火照った男の手に抱かれながら、思い出したのはラムネの味だった《プロフェッショナル・ゼミ》
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記事:長谷川 賀子(プロフェッショナル・ゼミ)
「マスター、いつもの」
男はそう言って、おもむろにカウンターに座った。私もその隣に座る。この男とここに来るのは3度目だった。オフィスビルを出て、左にまっすぐ歩いて、4つ目の信号機を渡ったところの路地にある、ちょっと洒落たバー。パン屋の隣にある地下に向かった細い階段を降りたところに、澄ましたように店を構えていた。ここなら、大通りの車の音も聞こえてこない。店で酔いに任せて騒ぐような奴らも、この店にはいない。ただ、キャリアを重ねた煙草の似合う男たちか、その男に連れられた生意気そうな出来のいい青年か、あるいは懸命に生きているような女たちが、仕事帰りに静かに酒を飲んでいる。今日は、煙草をふかしたいかつい男と、すでに酔いが程よく回り始めて男の愚痴を言っている女二人と、珍しく若いカップルが店に来ていた。男と私は、6番目と7番目の客だった。
「お前は、何にする?」
男が私の顔を覗いた。
「そうね、ギムレットがいいな」
男に言った私の声を拾って、マスターが頷く。この店の使い込まれたカウンターの木みたいな手が、瓶の線を抜いたり、グラスをそっと掴んだり、限られたこの空間をなんの無駄もなく動いていく。一見煩雑に見えるようで、繊細に並べられている瓶の間を縫っていくマスターの手の動きは、この空間を支配しているように鮮やかだ。わたしのギムレットが一生出てこなくてもいいから、ずっとこの動きを見ていたいと思ってしまう。
そんな私の気持ちを察してか、あるいは感が鈍いからか、隣の男が話しかけてきた。
「そのネックレス、やっぱり似合うじゃないか」
マスターとは対照的にごつごつした男らしい手が、私の方に伸びてきた。男の指が、私の鎖骨のあたりで、ネックレスと遊んでいる。
「そう。よかった」
私は少し下を向きながら、息を吐くように男に言った。男の指が、くすぐったそうに、また動く。
「あなたがくれたのなんだから、似合うわよ」
今度は、男の目を見て、言ってやった。男は私の鎖骨のあたりで、最後にハートの石を転がして、指を離した。
「当たり前だろ」
得意そうに、満足げに男の歯は見えたところで、マスターが頼んだ酒を出してくれた。私の目の前で、ギムレットの甘い、とろっとした香りが広がる横で、ウイスキーの氷が動いている。
男は右手でグラスを傾けながら、左手の肘をついていた。形の綺麗なスーツの袖がずれて、この男の自慢の時計が覗いている。
今日で、この男とこのバーに来るのは3度目だった。1度目も、2度目も、お酒が来てから男は口を開くことはなかった。案の定、今日も口を開かない。けれど、私には都合がよかった。私には場違いのようなこの店で、私が口を開くことは、最低限にしておきたかった。経験を重ねた、あるいはそういう道をたどるような、男と女が集う場所で、私のようなただの女の声が店に響くのはごめんだ。私は、この隣に座る男と同じオフィスで働いているだけの、ただの女なのだ。何の欲もないまま就職をしたものの、なんの間違いがあってか、無機質な壁が規則正しく並ぶオフィスに毎日通っている、OLだった。入社をして、2年目。24歳。白のふわっとしたブラウスに、クリーム色のジャケットを羽織って、フレアのスカートをはいている、ありがちな格好の女。ただ、私は、このバーに来ているような、隣に座る男のような、そんな男と結婚するために入ったわけではなく、ただ、自分が食っていけるように、ただそれだけで働いている。だから、恋愛の中に浸かってきた可愛い女のように悪魔のような蜜をもっているわけでもなく、自信を積み重ねてきているわけでもない私が、このバーで口を開くなんて、どうにもこうにも、気が引けるのだ。そもそも、このバーにいること自体、本当は気がめいりそう。ただ、この男が私の上司であることと、マスターがいることが、せめてもの救いだった。そして、今日も運よく、この沈黙の間に、他の客から注文が入った。私はギムレットを、薄い唇ですすりながら、マスターの手の動きに見入っていた。
