他人を変えたければ、ゴリラの顔真似をしなさい! オカマが教える筋トレとカクテルと人生の極意。《リーディング・ハイ》
記事:おはな(リーディング&ライティング講座)
「一人くらい、わたしの全部を知ってくれている人がいたっていい。それがゴンママなら、言うことはない」
あー、わたしもだ。わたしもそう思ってやまない。
ゴンママが近所のトレーニングジムにいてくれたら。
歩いて帰れる距離に、ゴンママが営む「スナックひばり」があったら、どんなにいいだろう。
仕事で嫌なことがあったら、好きな人に振られたら、満員電車で足を踏まれたら……全部ゴンママに聞いてほしい!
それから、仕事で褒められた時、好きな人ができた時、道端に咲く花がキレイだった時……そんな時もやっぱりゴンママに聞いてもらいたい。
ねぇ、ゴンママ。どこにいったら会えるかな。ゴンママがいたらいいのにな。
むしろ、ゴンママになりたい。わたしはゴンママになりたい。
そんなこと言って、「バカ言ってんじゃないわよ!」って、背中を叩いてほしい。
その叩き方があまりにも強くて、痛くて、泣き笑いをする。
そんな日々を過ごせたらいいな。
ゴンママは、オカマだ。
しかも身長は2メートルを超えるムキムキマッチョ。
45キロのダンベルで二の腕を鍛えながら、体をクネらせ、下ネタを連発する。
ゴンママは、誰よりもみんなに愛されていて、誰よりも孤独。
人一倍傷ついているからこそ、みんなの苦しみがわかる。
「大事なことほど小声でささやく」は、そんな、スナックひばりを営むゴンママと、五人の愛すべくサイテーなトレーニングジム仲間との物語。
ゴンママのジム仲間は会社員もいれば、シャイで生意気な高校生やスケベな社長などなど。
どこにでもいそうでいなそうな、不器用で憎めない個性的なキャラクターばかり。
きっとこの中に自分が紛れても違和感なく、サイテーな仲間の一員になれるだろう。
ゴンママは、みんなの表の顔も、傷ついて隠す本当の顔も、全部優しく抱きしめてくれる。
いや、違う。ジョリジョリのヒゲを押し付けながら、ゴリゴリにハグをしてくれる。
暑苦しいほどのゴンママの愛が、みんなの傷を癒し、ピシッと前に向かわせてくれる。
ジム仲間の一人、男を片っ端からメロメロにしてしまうセクシー美女の井上美鈴、ミレイちゃん。
彼女には秘密がある。彼女は、決して誰にも職業を明かさない。
ただ、ゴンママだけは知っている。彼女が何を抱え、何に苦しみ、何を求めているか。
ストレス発散のためにジムで無理なトレーニングをしようとし、右手の人差し指を骨折したミレイちゃん。彼女を励まそうと、ミレイちゃんの家にやってきて、ご飯を作ってあげるゴンママ。
そんな二人のやりとりが、たまらなく好きだ。
「ミレイちゃん、あんた、指を怪我したからって、ボケっとしてないで手伝いなさいよ」
「え、わたし何をすればいいの?」
「誰かがギャグを言ったらツッコミを入れるとか、自分の過去の笑える恋愛話を暴露するとか、いくらでもやれることはあるでしょ」
わたしはハッとした。このやりとりをすぐに大好きになったが、同時に胸にグサグサと刺さるものもある。
傷ついたり、つらいことがあるからと言って、何もしなくていい言い訳にはならない。
それに、何かを失ったり、足りなかったとしても、やれることは必ずある。
ミレイちゃんはこの時、指を怪我することで、絶対絶命のピンチに立たされていた。
仕事を失うかもしれない。人生ダメになってしまうかもしれない。
だからこそゴンママはミレイちゃんを励ましに家までやってきた。
わたしだったら「ありがとう」って、ジーンとしながら、みんなを眺めているはずだ。
助けに来てくれた仲間達を見つめてうっとりしながら、悲劇のヒロインを気取るだろう。
だけど、そんなことは、ゴンママは許さない。
「あんたわたしより美人じゃないんだから、もっと気をきかせなさいよ!
