メディアグランプリ

博多の中洲で200万円を散財して、僕は自分の「未来」を知った。


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:牛丸ショーヌ(ライティング・ゼミ)

「じゃあ、今週末また飲もっか」
友人のヒデから電話があった。
ヒデは、高校生から付き合いが続いている数少ない友人の一人で、大学も同じだったが、二年生が終わったときに退学してしまい、気がついたときには訪問販売会社の営業で高給取りになっていた。

僕が社会人になった最初の年である2001年は、バブル景気がはじけて久しく、就職活動時には氷河期といわれた世代ではあるが、「何とかなるさ」という明るい空気感が漂っていて、貰った給料は全て使うのが当たり前。
貯金するなんてのは「男らしくない」という風潮がある時代だった。

手取りで僕の給料の2倍以上は収入を得ていたヒデは、お金の使い方がとにかく荒い。
一度、真冬にロングティーシャツ姿で現れて「寒いから、何か買う!」と言い、デパートにあるメンズフロアに付いていけば、目を離した3分の間に4万円もする本革のジャンパーを迷うことなく購入していたことがあったほどだ。

ヒデとお酒を飲むのは2週間に1回ほどの頻度で、決まった定番のコースがすでにあった。
1軒目は天神周辺の居酒屋。
大抵は飲み放題コースで、しこたまアルコールを体内に注入する。
次に2軒目。
ここでは焼酎のボトルを入れて、少しペースを落として飲む。
このあたりでヒデは呂律が回らなくなる。
いつものパターンだ。
僕は普段から酒に酔っても記憶がなくなったり、醜態を晒すことはないのだが、彼と飲むときはいつも以上に意識を強く保つように心掛けている。
自分まで潰れてしまうと、この後に控える場所での収拾がつかなくなるからだ。

2軒目の静かに飲んでいる途中で、ヒデが怪しい呂律で僕に誘い文句を投げかけてくる。
「ショーちゃん、次どこいく? どこどこ? 中洲行こう、中洲」

敢えて言葉に出すまでもない。
どうせ中洲だろうと僕は予測がついていた。
そして、福岡一の歓楽街である中洲まで歩き出すのだ。
天神から歩いたら約15分。
ときにはタクシーに乗って中洲の中央通りまで乗りつけることもある。

ここから後半戦が始まる。
中洲での1軒目はこちらも決まってラウンジだった。
ラウンジとは地方によって、呼び名は異なるが、キャバクラの同義語と考えて間違いではない。
※今ではその違いを明確に区別する業界の流れもあるが、当時の中洲ではラウンジと呼ぶのが主流だった。

ラウンジの料金は今とそんなに変わりはない。
1時間で6千円くらいだっただろうか。
もちろん1時間では終わらない。
延長に次ぐ延長とラウンジガール(キャバ嬢)たちへの飲み物代。
それに指名料も加算されることもある。
1度ならまだしも、2週間に1度の頻度で行っていたとなると社会人一年生の僕の給料で、支払いが継続できるわけはない。
これには、からくりがあった。
ヒデは、酔ってしまうと気が大きくなってしまい、僕の分を含めて支払いを全て自分で済ましてしまうだ。
2軒目あたりまでは割り勘で払うが、中洲に移動してからの支払いはヒデが払うことが圧倒的に多くなった。

ラウンジの次は大抵がランジェリーパブ(通称ランパブ)に行く。
ランジェリー姿の女性たちが接客してくれる。
※セクシーキャバクラ(通称セクキャバ)、ハッスルと呼ばれることもある。

こちらは30分で5千円くらいが相場だった。
風営法(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律)が改正になる前、僕らは深夜まで居酒屋から4件以上をハシゴするのが通例になっていた。

いくらヒデが酔って、中洲での支払いをするといっても、毎回ということではない。
僕はカードでの借金をするようになっていた。

そんな生活を送っている中で、中洲の無料案内所から紹介されたラウンジに行ったときのことである。
ここで、僕は不思議な体験をすることになる。

ヒデと2人で案内されたテーブル席に着くと、僕らの隣に1人ずつに女性が座ってきた。
僕の隣に座った女性は源氏名「ジュリ」と言う。
「はじめまして、ジュリでーす!」
年齢は21歳だという。
僕らも当時は23歳だったため、ほとんど年齢差を感じさせない。
共通の話題で盛り上がる。
ごくありふれた風景であった。

会話が途切れて、ウィスキーに口をつけていたときのこと。
何となしに隣を見ると、ジュリは僕らお客に気を利かせる感じはなく、他のお客が座っている向こうのテーブルをぼんやり眺めていた。