「なあ」
私の顔の横から、燻した香りが鼻に入る。グラスを支える私の手に、男が自分の手を添えた。
合図だった。もう、私はわかっている。3度目だ。暗黙の形式には従っておいた方が、身のためだ。
男が瓶の影で会計を済ますのを確認して、私は先にドアの方に向かった。男が後ろから、私の肩に手を添えて、地上に抜ける扉を開けた。
金曜の夜は、やけに騒々しい。でも、この男の連れて行ってくれる場所は、いつも静かだった。静かで、重くて、ウイスキーのように少し煙たい。ネオンの街を抜けて、磨き上げられたガラスの自動ドアをくぐって、掃除の行き届いた絨毯の上を歩いていく。男は部屋を予約していたらしい。私は何も言わずについていく。この男についていけば、転ぶことはないだろう。まだ、うっすら子供っぽさが消えてはいないけれど、きっとあと数年もしたら、一気に出世しそうなこの男。オフィスの周りにいる女たちがいつも噂をしていた。この男、モテるのだ。出世のことも、モテることも、きっと、本人もわかっているだろう。わかっているから、私をここに連れてきているのだ。女の端くれにも置けないような私を、わざわざ行きつけのバーで酒を飲ませて、こんなにいいホテルに連れ込んでくれる。オフィスの女たちに知られたら、殺されるかもしれない。でも、そんなことは絶対にないだろう。この男は、守るだろうし、私も言ったりはしないのだから。それに、部屋はこんなにも、外の世界からは遮断されている。カードキーがロックを解除した音と一緒に、男に押されるように、私は部屋に入った。
東京タワーが窓に映っている。残業の電気が残るビルが闇に溶け込んでいるのも綺麗だった。わざわざ、この部屋を取ったのか。私がぼんやり窓の外を覗いていると、男の広い胸元が、私の背中を包んだ。
「綺麗ね」
私は窓に向かって呟いた。
「だろう」
男の声が、私のうなじのあたりに響いてくる。
「おいで」
そういって男は私を抱き上げて、石鹸の香りのする方へ、運んで行った。
こうなったら、本当に私は、この男についていくしかない。でも、心配はいらなかった。この男が私を落とすことなんて絶対にない。ひどい目にも合わせない。だから、ただ、身を任せてついていけばよかった。スーツの下では猫を被っている、たくましい腕に抱かれながら、優しくベッドに寝かせてもらえばいいんだ。私は、男の腕に運ばれながら、なんとか冷静を保っている。さっき飲んだギムレットくらいじゃ私は酔わないのが幸いして、今日もなんとか意識は保てそうだった。覚えておかなくちゃいけない。この男の一言一句、たった一秒の言葉の空白まで、私の頭の中に記憶しておかなくちゃならないから。
そんなくだらないことを考えているうちに、ベッドの上に降ろされた。相変わらず、この男は優しいようだった。糊のきいたシーツが背中にあたって気持ちがいい。男は私の額の髪を鋤きながら、虚ろな目を私の体に泳がせている。この男の前では、私は、水にも魚にも、なれるようだ。はあ。この時間は、いつまで続くんだろう。私は、顔をこちらへ落としてくる男の頭を撫でてやった。夜の街から余った光が私たちを照らしている。酒を飲んでいるバーのように、私たちはしばらく無言の時間を過ごした。
