【泣き虫】二等辺三角形が書けなくて大泣きしていた私は《店長山中のつぶやき》
「ほら、またそうやって。」
こんなことを言われることはもう慣れっこだった。
わかってる。自分でも。
でもどうしても止まらないのだ。止めどなく溢れてくるのだ。
手で拭っても拭っても。
ティッシュで鼻をかんでみても。なかなかにして止まらない。
目はパンパンになるし。鼻も赤くなるし。肌もパリパリしてくるし。
止まれ!こんなことしててもしょうがないじゃないか。
なんで止まらないの。みんな見てるのに。
お願い。お願いだから止まって。
こんな思いがぐるぐるしてくる。
でも。どうしても止まらない。
どうしようもなく 涙 が溢れてくる。
そう、私はいわゆる「泣き虫」だった。
幼稚園のお迎えのバスが来た時は「お母さんと離れたくない。」一心でこれでもか!と母の服の裾を引っ張っていたし。
小学校の時は3人姉妹の末っ子ということもあって、姉と喧嘩する度に泣いていた。
「ほら、またそうやって。すぐ泣く。」
こんなことを言われることは慣れっこだった。
でも、そう言われるのも仕方ないか。と自分でも内心諦めていた所がある。
そう認めざる負えないほど、私の泣き虫の度合いは普通の人よりもいくらか度を超えていた。
小学校4年生の頃だっただろうか。
算数の授業で「二等辺三角形」書いてみようということになった。
二等辺三角形とは、三角形の中でも二辺が同じ長さであるというあれである。
その授業では、二等辺三角形をどういうものかをまず理解するために、自分で書いてみようというものだった。
本格的な授業に入る前のウォーミングアップのようなものである。
用意するものは
鉛筆と三角定規とコンパス、そして分度器。
まず、三角定規で一本線を引く。
その次に、頂点を合わせてもう一本線を引く。
その頂点にコンパスの針を合わせたら
ぐるっと回して弧を描く。
二本の線とその弧が重なりあう点をつなげれば
二長編三角形の完成である。
うん。我ながらなかなかにして美しい二等辺三角形だ。
と何個も何個も三角形を書いては、その二辺が同じ長さであることを定規で図って確かめ、にんまりしていた。
友達とも見せ合って。
なんとも楽しい授業である。
そこで先生が一言こう言った
「二等辺三角形のうちの2角は角度がおなじになるようになっています。みんな分度器で今作った三角形の角度をそれぞれ測ってみてください。」
なるほど、辺だけではなく、角度までも等しいのか。
確かに、飛び抜けた一角を除いた二角は同じ角度であるように見える。
算数って面白いな−。なーんて思いながら分度器を手に取る。
実を言えば、教科のなかで数学は一番に得意だった。
テストでも間違えることも少なかったし、
授業のはじめの方に問題を急いで解き切って、クラスのみんなが解き終わるまでの時間を悠々と過ごすことも日常となっていた。
数学には自信があった。
でも今思えば、これがいけなかったのかもしれない。
「みんな、角度は測れたかな?同じ角度だった?」
先生がクラスのみんなに問いかける。
「ホントだー!同じ!」
「おもしろーい!同じ角度にしようとしてないのに!」
「辺の長さを同じにするだけで同じになるなんて不思議−!」
教室からは次々と声が上がった。
分度器を手に、角度をメモして、その数字を確かめてみんなが歓喜していた。
私の周りで三角形を見せ合っていた友達もみんなで盛り上がっている。
「すごいねー!なつみちゃんは?どうだった?」
こう私に呼びかけた友達は、大変に困ってしまったと思う。
なぜなら私はその時 涙 を流していたからだ。
私のノートにはページいっぱいに三角形が書かれていた。コンパスの弧が書かれた2等辺三角形である。
そこに、ぽたぽたと涙が落ちる。鉛筆で書かれた三角形たちは不規則にゆがんでいく。
黙って泣き続ける私に友達は何を思っただろう。
教室の盛り上がりとは裏腹に私は焦っていた。
二等辺三角形を書いては分度器で角度を測った。書いて、測って、もう一度書いて測って。
しかし、どうしたことか、
私の書いた三角形たちは一向に二角が同じにならなかったのだ。
やり方は間違っていないのに。
辺と辺は同じ長さなのに。
何故か分度器で測ってみると、その角度は違う。
いつもは、得意なはずの算数で、なんでこんなことが出来ないんだろう。
みんなができているのになんで私には出来ないんだろう。
焦りと不安で頭がごちゃごちゃだ。
そう考えていると、
お腹の奥深くからギューっと黒いものが押し上がってきて。
喉の奥にとどまる。
それを感じる度に、私は涙を流していた。
またこれだ。
またみんなに呆れられる。
泣きたくなんかないのに。
泣けばいいと思ってるわけじゃないのに。
でもどうしても止まらないのだ。止めどなく溢れてくるのだ。
手で拭っても拭っても。
ティッシュで鼻をかんでみても。なかなかにして止まらない。
止まれ。止まれ。止まれ!
こう思うほどに、涙はどんどんと溢れてくる。
こういろいろな考えを頭のなかで巡らせている一方で、私は静かに泣く。
一度、口に弱音が出ると、そこから崩れ落ちてしまいそうで。
自分の中に作り上げた防波堤を簡単に越して溢れ出してきそうで。
ただただ、唇を噛み締めて。
泣いていた。
なんで、どうして私はこんなに弱くて、すぐ泣く 泣き虫 なんだろう。
「山中さんは悔しいのよね?」
その時、先生がこう呼びかけてくれたことを強く覚えている。
「みんな、三角形がうまく書けたかな?喜んでる子の中には完璧な三角形を書けてない子もいるんじゃないかな?でもそれでもいいやと思って喜んでるのよね?でも山中さんはそれが出来なくて悔しがってる。これはすごいことだと思うよ。一つ一つの事に真剣に取り組んで。全力で取り組んで。だから泣いちゃうくらい悔しかったのよね?」
ああ、そうか。私は悔しかったんだ。
周りができているのに出来ない自分に。
完璧にしたいのに出来ない自分に。
泣きたくないのに泣いてしまう自分に。
こんな自分を悔しいと思って、泣いていたのだ。
二等辺三角形が書けなくて大泣きしていた私は
泣き虫 で、でもそれ以上に 負けず嫌い だったんだ。
泣き虫=弱虫 そう思われてもしかたがないと思う。
でも内心は 次こそは!と、闘志を燃やしている。
全力でチャレンジしているからこそ涙が溢れてくるのだと。そう思う。
今でも、ぐっと、涙が溢れそうになる時がある。
お腹の奥深くからギューっと黒いものが押し上がってきて。
喉の奥にとどまる時がある。
でもそれは、決して 弱虫 だからではなくて。悔しさが溢れてきているだけなんだ。
泣いた後は、頭がすっかり晴れるように。
雨の後には綺麗な青空が見えるように。
存分に悔しがった後はそれをバネにして次に進めばいい。
泣き虫で、負けず嫌いな私は、
目をパンパン腫らして、鼻も真っ赤にして、肌もパリパリして
今日も一歩ずつ前に進んでいきたい。
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