あまりに茫然としていたため僕は冗談で「どうしたの? 向こうに霊でもみえる?」と訊くと、ジュリは我に返り、驚いたように僕のほうを振り向く。
「実は……」
予想外の展開に僕はワクワク感を隠せなかった。
当時、霊感というものとは無縁だった僕は、自分にないからこそ知らないものを求めてしまうのか、異様に「怖い話」や「超常現象」の話題に関心を示していた。

ジュリは続けた。
「小さい頃から、霊感というか、普通の人には見えないものが見えてしまい、会った人もその人の未来というか、この先どうなっていくのかが直感で分かってしまうんです」

実におもしろい。
僕は興奮した。
霊感の強い親族がいて、幽霊話は何度か聞いたことがあったが、こうやってリアルに本物の能力をもっていらっしゃる方に会うのは初めてだった。
まるで、こちらが接客をしているかのように、まるでインタビュアーのように彼女に質問を投げかけた。

閉店後、ラウンジガールの終礼で女性陣が一列に並んだとき、ある同僚のうしろにこの世ならざるものが覆い被さっていることがよくあると言う。

その他にもいろいろな興味深い話を聞いた。
それから、中洲に行くたびに彼女を指名するようになった。
僕はジュリの話に……いや、「能力」に夢中になっていた。

一度、僕自身が今後どうなっていくのか見てもらったことがある。
今でいうところの「霊視」にあたるものだ。
※霊視とは肉体的な感覚器を用いずに見ることをいう。

彼女は、じっと僕の顔をみつめる。
僕の「眼」をみているのか、あるいは僕にまとわりついた霊的なものを視ているのか……。
「何だろう……お婆さん? が笑っている姿が視えます」

僕は自分の身体がビリビリと震えてしまうほどの衝撃を受けた。
ものすごく身に覚えがあったのだ。

ちょうど一カ月前の仕事中、自宅から車で1時間ほど離れたところに住んでいる祖母を訪れていたのだ。
祖母は脳出血で倒れ自宅療養中だった。
ほぼ寝たきりで、言葉を発することもままならない状況だったが、そのときは僕の顔をみて満面の笑みを浮かべてくれたのが印象的だった。

別の日には、同じように僕の顔、身体を上から下、下から上へと視線を這わせてから、たどたどしい口調で話し始めた。
「お兄さんが二人いますね…」
僕は三人の男兄弟の末っ子だ。
「いる! 上に二人いる」
「一番上のお兄さんは…ご両親のことを最終的にみると思います。」
「え? そうなの?」
僕には二人の兄がいるが、一番上の兄は転職して福岡の病院で働き始めたところだった。
「二番目の兄はどうなの?」
「うんと……二番目のお兄さんじゃないんですよね。うん……やはり一番上ですね」
僕の二番目の兄はエリート街道をまっしぐらに走っており、当時は愛媛の松山に住んでいた。
僕はこの言葉を聞いたとき、正直おそろしくなった。
そして、彼女が「本物」だと直感してしまった。
僕は学生時代に人が街角の「占い師」に頼る心理状況が知りたくて、自ら「占い師」の先生に弟子入りして占い師の資格「初級」を有していたほどだ。
「コールド・リーディング」という話術も使っていない。
※コールド・リーディングとは外観や引き出した情報から相手のことを言い当てて自分を信じ込ませる話術の一つ。

両親の最期を看取ること、それは親から生まれたからには万人に訪れる人生の一場面。
しかし、そこに至るまでに親、兄弟との関係性はさまざまに変化していく。
彼女の視た僕の両親との別れの場面、それは僕ら兄弟の関係性を現していた。

僕は自分から望んでおきながら、他人から見られたくない家族の恥部をのぞき見されたようで、恥ずかしくもあり、恐ろしくもあった。
僕はその夜、ひどく後悔の念に駆られた。

ジュリとはそれ以来会っていない。
僕のほうから、彼女のもとに行くことを止めたのだ。

ジュリは人に会うとあまりに色々なことが視えてしまうため、長くこの店で働き続けることはできないだろうと言っていた。
「店を辞めたらこの能力をもっと磨いて、人の役に立つようなことがしたい」
彼女の言葉が想い出される。

僕に残ったのは、200万円の借金だけだった。
僕は彼女に出会って、ひとときだけ自分の、いや家族の「未来」を教えてもらったのだ。
あれから15年が経った。
彼女は今ごろ、何をしているのだろう。
元気でやっているのだろうか。
もう顔も忘れてしまった。

そして僕は彼女の視た「未来」のとおりに生きているのだろうか。
「決められた未来」に引き寄せられるように、僕はそこに向かっているのだろうか。
いや、そんなことはない。
「未来」は変えられる。
彼女が視た僕の未来がたとえ明るくなかったとしても、僕の今日からの「行動」と「選択」次第でいくらでも変えられるはずだ。
僕はそう信じて、これから生きていきたい。

※本内容は事実を元にしたフィクションです。

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2017-01-19 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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