遠くの方で、パトカーだろうか、サイレンが聞こえた。この男と私の沈黙を破るように。まっさらなシーツの上に仰向けに広がる私の掌に、男は自分の手を重ねて握った。火照っていて、湿っぽい。この男の体温がすべて掌に集まっているみたいだった。男の筋肉の筋を伝って、この男の鼓動が、そのまま私の中に流れ込んでくるみたいだった。サイレンは相変わらず遠くの方で鳴っている。やっぱりあれは、救急車のサイレンだろうか。早く患者のもとに、着くといい。患者の鼓動が止まらぬうちに。止まってしまったら、この私の中に流れてくる、この鼓動を分けてやってもいいだろうか。私は、己以外はまるで見えていないような男の瞳を見上げた。当たり前だが、向かい合っているのに、目が合わない。この男は、優しくはないのかもしれない。
「綺麗だよ」
私が余計なことを考えていることを見破ってか、男は静かに口を開いた。片方の手を私の掌から外して、私の頭にそっと置いた。男の手は相変わらず火照っていて、私の頭まで、くらっとしそうだった。おまけに、頭にまで男の鼓動が流れ込んでくる。
「綺麗だよ」
男はもう一度そう言うと、片方の手を私の掌の上に戻した。男の唇が、落ちてくる。私は受け止めることもしなければ、拒むこともしなかった。ただ呆然と、この男の下で、仰向けになっているだけだった。遠くの方で鳴っているサイレンの音は止んだ。町の騒々しい音は、遮られて聞こえてこない。男の息の音だけが、この部屋に漂っている。いよいよ男の唇は、私の唇の上に乗ってきた。ただ、私の薄い唇は、男のそれを持て余していた。
男が私の手を、強く握った時、私の中の、何かが疼いた。男の手から伝わってくる、熱のせいか、鼓動のせいか、それとも、顔にかかる、この男の息のせいか。たぶん、全部なんだと思う。私の体にも、心にも合わない、この男が持っているもの全てが、私の体を疼かせていた。別に、悪い男ではない。こんなに丁寧に女を扱い、こうして会っていることを隠し通し、まるで自分のもののようにしてしまう男。おまけに仕事もできる。悪い男ではない。ただ、良い男では、さらさらない。私は、こんな火照った脈の打つ手で、手を掴まれたいわけではなかった。急に、マスターの手の動きが、頭をよぎる。ああ、そうか、あの手、彼に似てるんだ。頭の中のマスターが、前に付き合っていた彼にすり替わっていく。
前に付き合っていた彼は、線の細くて、変わった人だった。顔を潰したように笑うかと思えば、別世界を見ているかのような目で、手を動かし始める。彼は、物を作るのが好きな人だった。インテリアの雑貨からアクセサリーまで、彼はなんでも作っていた。繊細な指先から生まれてくる作品のどれもが、生き生きとしていた。小さなお店を開くことが、彼の夢だった。彼は毎年、私の誕生日にアクセサリーをくれた。アジアっぽい紐を編んだものや、ビーズを組み合わせて作ったもの、細かいレースを飾ったもの。どれも私のためだけに創ってくれた。そしてそれは、ひだまりみたいにあったかかった。
私は男のウイスキーの香りを嗅ぎながら、彼がくれたアクセサリーの記憶をたどった。私の意識は過去へ向かって、私の手の感覚は、男の手から遠のいていく。
はじめて、私に手作りのアクセサリーをくれた日のことだった。もう10年も前のことになるだろうか。その時はまだ友達で、でもそれより仲良しで、くすぐったい時期だった。いつもの帰り道、でも私の誕生日。彼は右手をポケットの中で動かしていた。そうかと思えば、急に立ち止まって、私の目の前に握った手を突き出した。
「なあに?」
ちょっとだけ期待しながら、私は気が付かないふりをして、聞いた。彼の手が静かに開くと、ペンダントが乗っていた。
「つけてみて」
彼はそう言って、私の掌にペンダントを落とした。
「ありがとう」
私はそれを、首からかけた。フェルトとビーズで作った花が、ブラウスの白地の上で笑っている。
「嬉しそうで、よかった。お誕生日おめでとう」
ペンダントの花を撫でながら、きっとにやにやとしていた私を見て、彼の口が優しく開く。
「帰ろっか」
