メディアグランプリ

鶴が私に教えてくれていたはずなのに


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記事:久保明日香 (ライティング・ゼミ 日曜コース)

 
 
「決して覗いてはいけません……」
そう言って鶴はふすまの向こうでせっせと機織を行った。見てはいけないと言われたのに見てしまった結果、おじいさんとおばあさんは娘を(鶴を)失ってしまった。決して、絶対にと言われていたのに……。
 
今も昔も変わらない。“決して~”、“絶対に~”と言われたその約束は守らなければならない。何かしら禁止をしている理由があるからである。しかし“ダメ”と言われると気になるということは今も昔も変わらない。
 
「絶対に起きちゃだめだよ」
と私は友人に言われた。しかし私は起き、ある現場を目撃してしまった。
それは、城崎温泉に会社の同僚5人で旅行に行った時のことだった。
 
浴衣に着替えて外湯を何軒かはしごし、様々な効能の温泉を楽しんで宿に戻ってきた。すると、部屋には既にメインの夕食、懐石料理が用意してあり、お酒も入ったことにより、女子5人でわいわいと楽しく夕食の時を過ごした。
 
満腹になり、ある者は寝転び、ある者は携帯電話でSNSをチェックし、あるものはテレビを見る。就寝までの時間を思い思いに過ごしていた時、
「あの、皆さんは明日、何時に起きますか?」
とMちゃんが聞いてきた。
 
今回のメンバーの中で一番年下のMちゃん。会社でも時間厳守でいつもきびきびと行動をしている。その性格のせいだろうか。旅行に来てもさすが、きっちりしている。
 
朝食も夕食同様、部屋に持ってきてくれるということだったので起きて布団をたたみ、少し散らかっているところを片づけなければならない。
 
「朝食が8時から始まるので1時間前の7時くらいに起きようかな」
と私は言った。
「えー早くない? 別に布団たたむだけだったら7時半とかでもいいでしょ」
「同じく。わたしもぎりぎりまで寝たい」
と続く声。結果、何時に起きるか聞かれた4人のうち、私の起床時間が一番早かった。
 
「7時ですね。それより絶対に早く起きちゃだめですよ!」
「わかった、わかった。多分疲れているから早くは起きられないよ。だから大丈夫」
そう言って布団にもぐった。
 
・・・・・・が、朝の6時に目が覚めた。
私は環境が変わると深い眠りにつけない。小さな音にすぐ反応し、起きてしまうことが多い。
しかし今日は約束の7時まで時間もあるし、布団の中でぐだぐだしていようか、そう思った時、洗面所の方で何か物が落ちる音がした。
 
見ると、Mちゃんが布団から消えている。えらく早く起きたものだ。何かあったのかな。丁度トイレに行きたかった私はそっと洗面所の方を見に行くと鏡に体半分、いや、顔半分、私の知らない人がいた。
 
「……え?」
思わず声に出して言ってしまった。するとこちらに気付いた女性が
「絶対に起きてこないって言ってましたよね?」と言いながら振り返った。その声はまぎれもなくMちゃんだったのだが、顔が、全然違った。私の知っているMちゃんは目が二重でぱっちりとしていて眉毛がシュッとしていて、顔色もよく、洋風の女の子である。
だが、今目の前にいる女性の半分は一重で眉毛が薄く、青白い顔をした、どちらかというと和風の女性である。
 
あぁ、化粧か。
 
中、高、大と運動部に所属していた私は汗をかくと化粧がすぐに取れてしまうという理由からあまり濃い化粧をしたことが無かった。友人も同様だったため、化粧によって大きく顔の印象を変えている人を見たことが無かった。
 
「誰にも見られたこと無いのに、見られちゃったなー。でも、しょうがないか」
と小さな声で独り言を言うMちゃんは少し怖かった。
朝の6時に顔の半分が洋風に仕上がっているということはきっと私が起きてくる7時に合わせてすべてを終わらせる予定だったのだろう。
 
「本当にごめんなさい。わざとじゃなくて、その……トイレに行きたくて」
すると、
「いいんです。ここだと誰かにばれちゃうリスクはあったし、部屋の外で、誰もいないところに行って化粧すればよかったんですもん。ただ、一つ、お願いがあるんですが……」
 
彼女のお願いは“化粧が終わっていない左半分の顔を見たことを記憶から抹消すること”だった。私からすると和風のMちゃんはいつもと違った魅力を持っており、それはそれで素敵だと思ったのだが約束を破ったのは私である。もちろん了承した。当然、他の3人にもここでの出来事については内緒にするように、と。
 
一旦、布団に戻ったが、1人の体に2つの顔が存していたMちゃんの姿が頭から離れなかった。
その後もMちゃんとは仲良く仕事をさせてもらっているがふとした瞬間に“城崎の洗面所であったこと”を思い出してしまうことがある。
 
「決して覗いてはいけません……」
「絶対に早く起きちゃだめですよ」
見られてしまった時、鶴は、Mちゃんはどのような気持ちだったのだろうか。約束を破られて悲しかっただろうか、腹が立っただろうか。しかしそれも聞くに聞けないし、誰にも相談もできない。
今も昔も生きていて基本的なことは変わらない。
 
決して約束は破ってはいけないのである。絶対に。
 
 
***

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2017-10-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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