサイズの服探すようになったよなあ」
 
自分とは接点がないと思っていた俵さんが子育て仲間のように近く感じられて、「わかるわー。うちもそうやったわ」と短歌に話しかけていた。俵さんの息子さんは、小学校を卒業すると全寮制の中学校へ入学したようだ。子どもが巣立った後の寂しさ、週末家に帰ってくるのを楽しみに待つ母の気持ちを謳った短歌がいくつもあった。
 
あす会えるあした会えると思うとき子を産む前の夜を思い出す(p.102)
 
あと3年。息子が大学を卒業し、社会人になって家を出たら、私もこんなふうにあの夜のことを思い出しながら待つのだろうか。
 
シチューよし、高菜漬けよし、週末は五合の米を炊いて子を待つ(p.102)
 
その時私は、春巻きと唐揚げ揚げて、味噌汁作って米を炊いて、息子を待っているんだろうな。
 
まだ来ていないが、やがて来るその時を考えたら、じわりと寂しさが胸に広がった。
 
さらにページをめくると、老いたご両親のことを詠まれた短歌があった。『待合室』という節、十三首の短歌を一気に読んだ。老いた親は、今まで子が見たことのない一面を見せてくる。一首ずつ読ながら、晩年の父を思い出す。
 
長椅子に寝て新聞を読みおれば父が私を「母さん」と呼ぶ(p.150)
 
「そうや。お父さん、私のこと『ばあさん』って呼んだことあったわ」思い出しながら、不快感と寂しさが混じったようなあの時の感覚が蘇った。その後は、ばあさん、とも呼ばなくなってしまったが。そんなふうに、父が娘の名前や孫の年齢、いろんなことを忘れてすっかり弱くなってしまっても、私が父を想う気持ちは変わらなかった。父もそうだった。いろんなことを忘れても、我が子や孫を気遣う優しさは老いた父に最後まで残っていた。一つずつ短歌を読んでいたら、私と亡くなった父のことを十七文字で描かれているような気になった。いつのまにか涙まで流れてきた。
 
そういえば昔、俵万智さんの歌集読んで涙止まらんかったことあったよな。でも、あの時の涙と今の涙、なんか違う気がする。なんでやろ?
 
ふと芽生えた疑問の答えを見つけたくて、1冊の歌集を本棚から出した。20年ほど前に買った『チョコレート革命』(俵万智著 河出書房新社発行)だ。不倫の恋を謳った短歌が多く、著者の実体験か? と言われていた。実生活での不倫が話題になった女優が主演でドラマ化されたり、かなり話題になっていた。不倫が流行のファッションみたいになっていた時代だった。その流行が下火になった頃、私は仕事で知り合った男性に恋をした。私の一方的な片想い。彼は奥さんを、そして一人娘を溺愛している年上の男性だった。何度も消そうとしたが、どうしてもその想いは消せなかった。チョコレートの絵が描かれた表紙を毎晩開き、短歌の中に自分を見つけた。見つけては、苦しくなった。久しぶりに手にとり、角が折られたページの短歌を読んだ。
 
焼肉とグラタンが好きという少女よ私はあなたのお父さんが好き(p.154)
 
ザクザクと胸を切られるような痛みを思い出した。片想いをして泣くことはたくさんあったが、あんなに痛くて苦しい涙は、あれが最初で最後だった。読み進めるとあの頃の痛みを思い出したが、涙は流れなかった。ザクザク切られた胸の傷は、もうきれいに治ったのだ。
 
20年前、『チョコレート革命』の短歌に自分を見つけて、辛くて苦しくて痛い涙を流していた私は、『未来のサイズ』を読んだ今、短歌のなかに自分と息子、自分と父の姿を見つけた。読みながら流した涙は、静かで寂しくて、でもどこか温かだった。しあわせな気持ちで読めてよかった。素直にそう思える。何年か後、また俵万智さんの新しい歌集を読んでみたい。そのとき私は、どんな自分を短歌の中に見つけるのだろうか。涙は流しても、あたたかく微笑んで読める自分になっていたい。その時は、この2冊をまた読み返してみよう。
 
 
 
 
***
 
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2020-12-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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