彼の指が、私の指に触れて、彼の掌と、私の掌が、まるで一緒みたいにくっついた。春の空気に包まれているような感覚が、私の手を包んでくれる。彼と、はじめて、手を繋いだ。ラムネみたいな気持ちが、私の心にわいてきて、しゅわーって体中に広がった。初恋の味って、ラムネの味だったんだ。
このまま記憶に溺れてしまいたい。
そう思った矢先、男の口から洩れる訝しい香りが、私を現実に引き戻す。
ああ、あの時みたいな恋って、もう、出来ないんだろうか。ラムネみたいな、そんな恋は、もう味わうことは、許されないのだろうか。それが、大人になるということなのだろうか……。男の手の体温に、体が疼きながら、私は思った。
でも、彼とは、大人になっても、仲良しだったんだ。私たちのラムネの泡は、消えることは、なかったんだ。手をつなげばそよ風が吹いて、心がしゅわしゅわ、くすぐったい。
ああ、もう一度、あの恋が欲しい。
欲しい。
返して、欲しい。
私は、この男の顔を睨んだ。男の意識はどこか遠くへいっているのか、私の表情には気が付かない。
東京タワーも、残業の明かりが残るビルも、全部、闇に溶けて、無くなればいい。
この部屋は、彼と最後に会った場所だった。彼と、さようならをした場所だった。そして私が、この目の前の男への怒りを覚えた場所だった。
そうだ、この男は、良い奴でも、悪い奴でも、そんなんじゃなくて、私の嫌いな、憎くてたまらない奴なんだ。この恋は、大人の恋なんかじゃない。ただ、この男の傲慢を見届けてやろうと思って、付き合ってやっていただけ。男の口から洩れてくる、ウイスキーが、私の怒りを煽ってくる。
こんな男、大っ嫌いだ。わざわざ居心地の悪いバーに連れていくことも、「いつもの」なんて自分に酔っていることも、自己中な男の体温も。私をまるでマネキンみたいにして、自分のあげたものをうっとり眺めていることも、私のことを、必ずお前と呼ぶことも。この、部屋を、選んだことも。
この男は、自分の見栄のためにしか、生きていない。ずっと、ずっと、昔から。
この男は、私の兄と同級生だった。兄と仲はまったくよくなかったけれど、同級生の妹をからかってやろうとでも思ったのだろうか。私が小学生の時、ネックレスを渡してきた。よく覚えていないけれど、母親の使い古しみたいな、そんなものだったと思う。まだ恋も知らないような子供な上に、私はすこぶる冴えなかった。だから、年上の、しかも俺がかわいがってやれば、その気になるだろう。少し遊んでやって、ひどく捨ててやろうとでも、思ったんだろう。私が、学校の帰りに公園で、図書室で借りたばかりの本を読んでいると、ずかずかと私の視界に入り込んで、
「くれてやるよ」
と、自慢げな顔で、ネックレスを渡してきた。なんとなく兄から、関わるなよと聞いていたし、この男から漏れてくる空気が、私の首を絞めつけてくるみたいに苦しかった。それに、私はほんとうのほんとうに、恋なんてよくわからなかったから、この男のたくらみも、こういう時女がしたたかに賭けに出ることも知らなかった。私がさえないことはわかっていたけど、ただ、この空気から逃げたい、それだけで、この男の手を振り払った。振り払って、走って家に向かった。
この時、私は振り返る時間さえも怖かったから、男の顔は、確かめていない。でも、きっと、この私を、傲慢で図々しい奴だと、思っただろう。怖がりもしなけれは、なびきもしない。小学生相手に馬鹿々々しいと思うが、この男はそういう奴なのだ。
そして、運の悪いことに、私は、この男のいる会社に、しかも同じオフィスに、入社してしまった。こんな冴えない私のことを、この男が覚えているはずもなかったのだが、また男の傲慢な発想が、私を見て、湧いたらしい。私をちょこちょこからかい始めた。私も、もう、あの時のような子供ではなかったから、軽くあしらっておいていた。
