辛く忘れたい過去と向き合う勇気をくれたのは、可愛いオオカミ少女だった
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記事:都宮将太(ライティング・ゼミ6月コース)
「学校に……行きたくないって言うんです」
中学一年生の頃、母親が涙声で学校に電話しているのを聞いた。
私は記憶力が悪く、昨日勉強したことさえ、翌日には忘れている。だが、あれから20年近くが経っても、あの時聞いた母親の涙声だけは、今でも記憶から消えてくれない……。
私は中学一年生の頃、約半年間引きこもったことがある。
引きこもりの原因はいじめだ! 典型的な原因だが、徐々に学校に行くのが辛くなった。
学校に居場所をなくした私は、遅刻や早退を繰り返し、休みがちになり、最終的に引きこもってしまった。
いわゆる不登校と呼ばれる状態だ。
母親が涙する姿を見たことあるだろうか?
私が生まれたときに泣いたかもしれないし、大好きな韓国ドラマを見て泣いたかもしれない。
実際、生まれた時なんて覚えてないし、韓国ドラマで泣いている姿を見ても何とも思わないだろう。
だが、自分が原因で母親が涙する姿を見るのは、非常に辛いものだ。
「いじめられている人にも原因がある」
なんて言っている評論家を、テレビで見たことがある。
非常に呆れたものだ。そんなことを本気で言っているのか? と疑ってしまった。
いじめられている人を、更なる地獄に突き落としたいのなら、正解かもしれないが……。
私は約20年間、引きこもった過去を封印してきた。向き合おうなんて一切しなかった。もし、願いが叶うなら、そんな惨めで、情けない過去など葬りさりたい。ずっとそう思っていた
当時のことを知られるのが恥ずかしい。当時の出来事を知られたら、皆が自分のところから離れてしまう。本気でそう思っていた。
そう思うと、いつも周りの目を気にしてしまう。こんな自分を変えたいと思いながらも、中々変えることができなかった。
一冊の本と出合うまでは……。
『かがみの孤城』
この本との出会いは、私の人生を大きく変えてくれた。
辛かった過去を隠すのではなく、そんな過去と向き合い、オープンにさらけだす。そんな勇気をくれた本だ。
かがみの孤城は過去に本屋大賞を受賞。昨年末には映画化もされ、160万人が泣いたという。ちなみにその内の一人は私だ!
かがみの孤城は、オオカミに変装をした一人の少女が、ランダムに中学生7人を選ぶ。オオカミ少女に選ばれた7人の中学生は、鏡の中に建てられたお城で一年間、お城のどこかに隠された鍵を探すゲームを行う。その鍵を見つけた者は、願い事がなんでも叶う。という、実にシンプルな内容だ。
選ばれた7人の中に、中学一年生の女の子がいる。
この少女は、非常に活発で学校で目立つ存在。友達も多く、クラスでも中心人物……というわけではない。むしろ逆だ。
少女はいじめられており、学校で居場所をなくし、閉じこもっていた。
オオカミ少女がこの少女を選んだ時、まるで、当時の自分が選ばれたように感じた。
その少女は、作品の中で、自分らしさを出し、他に選ばれた中学生と一緒に、協力して、笑顔で活き活きと鍵を探すゲームを行う。
「自分の居場所は学校でなく、鏡の中の城だ」
もし、私がオオカミ少女に選ばれていた中学生だったら、間違いなくそう思っただろうし、実際に見ていてそのように感じた。
何故その少女は自分らしさを出し、笑顔で活き活きと行動できたのか?
オオカミ少女に選ばれたからといって、現状が変わったわけではない。翌日学校に行けば、いじめられるかもしれないのだ。
周囲は変わっていない。自分が変わったのだ。
いじめられ、引きこもっているという、自分の辛い現状を一切隠さずに、オープンに自分をさらけ出した。
自分をさらけ出すことで、それを受け入れてくれる仲間を見つけたのだ。
私はその少女に勇気をもらった。それと同時にこうも思った。
『過去の辛い経験を隠すことはやめよう。むしろオープンにして生きていこう!』と。
今までの私は、過去の出来事を封印して、自分らしさまで隠してきた。
それなら一層、今まで封印してきた過去をさらけ出し、同時に自分らしさも出して行こう! そんな風に思えたのだ。
自分の過去をさらけ出した結果、どうなったか。
引きこもりの自分を避ける者もいたが、素の自分を受け入れてくれる人もいた。中には、「実は私もそんな経験がある」と言ってくれた人もいた。
これには、嬉しいと同時に驚いた。何故もっと早くそうしなかったのかと、後悔もした。
むしろ、自分の過去をオープンにして去っていく者は、自分が関わってはいけない人間。自分を受け入れてくれる人を大切にしよう! そう考えることができた。
過去にいじめ等が原因で引きこもった経験のある人にも知ってほしかった。
辛い記憶を封印するのではなく、むしろオープンにして生きていくことで、自分の辛い過去と向き合うことができるし、そんな自分を好きなってくれる人も現れる。
自分の自然体の姿を受け入れてくれる相手がいるというのは、非常に心強いものだ!
私は本当に感謝している。
7人の中学生の中に、自分の過去と非常に似ている少女を選んでくれたオオカミ少女に。それと、この作品を作ってくれた著者に!
***
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