【口下手DJが眠れないあなたに贈る読むラジオ】山口絵理子さんと行列店の担々麺が教えてくれた夢を叶える為に必要なこと〈星降る夜に一冊の本を〉《リーディング・ハイ》
記事:木村保絵(リーディング&ライティング講座)
ピッピッピッピーン
今夜も軽快なジャズピアノの音色が、番組の始まりを告げる。
久しぶりの晴れだ。ここからは夜空も夜景もよく見えている。
――時刻は午前0時を回りました。
口下手DJが眠れないあなたに贈る読むラジオ。
星降る静かな夜、あなたの願いを叶えてくれる一冊の本を、今夜もお届けします。
今宵はいかがお過ごしですか、DJおはなです。
お馴染み感たっぷりなスタートですが、今夜はまだ二度目の番組です。
あはは、なんせ口下手なもので、お許しを。
あー、夜遅い時間はなんだかお腹が減ってくるなというあなた。
どうぞ、美味しい麺でもズルズルしながら、お付き合いくださいね。
さて、それでは今夜もメッセージのご紹介です。
こちら、ラジオネーム白ぶどうのお茶さんです。
「DJおはなさん、こんばんは。
今日は私の悩みを聞いてほしくて、メッセージを送りました。
私はいつも何をやっても中途半端です。
社会人になってせっかく夢だった職業に就けたのに、最後まで頑張りきれず、途中で諦めてしまいました。
それからも、自分なりに頑張っているつもりではいるのですが、いつも辛くて逃げてしまい、中途半端なままで、何かを成し遂げたことがありません。
それに私、性格がきついんです。怖がられたり、嫌われたりして、周りの人とうまくやっていけません。本当はいつもニコニコ穏やかに過ごしたいのに、納得がいかなかったり、悔しいことばかりで、イライラしてしまいます。
おはなさん、どうすれば最後まで諦めずに夢を叶えることができるでしょうか。
そして、周囲の人とも仲良くやっていくことができるでしょうか。
私の読むべき本を教えてください」
白ぶどうのお茶さん。うーん、だいぶ悩んでますね。つらいでしょうね。
きっと、自分にも他人にも厳しくなって、心の中も、日常生活も、どんどんどんどん、自分の居場所を狭めてしまって、苦しくなっちゃっているんだろうな。
「私の読むべき本」って時点でかなり肩に力が入ってるもんね。あはは。
なーんて、私もいつも同じことを悩んでるから、とっても、とってもわかる気がするんです。
キラキラした素敵な物を見つけると、胸がドキドキして。
あー、自分もそれをやりたい! そうなりたい! ってワクワクして。
なのに、ゴールが高すぎて、手が届かなくて、頑張ってるつもりなのに全然近づけない。
結局途中で息切れしちゃって、一度足を止めたら、もう戻れなくなっちゃって。
そんな自分はダメだ、何をやってもダメなんだって。そうやって自分を責めて、落ち込んで。
それなのに、そんな自分なのに、手を抜いている人を見るとイライラしちゃう。
いやいや、できるはずなんだからやりなさいよ! って攻めてしまう。
逆に頑張っているのに出来ない人を見てもイライラしちゃう。頑張れば報われるって証明してよ。
頑張ってもダメだなんて、私に見せないで! って。
で、そうやってイライラしちゃう自分は最悪だって、また自分を責めて。
結局苦しくなっちゃって前に進めなくて、一人で泣いて、お酒を飲んで。
あ、それは私だけか。あはははは。
頑張っても頑張っても手が届かない。
笑顔になりたいのに、歯を食いしばって厳しい顔をしてばかり。
やりたいことができなくて、なりたい自分になれなくて。
苦しいよね。しんどいよね。私はいつも悔しい。
だから、白ぶどうのお茶さんの気持ち、わかる気がするんです。
なので今夜は、私が最近度肝を抜かれた本を紹介したいと思います。
「途上国から世界に通用するブランドをつくる」を企業理念に奮闘されています、マザーハウスの代表山口絵理子さんの著書『裸でも生きるーー25歳女性起業家の号泣戦記』です。
ベストセラーなので、もしかしたらもう読んでいるかもしれませんね。
私は今回文庫版を読んだんだけど、本自体は2007年に出版されています。
もう9年も経っているんですね。
実は私、今になってこの本を読んで、すごく後悔しています。
もう、土下座して謝りたいくらい。
山口絵理子さんに。
