大竹しのぶになら、命と財産を奪われても惜しくない。「男を騙す女」と「男に騙される女」本当に幸せになれるのは、どっちだろう。《リーディング・ハイ》
記事:おはな(リーディング&ライティング講座)
この「世界」には、二種類の女がいる。
「男を騙す女」と、「男に騙される女」だ。
同じ女なのに、両者は相容れない。天使と悪魔。常に対立している。
騙される女は、一方を「悪魔」だと叫び罵るが、騙す女は男の前では天使にも化けられる。
騙される女は、いつだって「世界」は理不尽だと声高に叫び、
騙す女は、あなたさえいれば「世界」はいつでも美しいと甘く囁く。
騙せる技術を持つ女は「勝ち組」にのし上がり、
それなら騙される方がマシだと試合を放棄する女は「負け犬」へと堕落する。
負け犬と化した騙される女は、ありのままの私で愛されたいと涙を流し、
勝ち誇ってほくそ笑む騙す女は、ありのままの男を愛でる術を知っている。
絶望的なのは、
「騙されていると知りながらも、騙され続けていたいんだ」という、男の本音だ。
男は女に正義感なんて求めていない。
ただ、夢を見させてほしい。
それが例え幻だとしても、いつか覚めるとわかっていても。
結果、命と財産を奪われたとしても、
いい夢を見られるなら、それでもいい。
だけど。
「本当に欲しいものは、手に入らない」
男を騙し、すべてを手に入れても、結局、心は満たされない。
ならばいっそのこと、騙されてしまおう。
そう思っても、最後は一人。
愛する男も去った後は、そこには何も残らない。
男を騙す女も、男に騙される女も、結局は報われない。
だとしたら、女はどうやって幸せになるのだろうか。
どうしたら、「本当にほしいもの」が、手に入るのだろうか。
「……前でございます。どなた様もお忘れ物ない様、お気をつけください」
無機質なアナウンスにハッとして顔を上げた。
本に夢中になっていて、気づくとそこは降りるべき駅だった。
慌てて電車から駆け下りる。
プシューっと扉が閉まり、
いつもの様に電車は遠ざかって行った。
見上げると、
ホームの向こうには都会の中の小さな森が見える。
闇に覆われた緑の向こうには、駅ビルのネオンが今夜も光っている。
都会の夜空にも、かろうじて小さな星が見える。
駅前には、若いカップルが何組か歩いている。
女の子は少しだけ彼を見上げ、はにかんでいる。
口数少ない男の子は、しっかりと彼女の手を握っている。
あぁ、よかった。
現実の「世界」は、爽やかで軽く、あたたかい。
どうしてだろう。
本来なら、今夜はそんな気分で帰ってくるつもりだった。
最近みんなが夢中になっている、あのアニメを見るつもりだった。
美しい風景に心を奪われ、若い2人に胸キュンすると話題の、その作品を観ようと思っていた。
ところが、だ。
仕事終わりの都内の映画館は、すでにどこも完売御礼だった。
「えー、気分はもう映画モードなのにな」
そこで、会社からもアパートからもそう遠くなく、
それでいて面白そうで、スクリーンに近すぎない席が空いている作品を検索した。
あ。
『後妻業の女』
そうだ。これ、面白いって聞いて見たかったんだ。
ちょうど、一番後ろの席も一席空いている。
途中本屋さんで原作の小説を買い、映画館へと向かった。
場内は、想像以上に混み合っていた。
みんな、胸キュンからこちらに流れてきたんだろうか。
前の席には、淡い水色と黄色の花柄のワンピースを来た女の子が座っている。
うん、きっとそうだ。
この子はまさか、お爺さんを殺して財産を根こそぎ奪う女の話を、観に来たわけでは、ないだろう。
私も、そうだった。
そうだったはずなのに。
観終わった後、頭の中はすっかり「騙す女」のことでいっぱいだった。
なぜだろう。
男を騙し、命を奪い、金を自分の物にする極悪非道なその女を、
「大竹しのぶ」が演じると、魅力的に見えて仕方がない。
キュートなのだ。
やってることは卑劣なのに、なぜだかキュートに見えてしまう。
彼女に夢を見させてもらえるのなら、命と財産と引き換えにしても惜しくない。
