「手書き」は頭のサプリメント
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:777(ライティング・ゼミ11月コース)
「ええい! なんでバシッと一発で出ないんだ!」
スペースキーをバシバシ叩きながら悪態をつく。
パソコンで文章を書いていると、目当ての漢字になかなか変換されなくて、キーボートに八つ当たりしてしまうことがある(ごめんなさい)。
「しかく」と書いて「死角」にしたいのに、視覚、資格、四角︎、刺客と出て、ようやく「死角」にたどりつく。
この程度の単語を出すのにこんなにキーを連打しなければならないとは、同音異義語のまさに死角。執筆作業が寸断されてストレスになるし、下手をすると頭のなかにあった文章や言葉がどこかへ行ってしまう。
こういうとき、ふとおぼえる違和感がある。
頭のなかの言葉と画面のなかの言葉がつながっていない感覚、頭と手がバラバラに動いている感覚、文章を生む思考がぶつ切りになっている感覚……
私はローマ字入力しかできないのだが、これが違和感の一因になっているかもしれないと考えている。
まず、書きたい文字にたどりつくまでの道のりが長い。
「死角」と書きたければ“sikaku”と、目的の文字とはかけ離れたキー入力をしなければならないし、ここからさらにスペースキーを押して漢字に変換しなければならない。
キー入力という動作そのものに、文章をつくる意識の流れが妨げられているように感じる。
そこへ入力間違いや変換間違いをすれば、またいくつもキーを叩くハメになって気が散るし、このために時間をとられるのも腹立たしい。
そもそも、変換キーを押して適切な漢字を画面上から探すのは、「文章を書く」行為と言えるのだろうか。
と、なんだかんだ文句をならべているが、それならパソコンで書くのをやめるのかと言えば、もちろんそんなことはない。やっぱり便利だから。
では、なぜここまでいろいろ言うのかというと、パソコンでの文章執筆に大きな不安があるからだ。
それは「知能の低下」だ。
パソコンやスマートフォンばかり使って、日常生活でペンを持って字を書くことがどんどんなくなってきている。
同時に、ほんの少し複雑な漢字を書こうとしたら、全然思い出せず愕然とすることが増えた。
自分のなかから言葉が日に日に失われていっているような気分になって怖くなることさえある。
そこで「タイピング」と「手書き」、このふたつの動作と脳の働きの関係について調べてみた。
ノルウェー科学技術大学の脳波研究チームによれば、単純な指の動きである「タイピング」より、繊細に指が動く「手書き」のほうが脳の働きは活発で、学習に有利な可能性があるという。
このため、教育環境で手書きをやめてキーボード入力に切り替えるのは、学習プロセスに悪影響を与える可能性があるとしている。
また、京都大学大学院の研究チームは、漢字の手書き習得は、高度な言語能力の発達に関連するという研究結果を発表していて、偏ったデジタルデバイスの利用によるネガティブな影響を示唆している。
これらの研究が示しているのは、「タイピング」より「手書き」のほうが、知能の発達や向上に有効だということだ。
「タイピング」に関しては、これまで私が感じてきた違和感の答えになるものはなかったが、キーを押すという単純動作では脳は活性化しないということが、なにかしら関連していそうではある。
一方、「手書き」における脳の活性化については、私の体験的にも非常にうなずける話だった。
現在通っている天浪院書店のライティング・ゼミでは、ノートに板書を書き写すだけでなく、できるだけ講師の話をメモするようにしている。
これほど手を動かして字を書くことは、この数年ほとんどなかったが、久しぶりに紙とペンで字を書いてみると、弱くなったなと心配していた語彙力がよみがえってきた。書きたい漢字がまたすっと書けるようになってきたのだ。
講義の課題で、既存の文学作品の文章をノートに書き写すというものがあった。作家の文体を学ぶという趣旨で、私は川端康成の『伊豆の踊子』と谷崎潤一郎の『細雪』の冒頭部分をそれぞれ書き写してみた。
ほぼ無心になって文章を書いただけだったが、だんだん頭がすっきりしてきて、言葉のひとつひとつが明晰に頭から手を通って紙に書きつけられているような感覚になった。
「手書き」は、字画を書く手間と時間はかかるにしても、意識も動作も書きたい文字に一直線に向かえる。タイピングのようにキーを連打することもなければ、ほかの同音異義語にわずらわされることもない。意識の邪魔をする作業がないから、脳と手の神経がきれいにつながって、頭に浮かぶ言葉をスムーズに紙に書き出せている感触がある。紙面にあらわれる文字列と意識がしっかり結びついている感覚もある。
意図と作業に乖離がないのだ。
「手書き」は近年、メンタルヘルスの分野でも注目されている。
「ジャーナリング」と呼ばれるものでは、頭に思い浮かんだことをありのまま紙に書き出すことで、ストレスが軽減したり集中力がアップしたりするそうで、「書く瞑想」とも言われている。
こうした事例を見ていくと、「手書き」は脳機能の発達や維持にとても重要であることがわかる。
もちろんパソコンなどのデジタルデバイスも、現代社会では重要なツールだから使わないわけにはいかない。ただし、それに頼ってばかりではいけない。
定期的に手を動かして文字を書き、「脳」に「栄養」を送っていくことが大切なのだ。
「手書き」の効能を知って、私は久しぶりに新しいペンとノートを買った。これからバリバリ文章を書いていくぞと張り切っていた。そんな折りだった。職場の同僚がスマートフォンにぶつぶつ言っているのを見かけた。電話をしているようには見えなかったので、なにをしているのかと声をかけた。
「音声入力でメールを書いてるんですよ」
「音声入力でメール!? 正確に文章にできるの?」
「できますよ。ほら」
実演して見せてくれた文章は、ひとつの手直しも必要なかった。
手書き、キー入力、音声入力。同僚曰く、頭に思い浮かべた言葉を文字化する装置もすでに開発されているそうだ。
科学の進歩が、文章執筆のかたちを大きく変えていく。それにあわせて、私たちの「脳力」も変わっていくことになるだろう。
どんな技術であれ、脳を「健康」にするものであってほしいと願うばかりだが、果たして「手書き」を超える「サプリ」は登場するだろうか。
***
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