この本ね、ずっと読むのを避けていたんです。
「どうせ、キラキラサクセスシンデレラストーリー」でしょ、って。
「タイトルにインパクトあるだけで、中身大したことないんでしょ」って。
うわー、嫌な女! ですね、我ながら。
と言うのも、この本が出版された2007年、私はフィリピンにいて、こどもの支援活動に携わっていました。山口さんと同じように、「途上国」で自分の出来ることを、模索してたんです。
でも、なかなか上手くいかないことばかりで。
純粋な子ほど傷ついて、一生懸命な子ほど辛い思いをして。
毎日毎日やりきれなくて。無力感ばかりで動けなくなって。
そんな時に、山口絵理子さんの存在を知って。
正直に言うと、悔しかった。
メディアにも大きく取り上げられて、「支援」に留めずちゃんと「ビジネス」として成功させていて。
私だって頑張っているのに。この子達だって、幸せになる権利があるのに、って。
もし私が山口絵理子さんだったら、なんて、考えたくないのに、ふと考えてしまう。
自分じゃだめなんだ、自分じゃない人が来たほうがよかったんじゃないかって。
そうやって毎晩毎晩、ベッドの中で歯を食いしばって泣いていた。誰にも聞こえないように。
だからね、どうしても読めなかった。知らないままでいたかった。
でも、国際協力の仕事から離れて随分経った時に、面白い本はないかなーって探していて、
ある人に「何かおすすめの本はありますか」って聞いたの。そしたら、この本を紹介されてね。
ドキッとした。
んーん、ズキっとした。
あぁ、やっぱり読むようになっているんだなって。
どんなに避けても、向き合うようになっていることって、あるんだなって。
それでもすぐには読めなくてしばらく悩んで、ようやく決心して。
どうせなら! って、山口さんの本3冊全部買って読んだの。
そしたらね。もう、頭を思いっきり後ろから叩かれた。
鉄の真っ黒のかったーいフライパンで。軽い脳震盪起こしそうなくらい、めいっぱい。
全身に衝撃が走って、ぐわんぐわんして、胸が苦しくなった。
読んでわかった。
「どうせ大したことない」のは、私だった。
わかってはいたはずなんだけど、痛いほどに見せつけられた。
これでもかってくらい、自分のダメさが突き刺さってきた。
山口さんは、奇跡の人なんかじゃない。努力の人。
それも、傷だらけになっても血まみれになっても、涙が枯れ果てても、
それでも立ち上がって、立ち上がった瞬間にとどめの一撃を食らうのに、まだ立ち上がる。
「頑張っているのに」なんて言ってた自分が、馬鹿みたい。
私の頑張りなんて、ゴミにもならない。ホコリだよ、ホコリ。「ふッ」ってやったら、飛んでいっちゃう。
あー、どうして今までこんなに素晴らしい本を、こんなにも自分に必要な本を読まなかったんだろうって、また悔しくなった。
山口さんに「ごめんなさい」って、土下座して謝りたくなった。
いや、本当はそんなくだらないプライドのせいでチャンスを奪ってしまった自分自身に、謝りたいのかもしれない。
山口さんの本を読んで、痛いほどに思い知らされた。
夢を叶えるって、簡単なことじゃない。
キラキラなんかしていない。
願うだけじゃだめだし、自分らしさを保とうとばかりしていたら、決して到達できない。
どんなにプライドを踏みにじられても、どれだけ大切な物を犠牲にしても、それでも掴み取りたい!その意思を貫いて、死ぬ思いを何百回も乗り越えた人だけが、手に入れられるもの。
もちろん、やりたいこととか、叶えたい夢の中身にもよるかもしれない。
でも、誰かに何かを伝えたい、誰かの役に立ちたい、世界の何かを変えたい。
そう思ったら、やっぱり一生を、命を捧げる覚悟がないと、到達できるところじゃない。
あー、全然私頑張っていなかった。逃げてばっかり、怠けてばっかり、言い訳してばっかりだったって、今更傷がヒリヒリし出すくらい、読んでて辛くて苦しかった。
でもね、同時に「まだ終わってない」そんな気持ちがフツフツと沸いてきた。
そう、何も人生が終わったわけじゃない。これから始めればいい。
もう30を過ぎて、20代の頃みたいな体力も勢いもないけど、でも、今からだって何だってできる。
死ぬ気になるのに、遅いことはない。そう思えた。
どうせダメなのに、頑張ったってどうするの?