でも、大好きな彼と歩いているところを、この男に見られてしまった。というより、真正面から、すれ違ってしまった。
ここからだ。全部が、ねじ曲がりはじめてしまった。
この男は見ていたんだ。
私が、彼からネックレスをもらうところを。この男が私によこそうとしたものより、あきらかに安物にみえて、でも値段なんてつけられない輝きがつまっているネックレスを。私が、素直にネックレスを受け取って、嬉しそうにしているところを。男がまだ、私との出来事が記憶にあるうちに、見ていたんだ。
その記憶を、私たち二人が、呼び戻してしまった。
私と彼が、あの日と同じ雰囲気で歩いていることが、男に屈辱を思い出させてしまった。
それから、この男の私に対するからかいは、自分のうっぷんを晴らすためのものに変わっていった。男は、私と彼について、詮索をした。そしてあの日、私たちがこの場所にいた時、初めて一緒に泊まった、このホテルに、電話をかけてきた。私が電話を無視すると、部屋にノックの音が響く。私がうっかり、会議室に携帯電話を置き忘れた間に、GPSでも設定したんだろうか。男はずかずかと入ってきて、私たちの時間をめちゃくちゃにした。
そして、私と彼は、さようならをした。彼は、目の敵にされているのは彼の方だと思っていた。彼は自分が離れたら、私への嫌がらせはなくなると思っていた。私は、それは違うことはわかっていたけど、彼に従えば、彼はこれ以上、巻き添えをくわなくてすむ。お互い、また会えたらと、こっそり耳にささやきながら、さよならをした。
あの日も、東京タワーが窓に映って、残業の明かりが残るビルが、闇の中に輝いていた。
そして、今日、ここに私を連れてきて、本当に自分のものにしようとしていた。自分のものにして、捨てようとしていた。
私も、もう、あの時のような、少女ではないというのに。男は子供のままだった。だから私は、男のたくらみを逆手にとってやった。男は、私が男のものになったのだと思い込ませ、気を許したときに、屈辱を味わわせてやろう。そう思って、あの日から、この男に従うふりをしてきたんだ。
ウイスキーの香りが薄れてくる。私の体の中のギムレットも、もう時間切れらしい。
男が私のネックレスを撫でた。
「このまま俺といるか」
男はいつもの自慢げな顔で、私に向かって言った。やっと、終わる。
「いいえ。私は楽しくない。あなたも、このネックレスも、大嫌い」
この後のことは、あまり覚えていない。男が暴れたような、怒っていたような、そんなだった気がする。私の顔に、傷がうっすらついていた。
まだ、騒々しい街の空気を吸った。私は、駅の方に向かって歩く。まだ、体が疼いている。もう、済んだはずなのに。嫌な時間は、終わろうとしていたはずなのに。私は、もしかしたら、逆手にとるなんて、できていなかったのかもしれない。あの男は、私が嫌がればそれはそれでよかったのだ。私が捨ててやっても、それこそ私を馬鹿な奴だと思うくらいだ。私はやっぱり、少女のままだったのかもしれない。やっぱり、私はずっと、ラムネみたいな味の恋がいい。このこころの疼きを直してくれる薬は、ラムネの味しかないのかもしれない。
彼は、こんな馬鹿な私を、もう一度受け入れてくれるだろうか。
彼に、会いに行ってみようか。
いいや、やっぱりやめておこう。
二人の、しゅわしゅわとくすぐったいあの時間を、汚したりなんて、したくない。
きっと、このまま歩いていけば、どこかでまた、ラムネ味の恋に会えるかもしれない。
このまま、進んでいけば、また、どこかで、きっと会える。
そう思ったら、体がしゅわっと、軽くなってきた。
横断歩道の向こう側で、誰かが手を振っている。
心の中で、ころん、とビー玉が転がる、音がした。
※このお話はフィクションです。
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