ふるさとグランプリ

子どもだった頃の最大の敵は、とっても美味しかった。《ふるさとグランプリ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:なみ(ライティング・ゼミ)

「あら、どこさ行ったべ」
「いつものトンボ取りだっけ」

じいちゃんばあちゃんの家での、楽しいこと。
それはトンボ取りだった。

朝ごはんの前にこっそり家を抜け出し、
家の周りをくるくる回りながら山まで登って行ったりして、トンボをとる。
ただそれだけだ。

名前すら知らないが、
普通の茶色いトンボ、10段階評価でいくと、これはレベル1だ。
初心者でも簡単に捕まえることができる。
趣味でトンボとりを始めてみるなら、この茶色いのからスタートするのをオススメする。

続いてレベル3は、シオカラトンボだ。
ブルーの胴体がかっこいい。
青ければかっこよく見えるのは、なぜだろう。

レベル5は、ご存知、赤とんぼだ。
こいつが難しい。
見かけても、初心者ならば諦めるべきだ。
後ろに立っただけですぐ逃げてしまう。
赤とんぼはかなりの臆病。
向こうから近づいてくるなんて、あり得ないから、人差し指を立ててトンボを呼ぶのはやめておこう。

そして何と言ってもレベルMAXに君臨するのが、オニヤンマだ。
あのトラ柄の体がかっこいい。
あと、デカイ。
子どもは、デカイものイコールすごいという頭がある。
いきなり山から現われて、あっという間に居なくなってしまう、出現率の低さもオニヤンマの魅力である。

こんな具合にトンボ取り少女だった私には、最大の敵がいた。
その敵とは、トンボを追いかけていると時々、遭遇することになる。

ある時、私が見つけたのは赤とんぼだった。
赤とんぼの出現率は、なかなか低い。

竹竿にとまっていたところを捕まえようとしたけれど、
感の鋭い赤とんぼは、虫取り網をひょいとかわし、飛び去っていく。

悔しい、捕まえたい!

その一心で追いかけて行く内に、赤とんぼくんは私の一番嫌なところへと飛んで行く。

そう、家の裏へ……

祖父母の家は一軒家だ。
そして裏にはヤツがいる。

いや、今日はいないかもしれないぞ。
ヤツはたまにしかいない。
今日はもしかしたら、いないかもしれない。

そっと進んで行くと、
なにやらどんよりとした雰囲気が伝わってくる。

そして見つけてしまった。
ヤツを……

自分と変わらない背丈のヤツは、
生きていた頃と同じ姿で、鋭い牙を突き立て、
死んだ無念さを宿した目で睨んでくる。

そう、ヤツとは、サケだ。

赤とんぼなんてとうに見失った。

今は早くサケから逃げたくて、
家の裏を必死に駆け抜けた。

もしかしたら逃げている途中で、赤とんぼを追い抜かしたかもしれない。

そう、トンボ取り少女だった私の最大の敵は、
この土地の名物である、サケだった。

家の裏に吊るしてあるサケとは、サケを乾燥させて保存食を作っているのだ。
生のサケのお腹に切り込みを入れ、
その姿のまま、たくさんの塩を塗り込み、乾燥させる。

今ではコンビニでも、「鮭とば」の名前で売られている。
北海道名物として有名になっているが、
岩手でも作られている、郷土料理だ。

こんな風にレシピを書くと、
サケのなにが怖いんだと笑われるだろう。

しかし、サケを甘く見てはいけない。
彼らの目は、とてつもなく怖い顔をしている。
さらに、鋭い牙を持っているのだ。

うっかり牙を指でなぞっていたら、簡単に貫かれる。
刺さると指に簡単に穴を空けるほどだ。

どうだろうか。
サケの恐ろしさが、少しは分かってもらえただろうか。

そんなサケと私の戦いは、
トンボを追いかけ続ける限り、続いた。

たまにばあちゃんが裏庭に干しているものだから、
そんな時に一人で遭遇すると、怖くて仕方がなかった。

だが、ある日、
サケとの戦いに終止符が打たれることになった。

それは夕飯を食べ終えた、夜のこと。
どういう経緯か、我が家に生のサケ1匹がやってきた。

台所に連れていかれると、
まな板の上に、だらんと横たわったサケがいた。

「ほら、今からやっから見とけ」

そして包丁をもったばあちゃんが、
慣れた手つきでサケの腹を一文字に斬った。
それと同時にイクラがあふれ出した。

たくさんのイクラは、美味しそうともなんとも思わなかった。

ばあちゃんがサケをやっつけてくれた。

今まで、まるで生きているように見えていたサケは、
本当に死んでいたのだと、ようやく理解できた。

大丈夫だ、
突然動き出して、私を襲ったりしない。
ばあちゃんがやっつけてくれたのだから。

サケをやっつけた後のばあちゃんは、ヒーローに見えた。
悪い怪獣と闘って勝利したヒーロー。

塩を揉み込んで、始末まできちんとしている。
もう二度と動き出さないように。
私を守ってくれたのだ。

なのにどうしてだろう、
サケとの戦いに勝ったはずなのに、悲しい。

このサケはお母さんだった。
たくさんのイクラは、これから生まれてくるはずの子どもたちだった。

当時はイクラの価値もわからず、
普通のふりかけと同じように、どんどんかけて食べていた。
毎日のように出されるサケも、食べないと怒られるもの、だった。

それがどれほどありがたいことだったか、
今になって分かる。

毎年川に帰ってくるサケを、もう怖いとは思わない。

命を頂く。
子どもの頃サケが怖かったのはきっと、
サケが生きていた頃の面影が強く残っていたからだ。

切り身になって出てくる鮭からも、命をもらっていたんだ。
子どもの頃は、そんなこと分からなかった。
私は命あるものから、目を背けていた。

きっと、大きな網に乱暴に追いかけられ続けたトンボも、怖かったに違いない。
私は宝集めをするかのように、トンボをただの物のように扱っていた。

私は自分より大きい生き物を怖がり、
小さい生き物をいじめてしまっていたんだ。

ちょっとだけ体を見せてもらう、
トンボに対してそんな、優しい気持ちを持てなかった自分が恥ずかしくなった。

小さなものをいたわる気持ちを教えてくれたトンボ。
食べ物のありがたみを教えてくれたサケ。

命をかけて授業をしてくれた先生たちに、感謝している。

***

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