57歳の僕は、いまでもSOWに痺れている《リーディング・ハイ》
記事:西部直樹(リーディング・ライティング講座)
はじめて自分で選んで買った本、小学校2年の時、父母に連れられて入った本屋で買った。
それは
「宇宙アトム戦争」エドモント・ハミルトン だった。
なぜ、この本を選んだのかは、覚えていない。
しかし、読んだ感想は半世紀を経ても覚えている。
「ヒャッホー!!!」
である。
なんだか、とんでもなくワクワクして、驚いて、呆然、陶然、となった。
夜星空を見上げ「ああ~~、もう」と嘆息した。
ある日、名前を呼ぶ声が聞こえる、その声に従っていってみれば、そこは宇宙の深淵、文明同士の大戦争のまっただ中、銀河を狭しと翔る宇宙船。空間を崩壊させてしまう究極の兵器! そして、美しい女性……。
お話の壮大さ、奇想。本に僕は想像力の向こうにまで連れて行かれた。
SF、SOWとのはじめての遭遇だった。
SFはsense of wonderだといわれる。
驚異、驚嘆、不可思議な感覚が心地よかった。
SOW(sense of wonder)驚異の感覚に、幼い心は捕らえられてしまったのだ。
爾来、この手の話は大好きである。
折に触れ、読み続けてきた。
でも、半世紀も読み続けていれば、最初の頃の
ヒャッホー!
はなくなるものだ。
でも、この短編集を読んで、久しぶりに
57歳にして、ヒャッホー!! と歓声を上げてしまった。
「紙の動物園」ケン・リュウ ハヤカワSFシリーズ
――母親が折る折り紙は、彼女が息を吹き込むと動き出す。老虎は猫の声と新聞の擦れる音の中間の声を出して吠える。
母の折り紙に夢中になっていた少年は、いつか少年から青年になり、折り紙と遊ぶこともなくなる。そして……。
あまりにリリカルで、そして苦みの効いた表題作「紙の動物園」
「太平洋横断海底トンネル小史」は、もし太平洋戦争前に、太平洋横断弾丸列車が開通していたら。という世界、そこの海底都市で働く男の物語。チューブの中を進んでいく列車の姿は、なんだか懐かしい未来だ。
宇宙の各種族による本の作り方を描いた「選抜宇宙種族の本作り習性」。レコードのように音を刻むアレーシャン族、自分たちが書かなかった本を読むタル=トークス族、などなど、想像するだけで楽しくなる。
遠い別の惑星を目指して進む宇宙船、世代交代をして、何世代かごに辿り着く。その宇宙船の乗組員にある情報がもたらされ、船内は分裂していく。その後に辿り着いた惑星には……。人間はこのあと進化していったら、どこに辿り着くのだろう。と思いが巡る。「波」
リリカルな物語から、スペキュレイティブ(思弁・哲学的)フィクション、コミカルなお話、スチームパンクまで。
例えていうなら、幕の内弁当を食するがごとく、いろいろな味を楽しめる。
そして、そのひとつひとつの物語、すべてがSOWに満ちている。
もうなんだかなあ、と嘆息する日
退屈な終わりなき日常に倦んだ日
悲観する日ばかりでなく
楽しいことがあった時
嬉しいことが待ち構えている時
でも、
SOWは効く、と思う。
何世代にも渡って宇宙を旅する人たち、
あるいは、エネルギー生命体の宇宙人
妖狐と蒸気機関とか
を読めば
宇宙の壮大さに、退屈を感じる暇もない。
そして、ワクワクする。
心が軽くなる。
奇想に心がくすぐられる。
時に苦い物語もあるけれど。
心を柔らかく新鮮な驚きで満たしたいなら、手にとって下さい。
そして、このSFシリーズの造本もいい。
新書版の大きさで、綴じ方が独特で本が開きやすい。
三方の小口は色が塗られ、美しい。
見て、触って、持って良し
もちろん、読んで良しだ。
紹介した本
・スターキング(宇宙アトム戦争) エドモント・ハミルトン
・紙の動物園 ケン・リュウ ハヤカワSFシリーズ
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