メディアグランプリ

母親になって13年目の夏


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:谷口直美(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
「お母さんが笑っているのが1番よ」まただ。何度この言葉を聞いただろうか。もう、うんざりだ。でも、そんな気持ちとは、裏腹に笑顔を作り「そうだね」と返事をする。相手も満足そうに笑い、別の話題に移っていく。どんよりした、スッキリしない気持ちを抱え、子育ての相談などしなければよかったと後悔する。子育てアドバイスは、私にとって毒だ……。
 
確かに、お釈迦様のように、何があっても見守り優しく笑って接したいと思っている。
でも、出来ないのだ。「お母さんが笑っているのが1番」と言われるたびに、笑っていられない自分は、母親失格なのだと自己嫌悪に陥る。
 
子育てが始まった頃は、素直にそのアドバイスに従った。いわゆるママが楽になる子育てアドバイスの本も読んだ。怒りそうになったら、一呼吸置いたり、場所を変えたりした。もちろん、無理やり笑った事もある。自分の時間を持つように、子供を預けてみたこともある。しかし、何か違和感が残ってスッキリしないのだ。
 
朝、子供がグズグズして学校に行かない。出勤時間が迫ってきてイライラ。ここはグッとこらえて一呼吸置き、何度か優しく促してみる。が、子供は動かない。それどころか、かえって固まっていく。えー! 違うやん。このままでは、仕事に遅れる。焦りから、口調は強くなり、いつの間にか怒鳴って急き立てて子供を送り出し、仕事にいく。
 
ある時は、風呂当番の仕事も宿題もせずにテレビばかり見ている娘を注意した。後でやるとの声。そのまま様子を見るが、一向にする気配がない。彼女は、まだテレビを見て、ゲラゲラ笑っている。もう寝る時間なのに。
 
イライラも限界になり、ついに大声をあげる。すると、「今からやろうと思ってたのに、そんなに怒ったら、やる気がなくなった」と人のせいにする。その態度に、我慢していた怒りが最高潮に達し、「宿題終わらないとあんたが困るんでしょ。もう寝る時間だし、いつやるの?  後っていつ! 優しく声かけてたらいい気になって! 寝不足になると、体調崩しやすくなるし。ママは仕事休めないよ。1人で家で寝ときや! それに、あんたが風呂当番せんと、みんながお風呂は入れなくて、困るのよ!」とまくし立ててしまった。
 
「どうせ、ママは私のことが嫌いなんでしょ。やれやればっかり!  召使いなんでしょ!」と金切り声で彼女は叫ぶ。
 
「もう、お風呂しなくていい! 宿題早くやれば!」と私が怒鳴ると、彼女は「やだ!  お風呂やる!」と声を荒げる。
 
あーあ、やってしまった。これ以上不毛な言い争いになるのは、ごめんだ。こういう時は、場所を変えて距離を取ればいいんだ。言いたい言葉を、ぐっとこらえて2階の寝室へ駆け上がり、ドアを乱暴にしめて布団に潜り込んだ。どちらが子供かわからないという情けない思いと悲しさや怒りが同時にこみ上げてきた。
 
子供が将来困らないよう、家の仕事を任せているつもりだ。これは間違いだったのか?  私が全てする方がよいのか?  勉強もしないよりはした方が良いし、しないと将来なりたい職業の選択肢がせばまる。子供のためと思ってやっていることは、間違っているんだろうか? 怒りと悲しみの気持ちは場所を変えてもどうにもこうにも収まらなかった。こんな時に、やっぱり笑えない。
 
怒鳴るのをやめて、無理やり笑顔を作って対応できたこともある。しかし、感情と反対の顔をする違和感と、怒りは、どこに持っていけばいいのか。子供を預けて買い物に行ってみても罪悪感が、やはり残る。アドバイスを試してみるたびに、ハッピーになるどころか、自己嫌悪にさいなまれ、気持ちは、どんどん沈んでいく。
 
Facebookで流れてきた、友人の子供たちの様子が頭にちらつく。勉強もトップクラス、何でも積極的に取り組む母親思いの子供たちが、キラキラしていて眩しすぎた。うちは、そんな風に育てられない。それどころか、子供を傷つけてばかりだ。あー、私は母親失格なのだと。
 
いつの間にか、子育てアドバイスの本は断捨離し、子育てに関連するブログやSNSも、見なくなった。子供の話も友人達とあまり積極的にしなくなり、ママ友と話をするのが苦手になっていた。
 
そんな時だ。何気なく見ていたドラマのセリフが飛び込んできた。
「子育てに後悔しない母親はいないのよ。」
え、そうなの? そうなのか。それでいいのか。
 
ひょっとしたら、Facebookの友人も後悔していることがあるのかもしれない。子育てアドバイスをする人も、みんな後悔しているからこそ、笑ってというのかもしれない。そう思うと何だか少しホッとした。
 
怒ってばかりで、失敗ばかり。いつも後悔しっぱなしの子育てだけど、それでもいいんだ。心が少しだけ温かくなった。子育ては失敗してはいけないと、気負い過ぎている自分に気づいた。隣で一緒にテレビを見ていた娘たちを思わず、ぎゅっと抱きしめた。
 
子育てアドバイスは、毒ではなく、良薬なのかもしれない。自分の未熟さを突きつけられ、苦い思いをするが、それでも後々ジワジワ効いてくるからだ。まさに良薬口に苦しだ。まだ子育てが楽しいと、正直笑顔で言える自信はない。これからも、子供達に怒鳴ることもあるだろう。落ち込むことや自己嫌悪になることもあると思う。でも、それも、まるごと全部味わいながら、子育てを続けていこう。そして、最後はみんなで笑っていられるよう、子供たちに向き合っていこう。そんな風にようやく思えるようになったのは、母親になってから13年目の夏だった。
 
 
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2017-09-10 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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