メディアグランプリ

恥の記憶はコルセット


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記事:キクモトユキコ(ライティング・ゼミ日曜コース)

私は何重にもコルセットをまとっている。苦しくて脱ぎ捨ててしまいたいけど、修行中の身だから我慢して着用していなければならない。

私の記念すべきファーストコルセットは幼稚園の入園初日。
入園式を終え、案内された教室のイスに座る。サイズ的には大きくても、慣れない制服が少し窮屈だった。教室の後ろでは保護者が温かく見守っている。初めての集団行動に泣き出すクラスメイトもいたけど、人見知りしない気質の私は新しい環境にワクワクしっぱなしだった。
「自分の名前が呼ばれたら、手を挙げて『はい』って元気よく返事をしてくださーい」
先生のそんな言葉にも、私はただひたすら純粋に「元気よく返事」をしようと意気込んでいた。

一人ずつ名前が呼ばれていく。私の意気込みのように大きな声で返事をする子もいれば、恥ずかしがって小さい声で返事をする子もいた。そして、キクモト、と自分の苗字を呼ばれる声が聞こえるや否や、私は教室中に響き渡る声で「はいっ!」と返事をした。それはそれは元気よく。大きな声で。かなり食い気味に。

「キクモトショウ君」

だがしかしキクモトに続いた名前は私の名前ではなかった。私は衝撃を受けた。なぜなら当時の私は一家に一台、ではなく一家に一苗字と思い込んでいたから。キクモト姓は自分の家族のみだと思っていたのだ。大人になれば当たり前のことが子供にはまったく当たり前のことではない、ということがよく分かる。
名前を呼ぶ途中で返事をし、しかも他人の名前で返事をしてしまった。自分の出番を奪われたキクモトショウ君(仮名)の心中いかに。これだけでも十分に赤っ恥なエピソードなのだけど、焦った私は挽回しようと更に恥を塗り重ねる。

「……って言うんだよ!」

あたかも親切心でクラスメイトに説明するといったていで高らかに宣言したのだった。教室後方では保護者のクスクスがさざ波のように広がったのは覚えているけれど、その後この幼稚園初日の大事件に母が触れることはついになかった。

これが4歳そこらの出来事。この機会にと、母にこの時のことを覚えているかと訊いてみたら全く覚えていないとの答えだった。母曰く「それは恥ずかしいんじゃなくて笑い話だよね」と。他人から見れば単なる笑い話かもしれないが、30年近く昔のこの事件を私が未だに覚えているのはあまりにも強烈な恥の記憶で、ことあるごとに思い出しては枕に顔をうずめたくなるからとしか言いようがない。恥の記憶はコルセットだ。この「キクモトショウ君(仮名)ごめんなさい事件」が私のファーストコルセット。恥という苦しさと引き換えに「大人数がいる公の場では慎重に発言しよう」という教訓を4歳にして得たのだった。

このファーストコルセットを皮切りに、私は何着ものコルセットを重ね着しつづけている。緩くてまだマシなものから、紐でがっちり締め上げられたキツキツのものまで。それでも淑女の着けるコルセットのように、恥の記憶が私をちゃんとした大人に導いてくれている。
奇しくも幼稚園時代、職業というものを知るまでの私の夢は「レディになる」だった。当時テレビで放送されていたアニメ、「ハロー! レディ リン」の影響だ。「レディ!!」という漫画が原作で、一人の少女が困難を乗り越えてレディへと成長していく物語だった。私は今もなお、立派な淑女(レディ)になるべく修行中である。

大人になっていくごとに新作コルセットの生産ペースは落ちていく。身に着けてきたコルセットが役に立っているから。そして恥をあらかじめ予測できるようになるから。恥を意識することができるようになり、手前の段階で踏みとどまることができるのだ。それが良いとか悪いとか決めつけて語ることはできないけれど、淑女になる修行の途中にいるのならそれは物足りないのかもしれない。

そして私は今、恥の意識と闘っている。4月から受講を始めたライティングゼミ。毎週提出する課題の文章。自分のことを書くのは気恥ずかしいし、自分では真面目に書いているつもりでも客観的に見たら不甲斐ない文章で、スタッフの方や同じ受講生から笑われてしまわないだろうかと恥ずかしさでいっぱいだ。それでもそこをくぐり抜けていかないと上達はないということも分かっている。このライティングゼミでどれだけのコルセットを作り上げられるだろう。私は多くのことを学びたい。最近はあまりかかなくなった恥を、このゼミの期間だけは目一杯かいて最強のコルセットを身に着けよう。幼い頃の夢の「レディになる」ことができるように。

恥の記憶はコルセット。
苦しくて脱ぎ捨ててしまいたいけれど、淑女のコルセットのようにいつも私の心と姿勢をぴっしりと正してくれるのだ。

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2017-05-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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