黙って突っ立てたら意味がないのよ!」と、愛の鞭をピシピシっと打ってくる。
ゴンママは全部わかっている。
相手がどんな思いでいるか。どうすれば、どっちの方向に進んでいくのか。
それを分かった上で、その人に必要な愛の鞭を選んでいく。
時には筋トレを例えに、時には下ネタで、そして時にはカクテルを添えて。
だからこそ、秘密を抱えるミレイちゃんも安心できる。
「一人くらい、わたしの全部を知ってくれている一人くらいがいたっていい。
それがゴンママなら、言うことはない」と思うのだ。
そうやって、ゴンママはみんなに愛されている。
例えゴンママも、人には言い知れぬ孤独を抱えていたとしても、そんな彼女のことを丸ごとみんなが愛し、必要としている。
以前、わたしがフィリピンに暮らしていた頃、ボランティアの参加者に言われたことがある。
「あなたみたいになりたいって、うらやましいって思った。
でも、昔先生に言われたんだ。誰かみたいになりたいってのは、失礼なことだって。
見えないところで努力をして、涙を飲んで、その人の今がある。
その人になるなら、その苦しみもすべて背負わなければならない。
それを全部すっとばして、ただうらやましいっていうのは、失礼なことだって。
だから、ただあなたみたいになりたいって羨むんじゃなくて、まずは自分で努力を重ねていこうと思う」
それは恐らく、彼女がわたしに向かって言いながら、彼女自身に言っていた言葉でもあると思う。
だけど、わたしの心の中にも何年も残っている。
わたしもすぐ「いいなー。あの人みたいになりたいなー」と思うからだ。
その人の過去を背負う気なんてさらさらないのに、その人が努力をして手に入れたその結果だけを横取りしたいのだ。
だから、わたしがゴンママになりたい、というのも、ただの戯言であって、到底無理な話。
それでもあえて、わたしはゴンママになりたい。
ゴンママのように心を鍛え、愛すべくサイテーな仲間に囲まれながら、くだらなくて馬鹿馬鹿しいことにいちいち爆笑しながら、全力で生きていきたい。
この小説には、人生を輝かせるための考え方がたくさん詰まっている。
さらに、どうすればそれを実行できるかも、教えてくれている。
例えば、「他人を変えたければ、まずは自分を変える」
そのためには、ゴリラの顔真似をして、しかめっ面の相手を笑わせる。
「ありのままの自分をさらけ出す」
そのためには、「ふんぬっ」と鼻息を荒くしボディビルダーのようにサイドチェストでポーズを決める。
指を怪我して、料理ができないなら、人を笑わせる。
筋トレが停滞してきたら、スローなトレーニングをする。
親孝行したければ、実家に帰ってお母さんの手料理を食べて喜ぶ。
巨漢なオカマは、いつも小声で大事なことをささやいてくれる。
「あなたは大丈夫。こうしてみたら。きっとうまくいくわよ」
ゴンママはいつだって愛を持って、丁寧に説明してくれる。
そして何より心に刺さるのが、
カクテル言葉と一緒に出してくれる、あなたのためだけのカクテル。
これを飲めば、心も潤い、また明日から頑張ろうと思える。
あー、こんなバーが近所にあったら、絶対に通ってしまう。
傷ついた人ほど、何かを失ったつらさを乗り切れていない人ほど、
染みて元気が湧いてくる物語。
この本を通して、わたしはちょこちょこ「スナックひばり」に通おうと思う。
そしていつかわたしも、誰かと理解しあい、あの人に理解してもらえるなら言うことはないと思ってもらえる、そんな大人の女性になりたい。
「大事なことほど小声でささやく」森沢明夫、2015年、株式会社幻冬舎。
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また、直近の「リーディング&ライティング講座」に参加いただくことでも、投稿権が得られます。
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