コンプレックスは最強の武器
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:深澤まいこ(ライティング・ゼミ日曜コース)
「おい、のっぽ!」
そう呼ばれて、当然自分のことだと思って振り返る。もう無意識の習慣だった。
小学1年生のときから、高校3年生までの間、背の順で並ぶときは、列の一番後ろが私の定位置だった。
小学生の頃は、同級生男子から「巨人」だの「ビル」だの「タワー」だの、いろんなあだ名が付けられた。負けずに言い返すくらいの強さはあったけれど、同時に、心はしっかりと傷ついていた。男子とは、自分を傷つける生き物だと、無意識のうちに刷り込まれていった。
身長コンプレックスにさらなる拍車をかけたのも、小学生の頃だ。ある日、女友達と並んで写った写真を見たときのこと。そこには、ひとりだけ大人が紛れているように見えた。
それが私自身だと気付いたとき、床が地球の底まで抜けてしまうようなショックを受けた。
同級生の女の子との大きさの違いを目の当たりにして、私は初めて、自分の身長や容姿を恥ずかしいと思うようになった。
思春期特有の心情かもしれないけれど、私はこの時芽生えた容姿コンプレックスを、抱えたまま大人になった。
あいかわらず男の人と話すことは怖かったし、きれいに着飾る女友達と一緒にいることで、自分を卑下してしまい、居心地の悪さを感じることも多かった。
コンプレックスをこじらせて、心が内にこもっていると、人はうまく喋ることができなくなる。自分の奥底にある「恥ずかしい」とか「傷つくのが怖い」という感情が、失敗することを恐れて言葉を飲み込ませてしまうのだ。
ただひたすら、無表情の感じの悪い大きな女に成長していた。
ある夜、根暗で、愛想が悪く、まともに喋れない私にも、おかまいなしに優しく接してくれる人と出会った。
根暗なこじらせだった私は、クラブで夜遊びすることを覚えた。
薄暗い照明は、私の容姿を隠してくれるし、爆音で流れる大好きな音楽に浸れる。すべてを忘れて、自分のままでいられる、その時間が大好きだった。
毎週同じクラブに通っていくうち、社交的な女友達が、他の常連客とも話すようになっていた。その中の一人が、彼だ。
彼は同じ趣味の友達を増やしたいし、人と人を繋ぐ役割がしたい、と言って、いろんな人を紹介してくれた。
初めは胡散臭いと警戒したけれど、彼がきっかけとなって、ここから何年も何年もかけて、私は社交性を身に着けていった。
最初は、本当に怖かった。自分なんかと喋ってもおもしろくないだろう、とか、変なこと言ってしまわないか、とか。
自分の容姿を馬鹿にされているんじゃないか、という被害妄想さえ抱いていた。
そして、恐れていたことのほとんどが、私の妄想だということを知った。
自分が思うよりも、世の中の人は、優しいということを知った。
不器用な私にも、話しかけて、笑わせてくれる。
温かい人たちばかりだった。
その友人たちが、何億年もかけて凍り付いた氷山のような心を、ゆっくりゆっくりと溶かしていってくれた。
彼ら、彼女らのおかげで、私はようやく「自分自身」というものを受け入れ、自分の人生を歩き始めることができたのかもしれない。
「失敗したくない」とか「傷つくのが怖い」とか、消去法ベースで物事を選択してきた人生の舵を、「おもしろそう」とか「成長したい」とか、能動的な選択へと方向変換するようになっていった。
今まで止まっていた時間を取り戻すように、気になったことは、積極的に実行した。
その中のひとつが、オイルトリートメントだ。
疲れたときにオイルマッサージを受けることが好きだった私は、自分でもできたら良いな、という軽い気持ちで、スクールの体験レッスンを受けに行った。
レッスンは想像していたよりも難しかった。手技を覚えるのは大変だし、腰も痛い。
体力を使う、ハードな仕事。
けれど、卒業テストの後、レッスンモデルの方からの言葉が、私の中の何かを変えた。
「大きくて温かい手に包み囲まれている感覚が本当に気持ち良よかったです」
私は初めて、自分の大きな手にも、誰かを癒すことや、喜んで貰える力を持っていると知った。
ずっとコンプレックスだった身長や、肉厚の手。
それは、私の才能でもあったのだと、初めて喜びを感じた。
私はどんどんボディケア、リラクゼーションの世界に興味をもち、オイルトリートメントのほか、顔ツボや足つぼを学んだ。
そしてタイ古式マッサージと出会った。
大きな体は、ダイナミックなストレッチが得意であることを知った。
物事が動き出すとき、運や縁、タイミングはすべてが重なるのかもしれない。
2年前、私は転職のタイミングを迎え、リラクゼーション業界へ飛び込んだ。
私は、コンプレックスだった大きな体と、マシュマロみたいな手を駆使して、今日も誰かの疲れた心と体を、包み込む。
***
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