ちょっとエッチな少女小説《リーディング・ハイ》
記事:谷合美香(ライティング・ゼミ)
削除本とか、修正版とか言われる本の仲間なので、そんなにやらしい本なのかっと期待して(期待したんかい)読んでみたら、違った。
思えば大抵の発禁本はそんなにいやらしくないという事実。
そうなの、これもいやらしくなかったの。
書いてあることはセキララな女性の告白なんですけれども。
その性生活の語り方があけすけでさっぱりしているので、いっそ清々しいやーって昔はやった表現がしっくりくる。
清々しく幸せなヒロインの性遍歴を、翻訳がまた清潔に表現している。
きれいな言葉で、端正に著された「女の物語」。
好きな相手との初体験から始まって、もうヒロインが楽しんでいるのが喜ばしいくらいにきらびやかな経験を積んでいく。
そして最初の男との再会と結婚。
なにこの少女小説。
すっごい幸せじゃん。
奔放に性を謳歌している女性なんだけれども、好きな相手にはうぶな真心もあり、いつでも初めての時のように愛を捧げる。
かーわーいーいー。
こんな女の子ちょっといないよね、と羨ましくなったり。
訳者がそう思って訳したのか、原作からしてこんな女がいたらいいなあだったのかは不明ながら、彼らの紡ぎ出した「ファニー・ヒル」はそんなキラキラ少女小説だったという。
(余談ながら、訳者の吉田健一がまたすごい人で、麻生元首相の伯父さんです)
古典的で、事件もそんなになくて、むしろ牧歌的でさえある。当然、刺激は少ない。
だからこそ、抽象に彩られた性描写が光る。
昨今の刺激のつよーい小説にはない、ゆるりとした悦びが全編を蔽っている。
表紙(装丁)も穏やかなもので、タイトルとレースのような花のデザインがあしらわれているだけのもの。
シンプル・イズ・ザ・ベスト。
ファニーの生き方もまた、シンプル。
経験もないままに娼館に入り、「そういう女」と思われながらの初体験が、思いがけずお互いの心に深い愛を目覚めさせ、その後ファニーは娼婦として生計を立てていくものの、そこに「堕ちた女」といった悲哀はない。
さらに通り過ぎていった男たちのことも楽しかった思い出として回想している。
ひとりの女性として楽しく幸せに過ごしてきたとの回想録であり、「奥様」に宛てられた(往復ではないけれど)書簡小説でもあり。
読み手である「奥様」が誰なのかはもう、おわかりですよね。
私たち読者。
作者はどちらかといえば生活に困って書いたと言われているので、たくさんの「奥様」が読みたそうなものを狙って書いたのかもしれなくて、そうするとまんまと引っかかった「奥様」(未婚だけど)がここにひとりいます。
十八世紀イギリスに咲いた一輪の花が、やれ猥褻だー発禁だー「ボストンでは禁止」だと今でも世界中で物議を醸すドラマも持っている「ファニー・ヒル」。
無削除完訳版を白昼堂々、購入できる日本に生まれてよかった。
ファニーだけでなく、娼館の同業者たちもそれぞれに幸せな生活を手に入れているエンディングを思うと、語り尽くされた感もあるものの、「女性の幸せを描いた小説」であることは間違いない。
そして少女小説で不幸になる女の子はひとりもいないのだった。
めでたしめでたし。
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