頑張るなんてそんな格好悪いことして、結局目標達成できなかったら恥じゃん。
今は「頑張る」って言葉が世の中で好かれてないのに、時代に逆行してどうするの。
人を傷つけた人間が、今更自分のやりたいことをしたいなんて、エゴだよ。
どうせ、最後までできないんでしょ。
いつもだったら、そんな声がうるさいほど耳の中で騒ぎ出す。
でも、今回は違った。
「頑張っていいんだよ。誰だって。頑張りたいと思うなら、頑張っていいんだよ」
素直に、そう思えた。
でも。
「あなたは、頑張れない人の気持ちをわかっていない」
「あなたの頑張る姿を見ていると、自分がダメに思えて苦しくなる」
「他人に押し付けるな。頑張ってるのはお前だけじゃない」
突然、大切な人達の過去の言葉が聞こえてくる。
そうだった。私には頑張る資格がないんだった。
私が頑張れば頑張るほど、他人に迷惑をかけたり、傷つけてしまうんだった。
何もしないで黙っていたほうがいいんだ。
また逃げたくなる。
そんな時にね、担々麺を食べたの。ふふふ。美味しいよね。
会社の近くにいつも行列のできる人気のお店があってね。
お昼はもう混んでて入れないんだけど、たまたま夜の早い時間に通ったら空いてて。
ピーナッツの濃厚な胡麻味噌スープに太麺が絡んで、そこにピリッと辛さが効いた担々麺。
一人でズルズル言いながら食べたらもう、美味しくてさ。
隣のおじさんに「美味しいですねぇ~。それ辛さ何ですか?」って聞きたくなっちゃうくらい。
辛さは0から6まであって、お店の標準は3。
でも「他店よりは辛めの設定です」って、黒いTシャツと笑顔の似合うお姉さんが言うから、私は1を選んで。
ピリッとして、ちょっとだけヒリってするけど、まだまだ余裕なかんじ。
次は2に挑戦してみようかなーと思いながら、最後までズルズル―って食べたんだけど。
それでね、帰り道に「あー、美味しかったー」って満足しながら歩いてた時に、
突然ピーンって、山口絵理子さんと担々麺がつながったの。
そしたらね、すごくすごく楽になって、肩の力が抜けて、
「あぁ、頑張ろう」ってまた素直に思えたの。
それはね、「頑張るレベル」を担々麺の「辛さのレベル」と思えばいいのかなって。
例えば山口さんみたいな人は、追加料金払って辛さレベル10ぐらいを涙も鼻水も汗もぐちょぐちょになりながら、もう意地と覚悟と勢いで食べる。胃が痛くなることもありそうだけど、
それでも達成感と、食べ終わった後のお水の甘さが忘れられなくて、やみつきになって。
「もういやだ! こんなの食べない!」って思うのに、時間が経つとまた食べちゃう。
そうしている内に辛さに慣れて、辛いのが当たり前で、どんどん楽しめるようになる。
でもそれがいいかって言うと、やっぱり人それぞれなわけで。
痛みを伴わずに、程よい辛味と旨味を味わうのもいい。
今日はいけそうって日はどんどん辛くしてもいいし、ちょっと調子悪いなって日は、辛さのレベルを落とせばいい。
「辛さ」のレベルを他人と競う必要もないし、自分に合うものを選べばいい。
それは頑張る「つらさ」も担々麺の「からさ」も、同じ。
自分がどうしたいか。それだけなんだと思う。
不謹慎かもしれないし、失礼かもしれないけど、
そう思ったら、頑張ることも楽しそうに思えたし、変な力が、抜けていった。
あ、そうか。だから「頑張れ!」って言うのは、嫌がられるのかな?
