実りの無い恋はやめた方がいい? そんなとき読む3冊《リーディング・ハイ》
記事:しの(リーディング・ライティング講座)
20代も半ばに差し掛かると、単純な「好き」だけでは恋愛できないのです。
最近、友達によく喝! を入れられます。
「その人、たぶん上手くいかないよ。こっちが好きなだけ時間の無駄だよ。」
「その人のことは忘れて、次行こう、次!」
自分のことをなんとも思っていない人を好きになってしまった、色々なことが合わなくて将来が見えない人、はっきり言うと結婚できるイメージが沸かない人を好きになってしまった。そんなことがあります。
私だって、なにも好き好んで片想いをしているのではありません。
好きな人と両想いになって、おうちデートしたり、喧嘩したりする楽しさは知っています。周りでも結婚の話が聞こえ出し、結婚して、家庭を持つことにも憧れます。
でも、友達にバッサリと「その人は見込みなし! 次!」と言われると、反対に諦め切れなくなってしまって、ふと、疑問に思います。
片想いって、本当にただの時間の無駄なのでしょうか?
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そんなときに、まず手に取るのは、『尾崎翠 ちくま日本文学』(筑摩書房)です。
代表作の「第七官界彷徨」は、一つ屋根の下で暮らす兄妹、従兄の物語です。
精神科医の長男・一助が語る分裂心理の話や、農学徒の次男・二助が研究して綴る蘚の恋愛の記録など、不思議で心惹かれるところはたくさんあります。
しかし、この作品の一番の魅力は、登場人物がみんな揃って片想いをしているところ! と思っています。
自分と話してくれない患者に、困った困ったと言いながらも恋をしてしまっている一助。
泣いてばかりいる女の子への失恋を引きずっている二助。
なんだかふらふらしているけれども切ない恋をしている従兄の三五郎。
そして恋に破れ恋を見つけ、よく泣く妹の町子……。
それぞれの思いが一方通行で相手に届いていない、そんな様子はちょっと狂気の香りもしてきそうです。
不思議な話の中でも、片想いの切なさがひしひしと伝わってきます。片想いは相手に届かなくて、やっぱり悲しいと思いながらも、片想いを集めて突き詰めた、なんともいえない味わいを感じます。無駄だと言われた片想いも、ちょっとは肯定できるような気持ちになれるかも……?
「第七官界彷徨」以外の作品も、静かで切ない片想いが多く描かれていて、寂しいときには頁をどんどんめくってしまいます。
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最近読んだ本の中で、大きな衝撃を受けた本があります。
ノンストップの驚き、共感、悲しみ……。なんど電車の中で声をあげそうになったことか。
川上未映子『すべて真夜中の恋人たち』(講談社)です。
人付き合いが苦手な主人公の冬子が、カルチャーセンターで出会った三束という男性に恋をしているシーンは、うんうん! とうなずくと同時に、なんで! という驚きの繰り返しでした。
三束さんからのメールの返事はこなかった。わたしはひどく落ちこみ、何かをやってしまったことによる後悔よりも、しなかった後悔のほうが応えるというよく耳にする話は本当じゃないんじゃないかと、そんなことをぼんやり思ったりした。
携帯電話を両手を包んで胸におき、それからまたぎゅっとにぎり、さっきの三束さんの声のぜんぶを何十回も何百回も頭のなかでくりかえしながら、目を閉じた。
好きな人とメールをしたり、電話をしたり、そんなことがあったときの気持ちの高ぶりや行動がストレートに胸に届きます。
三束さんからは何の連絡もなかった。電話もかかってこなかったし、メールも何も届かなかった。何を期待しているわけでもなかったけれど、鳴らない電話や届かないメールはそれだけでつらかった。
この辛さ、分かる……。そう思った続き、
わたしは電池のきれた電話を充電せずにそのままにして、引き出しの中にしまった。
え? え? 連絡来るかもしれないのに、電池切れたままにしておくの?
冬子の大胆な行動に驚きながらも、本当に人を好きになるという熱量の大きさや、片想いの悲しいまでの独り相撲の感がひしひしと伝わってきます。
なんで片想いって、一人で勝手にしているのに、辛いのだろう……。共感と動揺で胸が痛くなります。
冬子と三束の恋の行方はここでは書きませんが、どんな恋にもその人にとっての意味や重みがあるのだな、と思わせてくれる小説でした。
他の登場人物も個性豊かで、行動や台詞に考えさせられるところが多く、心にグサグサッと刺さります。心がヒリヒリするけれども、こんなに胸が痛い小説初めてだけれども、きっとこれからも何度も読み直す一冊になると思います。
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やっぱり片想いって切ない……と悲しさに浸るようなな本ばかりあげてしまいましたが、心が明るくなるような本も読みます。
俵万智『あなたと読む恋の歌百首』(文藝春秋)です。
俵万智さんが恋愛に関する歌を一首挙げ、その歌についての読み方、恋愛観を語ります。
初めて読んだ短歌の本がこの本でした。
短歌ってこんな素敵なものなのか! と知ると同時に、俵さんの素敵な読み方、恋愛に対する考え方に、胸がときめきました。
観覧車回れよ回れ想ひ出は君には一日我には一生 栗木京子
回れよ回れ、のところ、なんだか楽しそうなのに、君と私の心の温度差がつらい……。
俵さんは、「同じ体験でも、二人にとっての重さが全然違うということが、恋愛では(特に片思いの場合)よくあることだ。」と言った上で、「「回れよ回れ」という勢いのある表現からは、せめて今日一日は、せいいっぱい彼との時間を充実しきりたい、という切実な思いが伝わってくる。」としています。切ないけれども、俵さんの優しさや愛を感じます。
恋の歌百首なので、片想いの歌だけでなく、両想いの幸せな歌、なんとなく心がすれ違ってしまう歌、愛の偉大さを感じる歌など、さまざまな歌が紹介されています。
どの歌に対しても、俵さんの読み方、まなざしが優しく、恋愛について色々考えさせられます。
そして、反省させられます。
私、全然恋愛のこと分かってなかった! 考えがぬるかった! と。
恋愛って、無駄な片想い、素敵な両想い、なんて簡単なものではないのだ、よく分からないけれども! といつもこの本を読むたび実感させられます。
大切な「あなた」と読むのも良いけれども、一人で読んでいても、俵さんと読んでいるような、そんな素敵な気持ちにさせてくれる一冊です。
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……この3冊を読んで思います。
片想いだから、見込みがないから無駄というわけでもなく、両想いだから万時OKというわけでもなく、恋愛って答えがないな、と。
友達にバッサリ切られる片想いですが、もしかして、私は片想いに逃げてしまっているだけ? それって、恋愛に向き合っていないのでは? なんて反省をすることもあります。
恋愛って難しい。
簡単に答えが出ない、でもそれがいいのかも。そう思わせてくれる3冊です。
本
・尾崎翠『尾崎翠 ちくま日本文学』筑摩書房
・川上未映子『すべて真夜中の恋人たち』講談社
・俵万智『あなたと読む恋の歌百首』文藝春秋
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