僕は20年ペットでいる『ウナちゃん』
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:Pauleかおり(ライティング・ゼミ6月コース)
「うわー!!! ここはどこだい?」
「おいおいぶつかるじゃねーか。あっちへいけよ!」
「こっちだって嫌だよ。狭くて身体がもつれそうだー」
僕たち、今まで生活していた所から違うところへ移されたらしい。
いっぱい身体を動かしているのに、全然風景が変わらん。
それに壁にぶつかってもふんわりしてねーか?
おまけに砂利もない。
ピーヒャラ、ピーヒャラ、ドンドン、ドンドン。
笛やら、太鼓の音で、いつもと全然違う空気で、賑やかだ。
「さあ、こっちのビニールプールの中では、鰻のつかみどりやってるよー」
キャーキャー黄色い声、やんちゃな子たちの騒ぐ声、大人が注意する声、全部ミックスして、こりゃ騒音レベルだ。
ここは都内文京区の小学校。今日は年に一度の学園祭。
「ここにあるどんな道具を使ってもいいから、鰻を捕まえてねー。とった人は鰻のお持ち帰りだよー」
並んでいる道具は、おたま、熊手、トング、菜箸、軍手などだ。
「もちろん素手でもOKだよー。さあ、勇気ある諸君、鰻の掴み取りしていかなーい?」
「おい、僕たち、いよいよ終わりの時が来たのかもしれない」
ふと水面の向こうに目をやると、人間の子供たちが何人も覗き込んでいる。
バシャーん!
チャポン! チャポン!
「やばいぞ、こいつら金属系のもので身体を刺してきやがる」
「早く逃げるんだ!」
僕たちうなぎ仲間の間では、金属を目にするとおしまいだと教えられていた。
とはいえ、いつもとなんか違う殺気を感じる。
こんなにいつも賑やかだっけ?
油断している矢先、
「うわー、なんだ、なんだ!」
やんちゃな子たちの手が、次から次に水に入ってくるではないか。
「アチー!! おーい、助けてくれー」
一匹の仲間が、人間の手にガバッと掴まれてしまった。
僕らは、人間の手に触れると、大火傷してしまう。
全身に力をこめて、必死で熱さから逃げようとしてる仲間が見えた。
でもみんな、助けることなどしない。
一斉にするすると逃げまくった。
それにしても今日はやけに疲れる。
落ち着け、少し整えよう。
あ!
次の瞬間、僕は9歳の男の子の手に掴まれてしまった。
「誰か、助けてくれー」
僕のいるところから波紋のように、みんなが去った。
「みてみて! うなぎ捕まえたよ」
狭い透明のビニール袋の中から、僕は声のする方を見た。
「すごいじゃない。よく捕まえられたね」
どうやらこの男の子は、母親らしき人と話をしているようだ。
「手で捕まえたんだよ! ね〜、うちで育ててもいい?」
こうして僕の入ったビニール袋は、ゆらゆら振られながら、2人の家にお持ち帰りされたのだった。
男の子はゆうちゃんと呼ばれていて、パパさんとママさんの3人の家だった。
僕は「ウナちゃん」 と名付けられ、この日からどうやらここの家の一員になった?
そもそもゆうちゃん、あの時「育てる」 って言ってたよな。
死ぬ前の儀式か?
そもそも捕まると命はないって聞かされていた僕にとって、今のこの状態が未知すぎて怖い。
それに、今不快だ。息も苦しくなってきてる。
いや、お腹も空いた。
そうこうしていると、少しだけ広いところに移され、翌日にはもっと大きな透明の四角いものに移された。
ブクブク気泡が身体に当たる。なんか居心地が良くなってきてるぞ。
それに、僕が大好きな砂利がある。
ここ数日なかっただけに、思いっきり潜ってみた。
うーーん、これこれ! これでよく眠れるよ。
毎日、ゆうちゃんが食べ物をくれる。
透明なガラス越しに見えるゆうちゃんの顔が、やたらデカくて、時々びっくりする。
「あ、ゆうちゃんか」 安心する。
次の瞬間、乾燥した丸っこい粒状のものが数粒降ってくる。
正直、なんか食った気がしない。
これまで食べていたものとはだいぶ違う気がするけど……。
あれから1年くらい経っただろうか。
「ただいまー!」
あ、ゆうちゃんだ。今日はご機嫌な声がしてるぞ。
「みてみてー。学校でもらってきたの」
いつだったか僕がここへ連れてこられた時と似たようなビニール袋が見える。
「これも育てる!」
「えーーー?」
ママさんの大きな声がするや否や、ドボドボーーー!
水と共に小さい魚たちが、僕の部屋に舞い込んできた。
「え? 一緒の水槽に入れて大丈夫なの?」 ママさんが心配そうに話している。
「分けたほうがいいだろうね。でも次の休みまで水槽は買いに行けないから、ちょっとこのままで我慢してもらおう」 パパさんは呑気に言った。
それは、僕の身体の10分の1よりもっと小さいメダカちゃんたちだった。
毎日、毎日、僕は仲間ができた嬉しさで、大はしゃぎしていた。
日中は、ちょこまか動くメダカちゃんたちを追いかけたり、戯れるだけで、元気になる。
なんだか、眠っていたエネルギーが湧いてくるようだ。
夜になると、僕は砂利の中から、メダカちゃんたちが幸せそうに眠るのを眺めている。
この時間がまた最高にハッピーなんだ。ドキドキして目が冴える。
どうしたんだ、オレ?!
数日後の朝だった。
「ちょっとーーーーー! メダカの数減ってない?」 ママさんがでかい声あげて叫んでる。
パパさんは相変わらず呑気だから、気のせいだと言ってくれている。
ゆうちゃんが、「あれ? なんか減ってるかも?」 お菓子食べながらいなくなった。
最近感じるんだ。外からじーっと見られている気配を。
ぼんやり水に浮かんでいる時なんて、まじびっくりする。
アップになって見えるママさんの顔が怖すぎる!
「僕じゃないよ。僕は一緒に過ごせる仲間ができて本当に嬉しかったんだから」
だけど、僕も変だなって思ってる。
毎日、一匹づつ? いなくなっている?
「わかったのよー!
ウナちゃんったらさ、夜になると、人が変わったように、ギラギラした目でメダカを……
抜き足差し足で、音も立てずに近づいて、ぱくっ! よ」
ついに、感の鋭いママさんに僕の深夜行動を暴かれてしまった。
そして、一週間もしないうちに僕はまたひとりの世界になってしまった。
一瞬だったけど、燃えたあの時間は僕にとっては大きな宝物だ。
嬉しくて、恋しくて、一緒にいるだけで幸せだった。
でも暗くなると自分でも制御できない下心が、僕をそそのかす。
恋しすぎただけ。一つになる喜びは天にものぼる幸せだった。
僕のアニバーサリー。
あれから20年、ゆうちゃんはいなくなったけど、まだ、パパさん、ママさんと一緒にいる。
透明な四角の入れ物の角に身体を添わせて水面に上がると、ママさんは「ウナちゃんもお腹すいたの?」
って、20年前と全く同じ乾燥した丸い粒の餌をくれる。
あのワクワクが止まらないアニバサリーはいつくるのかな?
ゆうちゃん! 早く連れてきて!
***
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