こんなに頑張っているのに、これ以上頑張れなんて言わないで! って。
だってそれはさ、充分辛いもの食べてるのに「美味しくなるよ! この方がいいよ!」って、勝手に唐辛子をふりかけちゃうようなもんでしょ?
なんで今だって充分辛いのに、もっと辛くするの? もう無理だよ! って、そりゃ怒られるよね。
他人の担々麺には絶対に手を出しちゃ、だめだ。
その人がどれだけ頑張るか、辛い思いをして生きていくのか。それともできるだけ辛みは程よくして、旨味を味わっていくのか。
それは、好みの問題。他人と比較したりするものでもないし、他人が何か言えることでもない。
そう思ったらね、なんだか楽になった。
激辛を食べたいと思おうが、今日は一切辛いものを口にしない! って決めるのも、全部自由。
その代わり、他人にイライラしたり厳しくなりそうな時は、
「いかんいかん、他人に辛さを押し付けちゃいけない」
そう思うようにしたら、ふふふって、ちょっと心の余裕が持てるようになった。
だからね、白ぶどうのお茶さんも、もし叶えたい夢があるなら、
その夢は本気で叶えたいのか、その為ならどんな激辛料理でも完食する覚悟があるのか。
それとも、人生に色々起こる旨味を味わいながら、毎日をゆっくり大事に生きていきたいのか。
そうやって、考えてみるところから、始めてみるのは、どうかな。
もし辛すぎて逃げそうになったり、中途半端で止めてしまうなら、低いレベルから一個ずつ上げていけばいいんです。無理せずに。気付けば慣れて、インド人もビックリ! な日が来るかもしれません。あとは、ちょっとお酢を入れてみて、味覚や見方を変えてみるのもオススメですよ!
それと、他人に厳しい時は「唐辛子出過ぎてる!」って、心の中でつぶやいてみてください。
あ、もし激辛な道を選ぶのであれば、ハンカチとティッシュをお忘れなく。
文字ラジオネーム白ぶどうのお茶さん、メッセージ、ありがとうございました。
ではでは、最後に願いを叶えるおまじないとして、山口絵理子さんの3冊の本の中から、
私が選んだ「辛味が後引く」一文をそれぞれご紹介します。
あ、ぜひ心の中でエコーをかけて読んでみてくださいね。
「君はなんでそんなに幸せな環境にいるのに、やりたいことをやらないんだ?」
山口絵理子(2015)『裸でも生きる――25歳女性起業家の号泣戦記』 講談社+α文庫.
「「やればできるんだ」と分かれば、私が死んでも誰かがきっと何かをやるだろう。その「種」を蒔けるかどうかが、大事なんだと私は思うのだ」
山口絵理子(2015)『裸でも生きる2―― Keep Walking 私は歩き続ける』 講談社+α文庫.
「〈ただ夢を追う、そのプロセスが、素敵なんじゃないか〉って」
山口絵理子(2011)『自分思考』 講談社.
今夜も流れ星のように、一冊の本があなたの願いを叶えてくれますように。
ここまでのお相手は、口下手DJおはなでした。
――マイクのカフを下げ、BGMのフェーダーを上げていく。
夜の街に、小気味良いジャズピアノの音色が響いている。
「あー、なんだかお腹減っちゃったな」
………
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