ポテチを食べながら、平気でテレビを見られますか?
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:鴨川 泰(ひろ)江(ライティング・ゼミ日曜コース)
どうやら世の中には「ポテトチップスを食べながらテレビを見られる人」と「見られない人」に分かれるらしい。その事実に気づいたのは、二、三年前のことだ。
断っておくが、別にお行儀がうんぬんという話ではない。
ちなみにわたしは「見られない人」だ。いや、正確に言うと「見る」ことは出来るが、食べ始めた途端、テレビに集中出来なくなる。
──ポテチを食べる「音」が、邪魔すぎて。
バリバリ、ざくざく。
バリバリ、ざくざく。
自分の咀嚼音が両耳の中いっぱいに広がって、テレビから聞こえる音も、横からわたしに喋りかけてくるダンナの声も、この「バリバリ、ざくざく」に駆逐されてしまうのだ。
かろうじて、何かが鳴っている・誰かが喋っている「らしい」というのは認識出来るのだが、全てはバリざくのかなたへと遠ざかる。そして
「え、今なんて?」
と間の悪い問いかけをしては、ダンナの眉間にシワを寄せてしまう。いや、だって今ポテチ食べてたからさ、と言い訳しても、彼には意味不明らしく通じない。
「それはそれ、これはこれやろ?」
彼曰く、咀嚼音のような「関係ない」音は、BGMのように「聞こえてはいるけど、邪魔にはならない」ように「勝手に調整されている」という。何その便利機能! ズルいやん、わたしも装備したいやん。
調べてみると、この便利機能は【カクテルパーティー効果】とか【音声の選択的聴取】と言われる、割と誰にでも備わっているフィルターらしい。その一方で、わたしのように標準装備されていなかったり、あっても効きが今イチな人も結構多いそうだ。
何も食べていなくても、テレビ以外でも、「複数の人の話し声」や「話し声と周囲の音」が混じり合って区別がつかなくなる。走行中のカーラジオや駅の構内放送は、よほど大音量でなければ、ほぼほぼ聞き取れない。
「ただいま……で……が発生……お急ぎのところ……なお……」
ところどころは分かるのだが、肝心のところがキャッチ出来ない。電話もダメ、特に「聞き慣れない言葉」だと、何度聞き返しても聞き取れない。社会人になりたての頃は、よく電話がかかってくる人や社名のリストを作り「一番近い音」で判断していたほどだ。
家族や友だちとのおしゃべりも、一対一ならまだついていけるのだが、二人三人と増えていくともう誰が何を話しているのか分からなくなる。何度も「え、今なんて?」と尋ねるのも気が引けて、何となく場の雰囲気に合わせて「聞こえているふり」をしたことも数知れず。が、
「今、聞いてなかったやろ」
と大抵バレる。疲れるせいか、長時間人の話を聞く集中力が持たない。耳鼻科で検査をしてもらっても明確な診断は付かなかったが、自分は「耳が悪い」のだとずっと思っていた。
【APD:聴覚情報処理障害(Auditory Processing Disorder)】
という言葉を知るまでは。耳そのものではなく「脳内処理」のモンダイだったとは!
奇しくもこのAPDを知ったきっかけは、例の「カクテルパーティー効果」を調べた時だった。そして残念ながら、まだAPDについては詳しい原因も確実な治療法も分かっていないらしいと、専門家へのインタビューや当事者会のサイトで知った。
子どもの頃からわたしと同じような経験を持ち、人との会話や仕事上のやりとりなどに苦労している人は、一度調べてみることをお勧めする。前述したいくつかの例以外にも、
□横や後ろから話しかけられると、うまく聞き取れない
□字幕がないと、テレビや映画の内容が理解しにくい
□音のする方向や距離感をつかみにくい(サイレンなど)
□口頭で伝えられた情報が頭に入らない、またはすぐ忘れる
こうしたチェックリストに該当する人は、APDの可能性が高いと言われている。
聴覚障害学が専門で、長年APDの研究に携わっている国際医療福祉大学・小渕千絵教授によれば、日本ではAPDに対する理解や支援体制が遅れているのだと言う。海外では学齢期の子どもの約3%に症状が見られるという報告もあり、教授は日本も同じくらい存在すると推測しているそうだ。
わたしも小学生の頃から、真剣に「補聴器」が欲しくてチラシを熱心に読み、その金額の高さから親に「買ってくれ」と言い出せなかったのを覚えている。もっとも「聴覚」そのものの障害ではないので、役には立たなかっただろうが。
ちなみにAPDに詳しく、独自に情報サイトも運営しているミルディス小児科耳鼻科院長・亀戸小児科耳鼻科理事長の平野浩二医師は、耳に入ってくる雑音を抑えられる
【ノイズキャンセル機能付き】
のデジタル耳栓やイヤフォンを勧めている。わたしもBluetooth接続が出来る機種を持っているが、PCやスマホからの音声を聴く際、かなり快適だ。
APDであることに気づかないまま、学校や職場などでトラブルになり、自信をなくしたりうつになる人もいると、平野医師は指摘している。特に居酒屋など騒がしい店舗で注文を取らなくてはならない接客業や、雑音の入りやすいコールセンターのオペレーターなどは、かなり厳しいとも。
実はPCやスマホを通しての音声でも、zoomのような「ビデオ通話」で「一対一」なら、そこそこちゃんと聞こえることが多い。おそらく表情や口の動きで、ある程度話の流れを読み取っているのだろう。
なのでコロナ禍でリモートワークになり、仕事が「楽になった」と感じたAPDの人も多いのではないだろうか。わたしも大半が「画面越しの通話」もしくは「文章や図版でのやりとり」になったことで、聞き取れないストレスが大幅に減少している。
残念ながら、ポテチを食べながらのテレビ鑑賞はどうやっても難しいのだが、あまりバリボリ音のしないおやつにすればいいだけの話だ。食べるのはやめへんのかーい、というツッコミはナシでお願いしたい。
繰り返すが、APDは「雑音が入りにくい」静かな環境と、音声以外の、特に「目で見て分かる」情報があれば、かなりカバーできる。さらに「一対一」で「ゆっくりハッキリ」話してもらえれば、ぐっとスムーズにやりとりできるはずだ。同じ悩みを抱えている人が、一人でも多く、一日でも早く「聞き取れない」ストレスから解放されますように!
***
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