“愛すべきダメ男”は期待を裏切らない。《リーディング・ハイ》
記事:木村保絵(リーディング&ライティング講座)
「ほんっと、ダメ男ばっかりな」
学生時代から長い付き合いの友人が、ついに結婚することになった。
彼は、いつも笑顔で人気者で、誰からも愛される存在だった。
だけど不思議なことに、その割には、しあわせな恋愛をしているイメージが、無かった。
「せっかくあんなに優しい子が想ってくれているのに、なんでダメなわけ!」
「だって可愛くないじゃん」
「女は顔じゃないよ! 優しい子がいいに決まってるでしょ!」
「だって、無理なんだもん」
何度この会話を繰り返しただろう。
はぁ、わかってない! そんなんじゃ絶対にしあわせになれない。
何度そう思って、彼に怒りをぶつけただろう。
ただ残念ながら、いつも彼にこう言い返されて、会話が終わってしまう。
「お前だって、ダメ男ばっかりじゃないか」
いや。違う。
断固として否定する。
わたしがこれまで好きになってきた人達は、確かに、確かに、100歩譲って、ダメな部分は色々あったと思う。
でも、断固として、“ダメ男”ではない。
言うならば“愛すべきダメ男”だ。
そもそも、昭和の終わりに生まれた人達はみんな、“愛すべきダメ男”を好きになる為の英才教育を受けてきたんじゃないだろうか。
漫画やアニメで繰り返し見続けてきたルパンやキン肉マンやこち亀の両さんは、みんな“愛すべきダメ男”だ。
女にだらしなかったり、ルールを守らなかったり、いい加減で無責任だったり。
実社会にいたら、「アイツはダメな奴だ」と言われて当たり前だ。
それでもみんな彼らに心を奪われていたし、時代が変わり平成になった今でも、年齢や男女を問わず人気を集めている。
実在する人達だって、そうだ。
“お笑いビッグ3”と呼ばれる、ビートたけし、タモリ、明石家さんま。
彼らだって、“愛すべきダメ男”だ。
それぞれ個性は違うけれど、キレイなお姉さんにデレデレしたり、酔っ払っていたり、暴言を吐いたり、無茶苦茶なことをしたり言ったりしている。
それでもやはり、何十年も愛され、常に前線で活躍している。
みんな、“愛すべきダメ男”が好きなんじゃないか。
堤真一、竹野内豊、豊川悦司、阿部寛……二枚目、正統派俳優と呼ばれていた役者も、いつしかみんな“愛すべきダメ男”役を演じている。
みんな、見たいんじゃないか。
“愛すべきダメ男事”が、みんなやっぱり好きなんじゃないか。
自分の家族や、友達や、恋人や夫だったら嫌だな、と思っているだけで、
決して嫌いじゃないはずなんだ。
わたしだけじゃない。みんなどこかで“愛すべきダメ男”を求めているはずだ。
そしてそれは、何も日本人だけじゃない。
世界中の人も、同じだと思う。
世界を代表する“愛すべきダメ男”
そう聞いたら誰を想像するだろう。
わたしの中では、ダントツ、ヒュー・グラントだ。
『アバウト・ア・ボーイ』『トゥーウィークスノーティス』『ラブ・アクチュアリー』
どんな作品でも、彼は見事な“愛すべきダメ男”を演じている。
時に殴られたり、水をかぶったり、散々な目に合うことも少ない。
それでも、いつも女にだらしがなく、優柔不断で、無責任な役を、期待を裏切ることなく全うしてくれる。
“愛すべきダメ男”は、誰がどう見たって欠点が荒目立ちしている。
だけど、彼はそのことに卑屈することなく、「欠点こそチャーミングだ」と堂々と笑って生きている。
その笑顔に、つい心惹かれてしまう。
何よりズルいのは、やればできる、やる時はやる、という姿を見せてくれるのだ。
それでいて、最後はダメっぷりを見せてニタぁっと笑っている。
「もう、仕方がないなぁ」と思ってしまう。
その一連の流れの全てが、期待通りなのだ。
だからこそ、“愛されるべきダメ男”は、愛され続けるのだ。
ところが、そんな“愛すべきダメ男”の期待を世界中から背負っているヒュー・グラントが、
何やら不穏な動きを見せた。
彼の最新作、『マダム・フローレンス! 夢見るふたり』だ。
『マディソン郡の橋』や『プラダを着た悪魔』など、代表作を上げればキリがない、言わずもがなの大女優メリル・ストリープと夫婦役だ。
しかも。なんとあの彼が“世界一の愛妻家”を演じるという。
映画館で予告編を見た時から、ずっと気になっていた。
――ヒュー・グラントが、愛妻家?!
何かの間違いだろう、と思った。
つい最近、『ブリジット・ジョーンズの日記』の最新作で、期待通りのダメ男を演じていた。
いや、正確には演じていない。そもそも、出演していない。
それなのに、期待通りのダメ男っぷりを楽しませてくれる。
それでこそヒュー・グラント! そんな風に思ってしまう、演出だった。
彼はこの先もずっと、どんなに年を重ねても、期待通りの“ダメ男”を見せ続けてくれると思っていた。
それなのに、ここにきて突然の“愛妻家”だ。
戸惑った。
見ていいんだろうか。できれば見ない方がいいんじゃないだろうか。
できれば、期待を裏切ってほしくない。
もし裏切られるのであれば、いつものダメな役を見ていたい。
何度も葛藤した。
だけど、見たくないと思えば、やっぱり見たくなってしまう。
ダメだとわかっているのに、気になって仕方がない。
それこそが、“愛すべきダメ男”の魅力なのだ。
見るべきじゃない、関わるべきじゃないとわかっていても、心が惹かれてしまう。
わたしは恐る恐る映画館に行き、スクリーンで“愛妻家”の彼の姿をジッと見つめていた。
そして今、思う。
あぁ、やっぱり。
やっぱり、そうだ。
ヒュー・グラントは、“愛すべきダメ男”は、やっぱり期待を裏切らない。
………
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