57歳の僕が、青春を夢見る若者に贈る4冊《リーディング・ハイ》
記事:西部直樹(リーディング・ライティング講座)
「『横道世之介』に憧れて、東京に来たんです」
と青年は言った。
いま就職活動中という大学4年生は、いがぐり頭をゆらしながら語るのだった。
「あの小説のように、東京に出てきたら、様々な出会いがあるのか、と思っていたんですが……」
小説のようにはいかなかったのだという。
横道世之介のように、アパートの隣の部屋の女性と知り合うこともなく、4年間が過ぎようとしているのだ。
それで、頭を丸めて(なぜだ!)心機一転、未来に向かっていくという。
わたしは彼の将来に幸多かれと祈らずにはいられなかった。
わたしも、学生時代に「青が散る」を読んで、テニス同好会に入ろうか、と思い悩んだものだ。テニスをやるからといって、モテるわけでもなんでもないのだけれど。
高校生なら、旧くは「青が散る」(大阪が舞台だ)今なら「横道世之介」(東京が舞台だ)が、人生の次のステップの道標になるのかもしれない。
物語のように物事はいくわけではないけれども。
ただ、物語は、私たちにその世界への憧憬を抱かせる。そこに向かわせる力がある。
今、小学生の娘には、何がいいのだろう。
次のステップ、ちょっととんで高校生活を送りたいと思わせるものは。
と思っていたら、こんな物語に出会った。
「ハローサヨコ、君の技術に敬服するよ」 瀧羽麻子
―― 下駄箱を開けたら、うわばきの上に白い封筒がのっていた。――
学校の玄関、うわばきを入れる下駄箱、それは、小さな個別の空間、そこからはじまる物語だ。
小学生にとって、数年後、高校生になったら、今より自由で、そして何事かが待ち受けている、と期待を抱かせるのだろう。
美しい上級生、ステキな同級生、優秀な幼なじみ……、そして、秘密の仕事が……。
この物語ほどに波乱がない方が、親としていいのだけれど。
本音を言えば、父親としては「町田くんの世界」の町田くんのような青年と知り合ってもらいたいと切に願うのだけど。
「横道世之介」 吉田修一 文春文庫
「青が散る」 宮本 輝 文春文庫
「ハローサヨコ、君の技術に敬服するよ」 瀧羽麻子 集英社文庫
「町田くんの世界」 安藤ゆき 集英社 マーガレットコミックス
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