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ふるさとグランプリ

雨が好きになる街《ふるさとグランプリ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:シロフクロウ(ライティング・ゼミ)

「なんか疲れた……」

京都に来て間もない頃、僕は自分のことを人ではないような感覚でいた。

まだ当時の僕は勤め先では新人だった事もあって、1人の人間というよりは単なる物にすぎなかった。

「お前は言われた通りにやってればいいんだよ」

指導する人にとっては、新人なんてのは動物や物くらいの価値でしかない。
新人には人権などないに等しい。

指導は厳しくするもの。
この考え方が蔓延している職場だったから、全員がその指導方法が正しいと思い込んでいる。
異様な光景なのだけど、これをおかしいと思っている人は僕以外には誰もいなかった。

職場に来るたびに、そのような思い込みに支配されて行動を取る人たちと接しなければならない。
体力的に疲れるというよりは、生きて行く上で大事なエネルギーを少しずつ奪われていく感覚に近かった。

「ここの職場にいたら、あの人たちのようになってしまうかもしれない」
そう思うと、この仕事に興味が向かなくなっていった。
この先の人生は絶望しかない。

せっかくの休日も何もする気になれなかった。
しかも外は雨。
たとえ晴れだったとしても、どうせ家から一歩も出ないのだけど。
家の中にいれば濡れることはないのに、じめじめした雰囲気がとても気持ち悪くて家の中も外も同じだと思える。
これでは雨に打たれているのと変わらない。
僕は雨が嫌いだった。

僕はやることもなく、テレビをぼーっと眺めていた。

「なんだか、この人たち楽しそうだな」
そこには、満面の笑みで田畑を耕している人が映し出されていた。
まるで別世界にいる人のようだった。

外の世界は自由なのか……

「僕は一体こんなところで何をやっているんだろう」
誰からも頼まれたわけではないのに、何故こんなつまらない生活を送っているのか自分が不思議でならなかった。
本当は何をやってもいいはずなのに。

「よし、思い切って行動を変えてみよう」
僕は、ある言葉を思い出していた。
以前、読んだ本に書かれてあった言葉だった。何故か、その言葉だけ覚えていた。

〈〈環境を変えれば人生が変わる〉〉

過去にも停滞した人生に変化を加えるために、急に引っ越しをして周囲を驚かせたことが何度もあった。その全て、その後の人生は好転した。
だから今度も上手く行くと確信していた。

当時、住んでいた部屋はワンルームマンション。京都は地価が高いから住んでいる部屋は狭かった。
次に住む場所は既に決まっている。この辺りだと滋賀しかない。

物件を探して早速、見学に行くことにした。

「ここだ!」
もう駅に着いた瞬間に決まったようなものだった。
駅のホームから琵琶湖が見えていた。一体これだけの水がどこからやって来るのだろうかと思えるほどの豊富な水の量だった。

僕は高台にある物件へと向かった。高台とは言っても5分程度の距離しかない。これくらいの距離なら、むしろ健康の為にも大歓迎だ。
坂の上に差し掛かったとき、ここからでも琵琶湖は見えそうだと思って振り返ってみた。

「おー、すごい」
駅のホームから見た景色より、こっちの方が断然よかった。
琵琶湖は太陽の光が雲の隙間から差し込んだ部分だけ、輝いて揺れている。
山の稜線だって見える。しかも遠くの山まで、ずーっと奥まで。

しかも静かだった。鳶の鳴き声が聞こえるほどに。
先ほどから車が一台も通っていないことに気付いた。人もほとんど見かけない。
随分のんびりした町だ。時間の進み方が京都より緩やかに感じる。

ここに来て、一番の変化は心境の変化だった。
以前より広い部屋に住んで、ベランダから琵琶湖を眺めていたら流石に視野が広くなる。
少し前の鬱屈とした心はどこに行ったのか分からないほどだった。
ようやく僕は物から人に戻れたような気がした。

「環境を変えて本当に良かった。また今回も成功だ。毎日、目的もなく同じことを繰り返す生活は、もう卒業だ。周りは管理しやすいように型に嵌めたがるけど、こちらがそれに一々応じる必要はない。そんなことはやりたい人が勝手にやっていればいい。僕は自分の人生を自分の好きなようにさせてもらう」

感情が内からふつふつと湧き上がってきた。

広大な琵琶湖を眺めていたら、今までの人生がいかにつまらないものだったか分かる。僕は自分の人生を生きてはいなかった。あれでは他人の人生を生かされていたのと同じだ。

「さて、今度の休日はどこに行こうか。雨でも降ればいいのに」

さーっと静かに空から落ちてくる雨粒のラインと音色。
見ているだけ、聞いているだけでも充分だ。

雨の日だからこそ見れる景色がある。
気付いたら、僕は雨が好きになっていた。
雪が降っても心境は変わる。
霧がかかった幻想的な光景だって同じ。
目の前にある光景なんて、きっと何でもいい。それを美しいと思えるかは自分次第なんだと分かった。

ここに来て、外に出かけることが楽しくなった。
湖に面したカフェで珈琲を飲みながら読書にふけったり、ただ町を歩くだけでもいい。
山の麓を歩いていたら、たまに猪や猿を見かけてびっくりするけど、これも楽しい思い出の一つになる。

ここには琵琶湖がある。山だってある。
少し北上すればスキー場もある。
冬は京都より雪が降る。
京都にだって直ぐに行ける。
物価が安い。
食事が美味しい。
人が優しい。
鳶が上空を旋回している。
渡り鳥だって飛んでいる。

「本当に最高の場所だ。もっと早く来ておけばよかった」

滋賀は何もかもが自然なところがいい。
きっと僕は、そこに惹かれたのだと思う。

自分の人生なのだから自分で自分の道を選んで歩いていく。そんな当たり前のことを自然なことだと思わせてくれる場所。僕もこの土地のように自然体でいられたらと思う。
しばらくは、この土地で様々なことに挑戦してみようと思う。疲れることがあったら琵琶湖を眺めて少し休憩したらいい。

一度喧騒から離れて自分自身を見つめ直すのもいいかもしれません。
人生に疲れたら、ぜひ滋賀に来て欲しいと思います。

***

この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
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