本当はオススメしたくない、社会の正解が不正解に見える本《リーディング・ハイ》
記事:たか(リーディング&ライティング講座)
「エントリーシートどこ残った?」
「あー、DとHは残ったけど、Aは落ちたわ」
「マジ? 俺はHも落ちたよ」
「いやーでも、面接で一気に落とされるって聞いたわ」
大学3年生の3月、まだ桜が咲くには少し肌寒いにも関わらず、桜前線が西の方からやってきている。4月1日の就職の面接解禁日の1週間ほど前、高田馬場のロータリーで、先輩方の卒業のみの後、同期とこんな会話を交わしていた。
僕らが就職活動していた頃は、夏のインターンシップが始まるあたりから皆、就職を意識し始めていた。もちろん、ずっと前からそれを考えている人もいれば、12月のエントリーシート解禁日まで人生最後の夏休みを謳歌する人もいるし、一年繰り越して来年就職活動が始まる友達もいる。
夏の日差しを反射するかのようにキラキラに輝いていた茶髪や金髪は、皆真っ黒に染められ、喪服のようなスーツに身にまとう。その一連の流れは、まるで社会人になるための儀式のようだ。風の噂では、金髪で最終面接まで通ったとか、一回もリクルートスーツを着なかったとか、そんな逸話も流れてくれけど、ほぼ大多数の人が通過儀礼かのように、この作業を行う。
例に漏れず、僕もそのうちの1人だ。春にはピンク、夏は白に近い金髪だった髪の毛は墨汁をひっくり返したかのように真っ黒になり、普段着の高いデザイナーズブランドの服はクローゼットに身を潜め、味気ないスーツを着て街を歩く。
スーツで街を歩いて、似非社会人気分が味わえて楽しかったのは最初の2回くらい。それ以降はなぜ皆と同じ格好をしないといけないのか、という思いしかなかった。
4月の終わり頃まで、僕は皆と一緒の社会人予備軍だった。
エントリーシートの自己PRや志望動機に悩み、説明会に足を運び、OB訪問をしてエントリーシートを添削してもらう。友達と「どこの業界に行きたいの?」、「第一志望は?」という話を繰り返し、居酒屋では面接の愚痴を言い合う。インターネットの口コミサイトで企業名を検索して、残業がどうの、給料がどうの、福利厚生がどうの、といった全く役に立たない情報を毎日無駄にインプットする。
4月1日にいわゆる大手企業の面接が始まると、桜の花びらがポツリポツリと開くように、友達の中から内定をもらう人が出てきた。業種によって差はあれど、早いところだと1週目には内定をもらう友達もいた。報告が耳に入るたび、心の中ではおめでとうと思っていたし、僕も遅かれ早かれ彼らに追いつくと思っていた。
ところが、4月の終わりの時点で2次面接まで残っていた企業はほぼゼロに等しかった。確かに業界を絞っていたし、興味のないとこに行って、毎日電車で見るくたびれたサラリーマンになるくらいなら行かないほうがマシだと思っていたから非は十二分にこちらにあるのだが、さすがに焦った。この時期になると、行きたかった業界に晴れて内定が決まった組とそこからあぶれて焦る組に分かれる。
後者のグループは2次募集をかけている企業にとにかくエントリーしまくりその年中に内定をもぎ取るか、潔く次の年に伸ばす組にまた分かれる。
僕は前者のグループでも後者のグループでもなかった。自分の興味のある企業をなんとか見つけて、募集に出す。普通に考えたらバカだ。新卒という切符は1度きりしか使えない。とりあえず会社に入ることが大事。まずは3年どっかで働いてみろ。そんな言葉をたくさん聞いた。
今、完全に普通のレールから外れて思うが、これらの言葉はあながち間違ったものではない。昔と比べれば、フリーランスで活躍する人も増えたと思うし、実はレールから外れてました! と主張してもそこまで煙たがられないようになってきたと思うけど、それでも日本は普通からあぶれることに対して、お化けでも見たかのような扱いをする。
実績も信頼もなく、必死にどこかの会社にしがみつくように努力しなかった僕は、世間から見たらどうしようもない奴だ。
こんなことになるとはつゆとも思わず、当時の僕はなんとか自分の興味のある業界に行こうと必死になっていた。周りの友達が夏休みに海外旅行に行った写真をfacebookで上げる中、うだるようなビルの海で、僕は未だに面接をしていた。
本当のことを言うと、そもそも企業ですら働きたいと思わなかった。カフェでずっとアルバイトをしていたから、どこかのカフェに就職してもいいかなと思っていたし、服が好きだったからアパレル企業でもいいかなと思っていた。出版社とか映画会社とかエンタメカルチャー系の会社には興味があったけれど、そのあたり敢え無く惨敗していた。
