ホップ、ステップ、スランプ
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:小松 鈴(ライティング・ゼミ2月コース)
ああ、もうダメかもしれない。
モニターに映る真っ白な画面の前で、私は顔を手で覆った。
などとちょっとカッコイイことを言って始めてみたかっただけだ。
まあ単純に言うと、ライティングゼミの2回目セミナーで、早くも私はスランプに陥った。
実はワタクシ、webライターを本業としている。
といってもフリーではなく、会社に所属した上で発注者と交渉して書くという、「ゴーストライター」というやつだ。書いても書けなくてもお給料は発生する。ありがたい。でもでも、採用して頂いたのだから、会社に貢献したいではないか。「文章力が高い」と認められたら、もしかして昇給が……いや、なんでもない。
この際白状するが、このライティングゼミを受講したのも打算ありきだった。毎週の課題で一定のレベルに達した記事は、天狼会のサイトにアップされるというのが決め手だった。
在籍している会社は、クラウドソーシングサイトを利用して仕事を受注している。応募の際は必ずといっていい程、「過去の作品か、URL」を求められる。
もちろん提出できるファイルは山ほどある。が、ファイルよりも、サイトに掲載されている「現物」の方が発注者も安心するのではないか、と。
このゼミを受講すれば、ライティング技術を学べるうえに、上手くいけば掲載される。しかも「コイツ、ライティングの勉強もしているのか」と好印象に繋がるのではないか。おお、一石二鳥どころか一石三鳥。鼻息荒く申し込みボタンをタップした。
1回目の講習は、分かりやすかった。ありがたいことに、課題も掲載して頂いた。初めて自分の名前で記事が掲載された、という感動は忘れられない。
しかし続く2回目で、私のなけなしの自信は粉々に砕け散った。足掛け4年、実地で学んだライティングスキル。間違っていたとは思わないが、向いている方向が違っていたことに気がついた。
これはマズイ。
課題はいい。アホな文章でも意味不明の記事を提出しても、誰にも迷惑はかけない。(いや、添削して下さる方々には迷惑か)
しかしそれを仕事にしている身としては、死活問題と言ってもいい。
「ちょっとスランプでぇ〜、労災って降りますかぁ?」などと言っても、通用しないだろうなぁ。下手をしたら首が飛ぶ。
焦った。これまで文章作成で悩んだことがほとんどなかった私は、正直に言うと「文章が書けない」と言う人がよく分からなかった。
文章なんて、日本語さえ知っていれば誰でも書けるじゃないの? そんな風に思っていた過去の自分をぶん殴りたい。
日本語をいくら知っていても、書けないものは書けない。「文章が書けない」と悩んでいた方々には五体投地してお詫びする。その気持ちが痛いほどよく分かった! 文章、書けないよね!!
とりあえず、この状況を打破しなければ。
ここはひとつ、「文豪」と呼ばれる方々の作品を読んで、勉強してみよう。
そうと決まれば話は早い。
「青空文庫」をインストールして、時間がないので短編を中心に読みまくった。太宰治、芥川龍之介、江戸川乱歩……。
凄い、というしかない。何十年も時を経ているというのに、全く色褪せない。坊主もコンプレックスを抱えるし、傲慢は人を虎に変える。
しかし、だ。なにぶん作品が凄すぎて、吸収しようにもどこをどう学べばいいのか分からない。
ならば現代作品、エッセイはどうだ? 課題はほとんど自身のことを綴っているので、エッセイは近いかもしれない。
そうと決まれば話は早い。
図書館に走り、本を借りた。さくらももこと三浦しをんだ。理由は、このふたりのエッセイが大好きだから、それだけ。
めちゃくちゃ笑った。いやいや、ダメだろ。面白過ぎてただの読者になり、まるで勉強になっていない。
無慈悲に時間が流れる。課題のテーマが決まらない。焦れば焦るほど頭は真っ白になる。
ふと、あることを思い出した。
スタジオジブリの「魔女の宅急便」だ。
有名作品なのであらすじは省く。物語の中盤、キキは魔法の力が弱くなったことを恐れ、何度も何度も飛ぶ練習をする。しかし魔力は戻らない。
そんなキキの前に現れたのは、以前知り合った絵描き。(本作では出なかったが、名前はウルスラ)落ち込むキキを見たウルスラは、自分のアトリエへキキを招く。そこで言うのだ。
「そういう時はジタバタするしかないよ。 描いて、描いて、描きまくる!」それでも飛べなかったら? キキが訊くと、「描くのをやめる」。「散歩をしたり、景色をみたり、昼寝をしたり、何もしない」「そのうち急に描きたくなるんだよ」
そういえば、2月にゼミを受講し始めてから、毎日何かしら文章を書いていた。仕事はもちろん、終業後、土日も課題のためパソコンを起動して、文章や構成を練っている。
ここはひとつ、ウルスラ姐さんを信じますか!
まさか会社に「姐さんに書くのをやめるように言われたので休みまーす」とは言えない。とりあえず、土日だけでも書くこと、考えることを休むことにした。
夜ふかししてネットショップで散財して、朝というより昼に近い時間に起きて、日向ぼっこをしている愛猫を吸いつつ昼寝。
なにこれすっごい楽。
これで良いんですか、姐さん? このままダラダラにとろけて辞めてしまうんじゃないの? 「早く書け」と「もう諦めてもいいんじゃね?」。私の中の天使と悪魔がささやく。
ウルスラ姐さん、私ヤバいです……。もう提出するの辞めちゃおうかなー。どうせ私なんか文才ないしー。
月曜日になった。
今日の23時59分までに提出しないとアウトだ。でも私の中は空っぽだった。
仕事が終わってから、私用のパソコンを開く。ぼーっと画面を見ていても、愛用のMacは沈黙を貫き、しばらくすると勝手に寝ようと(スリープモード)しやがる。おいこら、ご主人様が起きているんだから、気張らんかい。
もうダメかなー。
そう思ったとき、ふっと、頭の中になにかが『降りて』きた。
慌ててキーボードを引き寄せ、一気に文章を綴る。構成なんて考えていたら、絶対にそこで筆が止まる。とにかく思いつくまま、キーボードをカチャカチャ、ッターン! の勢いでEnterキーを押す。
出来上がったのは、それまでの書き方とまったく違う、自身のスランプ経験をあえてコミカルに書くことを意識した作品だった。
これが良いとか悪いとか、もう何も分からない。ただ、書くことに夢中になった。ずっと忘れていた感情に、自分でも驚いた。そうか、私は書くことが大好きなのに、いつの間にか忘れていたのか。
いやいや、反省会は後だ。とりあえず推敲して画像選定して、投稿だ。
スランプは抜けた? と聞かれたら「わからない」としか言えない。ただ、今は書くことが少し楽しい。
おそらくウルスラがキキに言いたかったのは「視野が狭くなって、それが余計に自身を苦しめているんだよ。一度その場から離れてみたら、新しい視点が生まれるかもしれないよ」ということかもしれない。少なくとも、私はそう感じたし、わずかな時間とはいえ、書くことから離れた、だからこそ自分を俯瞰することでギリギリ書き上げることができた。
アドバイスをくれたウルスラ姐さんには感謝しかない。姐さん、本当にあざーーっす!!
***
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。
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