チーム天狼院

さよなら、私のカメラくん。〜壊れたカメラが、3年かけて私に教えようとしてくれたこと〜


 

記事:山本海鈴(チーム天狼院)

 

カメラが壊れた。

それは、ちょうど福岡に行く日だった。
空港に向かうモノレールの中、外から差し込む光が綺麗だからと、下げていたカメラバッグから愛機を取り出した。

ちょっと、設定が明るすぎるな。昨日、暗いところで撮ったからか。
カメラの感度を調整して……あれ?

おかしい。
いつもだったら効くはずの、右左上下を操作できるメインのコントロールボタンが、うんともすんともしないのである。
致命的なのが、「決定」の操作もできないことだった。
メニューに潜って別の設定を試そうにも、そもそも「決定」ができない。
ゆえに、他の設定に変更することもできない。

モノレールの中で一人、慌てふためく。
ちょっと待て、ちょっと待て。

いろいろ押して試してみると、シャッターは切れた。よかった! 記録もできているみたいだ。
ということは、単にボタンの接触不具合かもしれない。

誤って2階の窓から落としたとか、トイレに水没させたとかそんなことは、もちろんしていない。
ちょっと前に使ったときは何の不具合もなく使えていた。
そのあと、カメラバッグにしまったものをそのまま持ってきたから、何か乱暴な使い方をしたという訳ではなかった。
壊れるようなことは何もしていなかった。

はず、なのに……。

目の前にあるのは「決定」ボタンの押せなくなった愛機、という現実である。

肩を落としながら、福岡に到着する。
早速SONYのプロカメラマンでもある店主・三浦に相談する。
そういえば前に、三浦も、カメラをメンテナンスに出していたことを思い出したのだ。

「普段の使い方に愛情がないんだよ、きっと」

開口一番、そう諭された。

「僕、今でも一つひとつのカメラ本体やレンズの袋、まだ取ってあるからね。毎回、その袋の中に一個ずつ入れて戻してる」

買ったときについていた袋……?

新しいものを買ったとき、包装なんてすぐ捨ててしまう。
外装ならまだしも、中身の、一つひとつのパーツごとを分けている袋なんて、取っておいた記憶がほとんどない。

「それくらい、丁寧に使ってるってことだよ」

愛情がない。言われてみればそうかもしれなかった。

撮影に出て、カメラを使った後、毎回メンテナンスが必要だったかもしれない。
本体やレンズを、一つひとつ、袋に入れておくべきだったのかもしれない。

愛機、とか言っている割に、愛情を持って管理できていなかったのだ。

乱暴に扱っていないから良い、とか、そういう大げさな話ではない。もっと心持ちの、スタンスの話なのだ。
「丁寧に扱おう」という姿勢が見えなかった。それが、きっとカメラに伝わってしまったのだ……。

ひとつ事が起こると、思い当たる節が連鎖的に出てくる。
たとえば、細かい機器のコードだってそうだ。
パソコン、iPhone、iPad、ポケットWi-Fi……たくさん携帯しているコードが、バッグの中で混線することがあった。
コード用のケースを導入してみたのだが、ただのポーチなのでかさばってしまう。ポーチにぶち込んだだけで、さらにその中での分け方が決まっていないのだ。

ああ、ここにもだ。ここにも、「丁寧に使う」という愛着が欠けている。
たとえ、それが、どこでも買えるiPhoneの充電コードだとしても、だ。
再利用が効くから、とかいう理由は言い訳に過ぎない。

このカメラの不具合は、きっと、私のいろんな機器の接し方への積み重ねが表出しただけのことだったのだ……。

「で、どうするの?」

「修理に出すしかないですね……」

「買ったのはいつ?」

「2017年の夏頃だったかと」

「3年前! 保証とか入ってないの?」

「お、覚えてないです……」

「じゃ、もう新しいの買うしかないな(笑)」

3年も経っているとすると、もう保証なんてとっくに切れているだろう。
修理は、高くつくかもしれないのだった。
新しいのを買うしかないのか……。

せっかく動画の撮り方も覚えてきて、どんどん撮っていこうと思っていたのに!

これからという肝心なときに、愛情が足りないと、こういうことが起こるのだ。

……あれ? そういえば。
記憶の片隅に、何かがふと蘇る。

そういえば、カメラを買ったときは京都に住んでいたときだったはず。
SONYのカメラ初心者だった私は、SONY使いの先輩が、こんなことを言っていたのを思い出したのだ。

「新しいカメラを買ったら、いつも箱ごと残してるんだよ」

そうだ!
店主・三浦の当時の言葉をもとに、買ったカメラの箱ごと、京都の社宅に残しておいたのだった!!
完全に忘れていた!!!

一縷の希望を胸に、京都の家の押し入れを開いた。

「あった……」

そこには、新品同然の、カメラとレンズの箱が残されていた。
中を開けると、個包装のビニール袋まで、律儀にしっかりと残されていた。

思い出した。カメラを買った当時、言われたままに、細かい包装のビニール袋まで、きちんと残しておいたのだった……。

さっそく、中を探してみると、神のような文字が書かれた紙を見つけた。

「3年長期保証」

購入日は、2017年6月。

まだ、ギリギリ保証期間内だ!!!

保証内で修理に出して、直すことができる!!!
万が一のときも、箱ごと新品のままで残っていれば、いい条件になるのではないか……!?

神のご加護だ!!!

言われたままに素直に、袋や箱ごと残しておいて、本当によかった……。

こんなに肩を撫で下ろすことができたのは、久々だった。

先人の教えは、素直に守っておくべきなのだ。

 

今回はたまたま、ギリギリ保証の期限内で、カメラが壊れてくれた。

これはきっと偶然ではないように思う。

物を、大切に扱う。

「どうせ代替品がすぐ手に入るから」と、小学生でも分かるようなことを、疎かにしてしまっている自分がいるように思う。

使ってまもなく3年になろうとしている愛機のカメラくんが、そのことを、保証の期限内で、最後の力を振り絞って、私に教えようとしてくれたのかもしれない。

 

拝啓、私のカメラくん。

今までたくさん新しい景色を見せてくれて、ありがとう。

全国を飛び回ったね。

去年は、とうとう一緒にヨーロッパにまで行ってくれたね。

きちんとメンテナンスできてなくて、本当に、ごめん。

悪かったのは、私だ。

それなのに、こんなことを言うのも、おこがましいかもしれない。

だけど。

まずは、元気になって帰ってきてほしい。

帰ってきたら、もっともっと大事にするからさ。

そして、落ち着いたら、一緒にまた出掛けたい。

君とまだまだたくさん見に行きたい景色が、たくさんあるんだ。

 

 


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2020-04-19 | Posted in チーム天狼院, 記事

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