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メディアグランプリ

女の裸体は、すべてを受け入れている。


記事:青子(ライティングゼミ)

「さて、どんな至福のひとときが過ごせるのだろうか」
私ははやる気持ちを抑えきれずに、身に着けていた衣服を一気に脱ぎ捨て、せかせかと目の前のバスケットに放り込んだ。一糸まとわぬ姿でそこに立つと何とも言えない開放感が生まれる。一応、大切なところを薄手のタオルで隠してはみるが、裸でいることの羞恥心はまるでない。誰からの視線も感じないからだろうか。近くに全身を映し出す鏡もあるが、間違ってもそこに目を向けてはならない。鏡の中の自分を凝視して、体型へのコンプレックスの気持ちが湧いてきたら、この高揚感が失せてしまうからだ。この導入の部分の高揚感こそが大切なのだ。さぁ、止まらないワクワク感を感じながら、いざ、魅惑の世界へ。

「乳白色の湯を愛する会」会長である私。温泉の中でも白く濁ったお湯が好みで、暇を見つけては濁り湯と言われる温泉を目指して出かけている。あ、この役職はもちろん自称である。そして、メンバーはあと一人だけ。副会長兼ドライバーの夫。なんてことはない、ただ、温泉好きの夫婦が休日に白濁の湯めぐりをしている、というだけの話。

しかし、なかなかこれが奥が深いのである。
同じように白濁していても、温泉成分表を見ると泉質や効能もさまざまであり、そのロケーションもバリエーション豊かであるから、厳密に言えば十把一絡げにして語ってはいけないのだろうし、私の中でも好みの差があるのだが、ここではひとまとめに「乳白色のお湯がなぜ素晴らしいか」を、私流に語らせていただくことにする。

まず、乳白色のお湯は、首都圏から離れないと存在しない。当「乳白色の湯を愛する会」の調べでは、東京から一番近い乳白色の湯がある地域は、箱根か那須か日光あたりである。都会に住んでいる人間にとっては、手軽にいつでも入れるわけではない。だから、このお湯を求めてはるばる来た、という特別感に浸ることが出来る。次に、お湯に入った瞬間に、全身の脱力感を感じることが多い。すべてのストレスをここに置いていこう、と思わせてくれる、あの感覚は筆舌しがたいものがある。さらに、あの独特の硫黄の匂い(厳密にいうと、硫化水素の匂いだそうだ)に包まれると、ひゃーーー! 温泉に来たぜ~! という喜びが一気に湧き上がる。

乳白色のお湯にはそんな(あくまで自己満足的な)良さがあるのだが、さらに私が素敵だと思っている点がある。
それは女性を美しく魅せる効果があるということだ。
乳白色のお湯がレフ版のような役割を果たし、露天風呂では自然光に照らされて肌がキレイに見える。色白の人はさらに白く、まるで画家の藤田嗣治が描く陶器のようなつるんとした肌となり、一方、色があさ黒い人は、白濁の湯との対比で、鮮やかな艶のある肌に見せてくれる。それはまるでゴーギャンの絵の中の女性を思わせる。

言っておくが、もちろん、そんなにじろじろと他の人の身体を眺めてるわけではない。ただ、それほど大きくない湯舟の中では、暗黙のルールがあり、一定の距離を保ちながら、迷惑にならないようにとお互いが気遣いながら入っているので、他の人の様子も目に入ってきてしまうのだ。

温泉というところは、一期一会という言葉がぴったりだ。一瞬にして人と人との距離感を縮めてしまうところがある。こんこんと湧き続ける大地の無償の恵みをいただきながら、お互い素っ裸で、知らぬもの同士が肌を寄せ合う。しかも、乳白色のお湯は、身体を隠してくれるので、それがまた安心感に繋がり、初対面の相手にふと身の上話の一つでもしてみたくなるようなそんな気にさせるのだ。

先日も素敵な出逢いがあった。私は、高級旅館の観光客ばかりが入っている温泉よりも、地元の人が1日の疲れを癒しにやってくる日常使いの温泉の方が好みなので、その日も土地の人達が集う、昭和レトロな雰囲気の共同風呂にお世話になった。

夕方だったせいか、割とお客さんも多く、旅人である私は、遠慮がちに、そっと湯船の端っこを陣取り、素晴らしい泉質に酔いしれていた。その時、私の前方でお湯に浸かっていたご婦人がすくっと立ち上がり、そして手を広げ「気持ちいい~!」と言わんばかりにバンザイのポーズをなさった。なかなか湯船から上がる時にそんな堂々としたポーズを取る女性はいない。私はちょっとビックリしてその女性の方をまじまじと見た。と同時に気が付いたのだ。片方の胸を切除されたようで、上半身に大きな手術痕が刻まれていた。

気まずい、と一瞬私は思ってしまった。どうしてそう思ったのか、冷静に振り返ると分からない。でも、その時は、気まずい、と思ってしまったのだ。そして、私のたじろぎを察したのか、その女性がすかさず私ににこっと笑いながら話しかけてくれた。

「ここのお湯はすごくいいでしょ?」

私はくったくのない笑顔を向けられたことで安堵して「そうですね。本当にいいお湯です」と答えた。気まずいなんて思う必要はなかったのだ。

その後、その女性は私のそばでお湯に浸かり直し、他愛のない会話が始まった。「どこから来たの?」とか「湯上りのお水も美味しいから必ず飲んで行きなね」とか、優しく語りかけてくれる。

そして最後に「気を付けて帰ってね」と言って、すくっと立ち上がり、堂々とした姿勢で脱衣所の方へと消えた。胸元を隠すこともなく。

その後ろ姿が本当に美しくて、かっこよくて。生き様が出ているようだと思った。

生きていたらさまざなことがある。身体には、皮膚には、その生き様の記憶が刻まれている。治療の痕跡も、日焼けの跡も、打撲の跡も、老いのプロセスも、人生のすべてを受け入れながら身体はそこにある。

程よい温度の柔らかいお湯に浸りながら思うのだ。
「人生を受け入れ続けた裸体は美しい」と。

この白濁に身を寄せるひとときが私に生きる勇気をくれる。この身体を使って、毎日をとことん味わい尽くしてやるんだとちょっと気合いが入ってくる。お湯から上がったら、脱衣所に置いてあった全身鏡と向き合えそうだ。

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2016-06-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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