メディアグランプリ

相棒


記事:ミュウ(ライティング・ゼミ)

「え? え? えーーっ?」

う、動けるの?
大丈夫なの?

とつぜん硬直して動かなくなっちゃったから、死んじゃったのかと思って
ホントに心配したじゃなーい!

急に生き返ったかと思ったら、
こっちの心配をよそに普通にキビキビと動いているし……

どうなってるんだ。コイツ。

私は天狼院書店のライティング・ゼミで毎週投稿している記事を書いていた。
投稿締め切りの月曜日からまだ時間に余裕があるはずの木曜日の夜に。

いつも締め切りギリギリに投稿しているから今回は早めにやろうと意気込んでいた。
こういう時に限って事件が発生する。
文章の出来だとかいう以前の問題でこのままだと投稿できないかもしれないという事態に陥ってしまったのである。

いつものようにwordに入力していく。
カタカタカタカタカタカタカタカタカタ……

おっと、変換ミス。
マウスでその部分を選択して消そうとした時のことだ。

あれ? 反応しないぞ? 

マウスを動かしても矢印マークのポインタがウンともスンとも動かない。
おかしいなあ。
何度もマウスを動かしたりクリックしたりしてみるのだがダメだ。
当たり前になっている事ができないストレスは大きい。

「うわっ! 真剣に動かないんですけどーーーーーーー!」
思わず独り言を言う。

なんとかしようと思いつく事を試してみる。

マウスの電池は一昨日変えたばっかりだから電池切れじゃないしな。
パソコンの方のなんらかの不具合かもしれないから取り敢えず再起動だな。
ポインタ動かせないからキーボードから操作しよう。
良かった。キーボードは反応してくれる。

再起動してもやっぱり動かない。
うーん。これはどうしたものか。

もう夜の23時を超えている。
誰かに電話で助けを求める事ができる時間じゃない。
私はきっと同じ症状に悩む誰かがいるに違いないとスマホでネット検索をした。
するとマウスが動かなくなって困った人向けに対処法を書いたページがあったのだ。

助かったー。
色々とテクニカルな対処法が書かれていたので私は自分にできそうな事を次々と試していった。次々と。読み進めていくと様々な対処法を書いた後に注意書きが沿えてある。

「あれこれ自分でイジリすぎると事態をこじらせることになるので専門店に修理に出すのが無難です」と。

「えーーーーー! 先に言ってよー!!」
こちらは既に散々イジリ倒した後である。

事態こじらせちゃった? 私。
修理な訳? これ?

あー。ショックだ。

この大きくて重たいパソコンを箱に入れ直して持っていかなきゃならないのか?
この暑いのに嫌過ぎる。しかも、「初期化しましょう」とアッサリ言われてしまいそうな嫌な予感もする。そうしたらバックアップ取っておかなきゃ。今あるハードディスクで容量足りるかな……

って、いうか、この週末が潰れてしまうじゃんか! せっかくの週末が。

京都に行こうかと思っていた。
「コンコンチキチン、コンチキチーン」とお囃子の音が既に頭の中で鳴っている。
祇園祭見て、そのあとジリジリ暑い中、抹茶ソフトを歩きながら食べ、街中ブラブラしてお気に入りの和菓子屋さんで大福とお茶を買って下賀茂神社近くの鴨川の河原に下りてノンビリするでしょ。次の日は貴船で涼む? 嵐山の方もいいなあ、とか色々考えてたのにー!

これじゃ、ずっとパソコンの面倒見る羽目になるじゃないか。
あーあー。タイミングの悪いパソコンめ。もーー。

専門店に持っていかねばならないパソコンを前に私はため息をつき、
ピクリとも動かないポインタをにらみながらマウスをグルグル動かしてはクリックしまくっていた。

そうは言っても取り敢えず、
このパソコンで文章書いてしまわないとダメなんじゃない?
三浦さんみたいにスマホで直打ちで投稿なんてムリだもん、今の私には。
っていうことは、修理に出すまでに文章だけは仕上げて投稿してしまわなければならないということだ。こうはしていられない。何としてでも書かなければ。

マウスが使えないのはひどく痛手だけれど、私はキーボードが反応してくれるだけでも感謝してその操作のみで文章を再び書き始めた。 
それにしても、マウスなしの作業はめんどうくさい! カーソルの移動をいちいちキーボードの矢印ボタンでカタカタチマチマ移動させるしかないのだ。かなり、トホホである。コレはほんとうに疲れる。

ちょっと手を休めた時にふと検索したページにあったある一文に目が留まった。

マウスのセンサーの部分の汚れがあると云々……と書かれている。
汚れ?
うーん、いたって普通の机で使っているだけだしなあ、と思いつつ、
私はマウスをひっくり返してセンサーの小さな部分をじーーっと見た。
ここをこんなに真剣に見入ったのは初めてだった。センサーの部分は小さなガラスの球体が二つありキラリと光っている。ふーん。こんなふうになってるんだー。
次第に目が慣れてくる。
良く目を凝らして見ると、小さなガラスの球体と球体の間にそれよりもさらに小さな細い糸のようなものが挟まっている。

も、もしや!!!!!

これか? これが原因なのか?

散々テクニカルな方法を試した後の私は藁にもすがる思いで慎重に作業をした。
ガラスを傷つけないようにそおっとそれを取り除き柔らかい布でガラスの球体をさっと拭いたのだ。

マウスを元に戻して手を置く。

ヒョコン! ススススーーーー!

うわーーーーーっ!!

う、う、動くじゃないか!
君、動けるじゃあありませんか!!!!!

ウッソー……

う、動けるの?
大丈夫なの?

とつぜんフリーズしたから、死んだかと思って
ホントに心配した。

急に生き返ったかと思ったら、
パソコンの画面でポインタは何事もなかったかのようにマウスの動きに沿って動いていた。クリックだってちゃんとできる。

もうまるで、「フッフフーン」とマウスから鼻歌が聞こえてきそうなくらい滑らかに動いていた。なんだか腹が立つ。

アレコレ試していたアレは何だったのだ。
あまりの呆気なさに気が抜けた。
原因がセンサーに挟まった糸くずだったと判明したときのガッカリ感といったら無かった。私は自分のITスキルの無さを悔やんでいたのに、そんな小難しいことではなく、マウスを使う環境は綺麗にしておきましょうという極普通の事だったから。
あまりのアナログさと初歩の初歩であるが故の恥ずかしさ。
専門店に持っていく前に判明して良かったよ、と心から思う。

私は自分が余計な操作したことで新たなトラブルを起こすかもしれないという可能性をすっかり忘れてよく動くようになったマウスにご機嫌になっていた。

私は再び文章を続けて打ち始めた。
カーソルが軽やかに思い通りに動く。

ああ……
なんて快適なんだ‼

マウスがこんなにも有難い存在だったとは……
失って初めて気づく君の大切さって奴だなあ。

右の手にすっぽりと収まってしまう小さな白い君。

ごめんね。コイツ呼ばわりして。
ごめんね。いっぱいグルグルして。
ごめんね。無駄にクリックしまくったりして。

二度とあんな乱暴はしないと誓うよ。これからはもっと優しくするね。

大切な君。

今日から相棒と呼ばせてもらうよ。

 

***
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2016-07-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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