騙されているとわかっていながらも、騙され続けてみたい。
そんな気持ちにさせられてしまう。
この作品の「世界」の中では、
「男を騙す女」が魅力的に見えてしまう。
それは「悪」だと正義感を振りかざしても、そこには魅力を感じられない。
もしも人生が3回くらいあるならば、1度くらいあんな人生も味わってみたい。
ついつい、そう思ってしまうのだ。
それくらい、大竹しのぶが演じる「騙す女」は魅力的で、キュートで、思わず応援したくなってしまう。
だけど、現実の「世界」で、それをやるわけにはいかない。
そんなことをしても、幸せになれるわけがない。
きっと、「本当に欲しいもの」は、手に入れられない。
もしも女性を「男を騙す女」と「男に騙される女」に分けるとするならば、
私は断然後者だろう。
そもそも男を騙せる容姿も技も兼ね備えてはいない。
正義感を振りかざし、「そんなのズルだ! 悪だ!」と言うしかないのだ。
だけど、男女の関係において、女が男を騙そうとするのは、そんなに悪いことなのだろうか。
画面越しの「大竹しのぶ」を見ていると、ついそう思ってしまう。
そもそも「騙す」と考えるから、いけない。
「騙す」のではない。
目的地に到達するために、男を誘い、導くのだ。
いわば「騙す女」は、男に「地図」を持たせる。
「私はここに行きたいの」と伝え、男に主導権を握らせているように思わせながらも、
目的地に到達出来るよう、あらゆる手段で錯覚を起こし、男を導いて行く。
だからこそ、ある程度ゲームを楽しんだら、飽きてしまう。
次の「目的地」を探しに、次の男へと去って行く。
反対に「騙される女」は、男に「ナビ」を求める。
「あなたの行きたいところに連れて行って」と、すべてを男に委ねるのだ。
自分では地図も意見も持ちやしない。ただただ男におんぶに抱っこで着いてく。
目的地に到達できなくても、目的地が期待はずれでも、
「あなたと一緒にいれるなら幸せ」と笑っている。
そんなの、疲れるし、邪魔で仕方がない。
結局、「騙す女」も、「騙される女」も、幸せには辿りつけない。
「本当にほしいもの」は、手に入れられないのだ。
でも、そもそも「本当にほしいもの」って、何なんだろうか。
「本当にほしいもの」って言われるから、なんだかそんなものがある気がして必死で探してしまうだけで、それはただの妄想にすぎないのでは、ないだろうか。
手に入れたいものも、幸せも、手のひらを見つめれば、見えてくる。
自分はすべて持っている。
結婚していても、独身でも、こどもがいても、いなくても。
毎日が幸せで、その中で起こる1つ1つが、有り難いものなのだ。
「本当に」とか言われるから、慌ててキョロキョロ探してしまうだけで、
「本当にほしいもの」は、「幸せ」は、もう、誰もが手にしている。
だから女性は、「騙す女」になる必要も、「騙される女」になる必要もない。
大好きな人と車に乗ったら、自分が地図を見て目的地に一緒に向かえばいい。
車を降りたら彼に地図を持ってもらい、2人で一緒に覗き込みながら、前に向かっていけばいい。
その過程の1つ1つが、幸せな時間で、そこには「本当にほしいもの」が、溢れるほどに詰まっている。
騙すことも、騙されることもなく、すべての女性は、キュートだ。
ありのままで、そのままで幸せに生きているだけで、魅力的なはずなのだ。
現実とかけ離れたこの作品を観て読んで、そんなことを考えた。
それにしても、大竹しのぶの太ももは、恐ろしいほどに美しかった。
顔が映らなければ、あれは若い女優さんだと、疑わずにいたままだろう。
60歳を目前にして、あんなにも美しくいられるなら、年齢を重ねることも、楽しめるかもしれない。
これから食欲の秋がやってくる。
私の場合は男性よりも、自分自信を騙して、食欲を落とすしかない。
あ、そうだ。
秋は、読書の秋でもある。
本を、たくさん読もう。そして夜になったら、夜空を、見上げよう。
………
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