ふるさとグランプリ

「ふるさと」と聞いて、私が思い浮かぶものは。《ふるさとグランプリ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:福居ゆかり(ライティング・ゼミ)

「あなたは、『ふるさと』というと、何を思い浮かべますか?」
私が「ふるさとグランプリ」のページを初めて見たときに、頭に浮かんだのはその言葉だった。そう、問われている、そんな気がしたのだ。
ふるさとについて記事を書く。となれば、地元と、今住んでいる場所と、あとは……。
思いつく限りで書いたものの、段々と「地域についての記事」ではあっても、「ふるさとについての記事」からは外れたところを歩いてしまっている気がしていた。
では、私にとってのふるさと、とは何だろう?
もちろん、生まれ育った地域は紛れもなく、ふるさとである。これまでも幾度か題材に取り上げたが、私の出身である福井県は、未だ自然が多く、いかにも「ふるさと」といった体を成している。
しかし、この頃では開発も進み、私の実家の周囲からは畑は消え、街の本屋も消え、大きな商業施設が目につくようになった。
賑やかになった街を思い出す。それは私がふるさと、と聞いて思い描くものとはなんとなく違う気がした。

では、一体どこなのだろうか。
私が「ここが私のふるさとだ」と思う場所は。
ふるさと、ふるさと、と念仏のように唱えながら考える。気がつくと足元で娘が私の真似をして「ふーるさとー」と叫んでいた。
娘は、もうすぐ4歳になる。私がこの子くらいの年の頃は、まだ実家の周囲にある商店街で八百屋、魚屋、豆腐屋などのお店が元気に動いていた。もう今はそのほとんどがなくなり、跡地にはシャッターが閉まっているか、駐車場になってしまっていた。
もしかしたら、その頃の風景が私のふるさとなのかもしれないな、と思いついた。よく妹に気持ち悪がられたものだが、私は1歳前後からの記憶がある。それが無意識のうちにイメージとして刷り込まれているのではないか、とそう思ったのだった。
が、なんだかやはりしっくりとこない。
違和感を感じ、なんとなくモヤモヤしたまま、私は娘をあやすために抱っこしたのだった。

それから、ふとした瞬間に地元の風景を思い出すようになった。母が家の前にあるプランターいっぱいに、四季折々の花を美しく咲かせていたこと。祖母の家近くの川辺に灯るたくさんの小さな蛍を、家族みんなで捕まえては離したこと。友人と自転車に二人乗りし、満天の星空の下、叫びながら田んぼの中を駆け抜けたこと。どれもが私の中での懐かしい記憶であり、思い出すとキラキラと輝いていた。しかし、決定的に「これ」というものが見つからないままとなっていた。
祖父母が生きていた頃は商売をやっていたので、家の中の配置も違ったなあ。そう考えたところで、私はハッと思い至ったものがあった。
絵だ。
それは何の変哲も無い、田舎の農村の風景を描いた絵だった。澄んだ川が流れ、田んぼには黄金色の稲がふさふさと実り、その向こうの山の麓に日本家屋が数件ほど描かれている絵だ。
いつの頃からかわからないが、実家の居間に飾ってある。恐らく、私が生まれる前からだろうと思う。
毎日眺めていたその絵は、「日本の原風景」とも言えるような景色だった。それこそが、私が思い描く「ふるさと」の正体だった。
しかし、一体誰が描いた絵なのか、どこの風景の絵なのかはさっぱりわからなかった。不思議に思い、母に尋ねると「ばあちゃんが知人からもらった」という以外はわからない、との事だった。ただ、気に入っていたようなので今でもそのままにしてあるのだ、と。
けれど、私はどこかでこんな風景を見たことがあるような気がした。一体どこだったか……。
「あっ」
急に声をあげた私に驚いた母の、どうしたの、という言葉が電話の向こうから聞こえる。
けれど私は、今思い出したことを整理するのにいっぱいいっぱいで、返事もそこそこにそのまま電話を切ってしまったのだった。

細い記憶の糸を辿っていくと、そこに思い出した景色があった。
4歳くらいの頃、私はちょくちょく祖母と出かけていた。なぜだったのか理由はわからないが、おそらく、母は年子の妹と私の2人を見ることができず、必然的に妹に構っていたのだろう。そのせいか、おばあちゃんっ子だった私はいつも祖母の後を付いて回っていた。どこにでも連れられて行っては、会う人会う人に遊んでもらっていた。
祖母の実家は、福井県内でも大分山間の方だった。その時には既にもう実家自体はなかったようだが、同じ地域に大叔母の家や祖母の友人の家があった。その辺りにも私はよく連れて行ってもらっていた。
しかしそれもつかの間で、私は幼稚園に入る事になった。そうなると、平日の昼間はそちらに通っていたため、祖母との外出はぐんと減った。短い期間のことだったので、すっかり私は忘れていた。
けれど、思い出した途端、堰き止めていた水がわっと流れ出すように、記憶が一気に甦った。大叔母の家の縁側でした日向ぼっこの温かさ、祖母の友人宅を1人で探検して回ったこと。遠い昔のことなのに、すぐそこに手が届きそうなクリアさで、いきなり私の中にどっと映像が流れてきた。
あの時話した人たちは今はもう、誰もこの世にいない。そう思うと不意に、足元から込み上げるように寂しさが襲ってきた。
あの景色ももう、昔のままではないのだろう。

私の記憶の中にあるその地域の景色は、居間に飾ってあった風景画と良く似ていた。

「あなたは、『ふるさと』というと、何を思い浮かべますか?」
今もしもそう聞かれたら、私は何と答えようか。
もう記憶の中にしかない、祖母の郷里だった山間の景色を思い出す。景色を言葉で取り零さないように表すのは、なかなかに難しい。
けれど、少しでもそのイメージが共有できるよう、言葉を尽くして伝えよう。私の中にある、「ふるさと」の、福井県の景色を。
それが、自然豊かで美しい県出身の私が唯一、県のアピールのために出来ることのような気がした。
ふとした時、今でもあの、山間の地域にいるようにくっきりと思い出せる。緑の匂い、水の音、稲の穂の囁き。そして、祖母の温かい手と、「ゆかり」と私を呼ぶ、その声も。
それらはきっと、いつまでもずっと私のそばにあって、私を作っているのだ。今も、この先も。
思い出の中の眩しい光に、私はそっと、目を閉じた

***

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