でも、カフェ系もアパレル系も一切受けなかった。
なぜなら、社会人になってもバイトができるようなことと同じようなことはやりたくないという浅いプライドが僕を邪魔したからだ。
就職活動が始まるまでは皆、自分の好きなバイトをする。定番どこでいうと塾講師だろうか。居酒屋だったり、新聞の勧誘のバイトをしてる人もいれば、企業でインターンをしていた人もいた。でも、アルバイトでもできるようなことを、就職活動で対象に選ぶことはほとんど無い。銀行、商社、広告代理店、テレビ局、飲料メーカー、自動車メーカー、IT企業、インフラ系、通信系etc。
まるで、社会人になったらそういう職種につかないとダメなんですよ、と誰かに言われているかのように。もちろん、給料の問題もあるだろうし、そう言った仕事は社会人になんないと就けないから、面白いこともあるだろうし、バイトでできるようなことを何年も何十年もやりたいとはあまり思わないという気持ちもわかる。
でも、逆にちゃんと就職していないと、そいつは社会に乗り遅れたダメなやつ、というレッテルがバーンと一気に貼られてしまう。人生の正しいレールは大学を卒業して、企業に入って、いい年で結婚して、子供産んで、そのレールから乗り落ちないように気をつけましょうね、といつの間にか誰かに教えられている。
僕は10月になってやっとある一社から内定をもらったのだが、ネットの評判の悪さとこんなとこよりもっといいところに行けるというくだらないプライドのせいで、内定をもらってわずか1週間で辞退した。決まった瞬間は、周りの人におめでとうと声をかけられた。これで自分も晴れて自由の身、というはずだったのに、内定を取ったら取ったで、それがゴールになっていた僕はえも言えぬ気分になってしまった。やっとこさ軌道修正して、電車にしがみついたのに、あっけなく自ら身を引いてしまった。
結局、次の年も僕は懲りずに就職活動をして、3社ほど最終面接までこぎつけたのだが全部最終で落とされるという快挙を成し遂げた。そりゃあ本気でその会社に入りたいという思いがなかったら落とされる。
その後半年間の現実逃避というの名の留学を経て、そこからフリーのライターとして仕事をしている。大学時代インターンをしていた頃に記事を何度か書いたことがあるとはいえ、言ってしまえば就業経験が無く、社会的信頼もない奴だ。給料はもちろん少ないし、仕事も簡単には見つからない。自分の記事がうまくはねた時や仕事がある時はいいのだが、うまくいっていないと本当に気分が沈む。それはもうびっくりするくらい。それでいて、周りの人に「今どうしてんの?」、「就職は?」、「このままいくとやばくない?」と見えない圧力をかけられる。その度にやっぱちゃんと就職しないと、という気分になり求人票とかを見たりもするのだが、やっぱり文章を書いてお金を稼ぎたい、と振り出しにもどってくる。第二新卒のエージェンシーに行ったり、先輩にどこか入れるところがないですかと聞いたり、親にまで迷惑をかけてしまったのだけれど、僕は文章でお金を稼ぎたいし、それしか武器がない。正攻法ではもう勝てない。
新卒のフリーライターなんて、30過ぎてコンビニでアルバイト定員をしているくらい、はたから見ればありえないだろう。
コネ無し、実績無し、信頼無し。
成功するかもわからない。
自分でレールをひたすら作っていくしかない。みんなが仲良く列車で通過していく横で、汗水たらしながら、時には泣きながら、立ち止まりながら、振り返りながら、無いレールを敷いていく。でも、その道を選んでしまったし、やるしか無いのだ。そここそが自分が生きるフィールドであり、天職になりうるのだ。人の尺度に沿った人生、社会だか世間だかが、正しいと言ったような人生だけが生きる道じゃ無い。
むしろそこに抗って自分の道を生きるほどが、よっぽどカッコいいじゃ無いか。
それでも、大都市のアスファルトの森で自分らしく生きるのはとても難しいと思う。
大多数の人が企業に属しているのが当然の世間では肩身がせまいだろう。
でも、そこで視野を狭めてはいけない。世界は広いし、あなたの周りがあなたを認めなくても、そうじゃない人があなたを認めてくれるかもしれない。
せまいせまい、檻のような場所で自分を見失いそうになったら、是非この本を読んでみてほしい。
大自然に出ると自分がちっぽけに思える、なんて話はよく聞くけれど、この本は旅に出なくても、地球の広さと、自分の悩みのちっぽけさを教えてくれる。
あなたの世界は、あなたが目で見ている世界ではないのだから。
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