チョコレートの美味しさを知ると、ダイエットに苦労する
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:新谷 幸菜(ライティング・ゼミ8月コース)
11月からこっち、全くもって調子がでない。
いわゆる、「恋煩い」である。
11月の頭に半年付き合った彼氏と別れてから、世界に色がない。
ご飯を食べても、人と話をしていても、楽しくない。
仕事もいつにもまして、やる気がでない。
喜怒哀楽を感じるためのエネルギーが不足しているのだ。
こんな自分は初めてである。
ちょっと過激な言い方かもしれないが、今まで異性は自分の都合のいいように利用するものだと思っていた。また、一人の人といることでむしろ他の人と一緒にいられなくなり、自由が制限されるとも思っていた。
一度限りの関係や、同時に複数人と関係を持つこともあった。
不倫も重たくなくて楽なので、何度かした。
気持ちが入ると面倒くさいから。
そう言って、それら全てに気持ちを入れないようにしていた。
そうして、誰にも責任を取らなくて良い生き方をしていた。
しかし今回の彼は、今までのやり方が通用しなかった。
彼からの告白で付き合うようになり、毎日のように愛情表現があった。ほぼ毎日LINEや電話が来て、嫉妬もされた。
正直に言うと付き合っているときは「面倒くさいな」と思うこともあった。
いや、私の中に人の気持ちを受け入れる受け皿がまだ作られておらず、その戸惑いが「面倒くさい」という感情になったのだろう。
それでも、私が途中で別れると言った時も彼の頑張りの甲斐もあって関係は継続し、二人なりの関係性ができてきていた。
ただその反面で、彼の気持ちをありがたく思えば思うほど、私の中には「気持ちに温度差があるこの関係でいいのかな……」と、ずっと背徳感のようなもやもやは大きくなっていた。
そうした時に、ある知人が「私は押され押されて今の夫と結婚して、自分の意思で結婚したんじゃないと30年間ずっと夫を恨んでいた」と言うのを聞いて、ハッと閃いたのである。
「これは私だ! このまま結婚すると、私も彼を恨むことになってしまう!」
元より思い立ったがすぐ行動! という性格でもあり、数人に相談して別れる方向性を決め、彼との話し合いに臨んだのである。
彼は何度も「別れたくない」と言ってくれ、たくさんの言葉をかけてくれた。けれど私は、「このまま元に戻ったら同じことだ。解決にならない」と頑として首を縦に振らなかった。
そして、3日間話し合った結果、別れる結論に至ったのである。
別れた直後は、なんとも爽快な気分だった。
「よーし! 終わった、終わった! ここから自由な人生だ! さあ誰に行こう? よりどりみどりだ!」
なんて息巻いていたのである。
……しかし、翌日になり、
「あら? なんだか違うな。なんだろう、この感覚は?」
と、思い始めた。思っていた感覚と違うのである。
ご飯が美味しくない。笑えない。楽しくない。
今までの自分だったらタイプだと思うような人を見ても、全くなんの気にもならない。
なんだろう、これは? 1日考え、答えが出た。
「私はまだ彼と一緒に居たいんだ!」
そう気が付いた私は、またまた思い立ったが吉日で、別れて2日後に彼に連絡を取った。
電話をし、
「もしもし? ちょっと勝手なようで申し訳ないんだけど、もう一度付き合ってほしい」
と言った。そんな私に彼が言った言葉はこうだった。
「あー……。別の人に告白しちゃったんだよね」
ええええええええ
すぐに元に戻れると思っていた私が甘かった……
彼は別れたのがつらく、他の人と一緒にいる可能性を見出したそうなのである。
これは私の感覚にはなるが、もうそれからは「箸にも棒にもかからない」である。
「もう一度一緒にいたい」と言っても「もう一度一緒に人生歩もうよ!」と言っても、「ふーん。そうなんだ」という感じ。
何を言っても私に興味はない、と聞こえる。もうなんか、「普通の人」っていう感じである。
つい数日前まで好きって言ってたよね? 別れたくないって言ってたよね?
それがこんなに急に、コンビニの店員に話すような口調になるわけ??
どこかの歌に
「好きと言われることがどんなに、幸せだか感じた」
という歌詞があるが、まさにその通りである。
それでも諦められず、何度か話し合いをした。
だが願いは叶わず、11月の頭に改めて話し合いをして、正式にお別れすることになったのである。
それから、1ヶ月ほどが経った私の現状としては、
全く変わっていない(笑)
他の人に興味も持てないし、ご飯は美味しくないし、楽しくない。
強いて言うなら歌を歌うことが支えになっている。
「おいおい、どうした私。今まで一人で生きてきたでしょう。どうしてこんなに弱くなってしまったんだ……」
そんなことを考え、メソメソする。
そんな中、ある人と話して、霧が晴れる体験があった。
Mさんという、妻子があり神戸で医者をしている私の良き相談相手がいるのだが、そのMさんに「つらい。きつい。何もやる気にならない。どうしたらいいか分からない」と泣きついていると、Mさんは医者らしく? ズバッと診断してくれた。
「それが、失恋ですな」
これが失恋なのかーーーーーー! まさか私が失恋するなんて! この期に及んで認めていなかったのだが、Mさんに言われて改めて現実に直面した。
さらにMさんは私の悩みに関しても、的確に指示を出してくれた。
「今その人と話をしようとしても、話にならんよ。ほっとき。また縁があれば話すこともあるよ」
どうにかして振り向かせないと、と焦っていた私はここでも目が覚める思いがした。
物事にはタイミングがあると言うことだろう。
そしてMさんは最後に優しくこう締めくくってくれた。
「ゆきなに大切なことを教えてくれた人なんやろ。良かったやん」
そこで、スッと憑きものが落ちた感覚がしたのだ。
今まで失恋で泣く人をバカにしていた。
「恋って結局ホルモンが起こしているものだよね」と、気のせいとして片づけていた。
でもそうじゃないのだ。
恋愛は確かに分からない。面倒くさいし、理性を失うし、コントロールもできない。
生きる上でする必要があるものなのかと言うと、そうでもない感じもする。
でも、恋をしていると人生が豊かなのである。
私はもう以前の自分に戻りたいとは思わない。
チョコレートの美味しさを知った人が、ダイエットに苦労するように、私も人がいる暖かさを知ってしまったので、もういないときには戻れないのだろう。
彼は、私に人として大切なことを教えてくれた。無機質だった私を、人間にしてくれた。
この先、誰と一緒にいたとしても、その感謝はずっと忘れないだろう。
ありがとう。
ありがとう。
私を愛してくれてありがとう。
私に人といる豊かさを教えてくれてありがとう。
出会えたことに感謝します。
一度の人生。せっかく人に生まれたのだから少しばかりバカになってもいいだろう。
この先も私は、人と一緒に生きていく。
***
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