リーディング・ハイ

時代小説はつまらない! と思っていたのに――幕末まらそん侍《リーディング・ハイ》


marason

 

記事:西部直樹(リーディング・ライティング講座)

 

 

時代劇が嫌いだった。

テレビで「水戸黄門」がはじまると、うんざりしたものだ。

子どもの頃、半世紀近く前のことだけれど……

 

父は時代劇が好きだった。

ゴールデンタイムになると、父は毎日チャンネルをひねり(テレビのチャンネルは回転式だったのだ)時代劇を観ていた。

テレビは一台しかないから、必然的に子どももその時代劇に付き合うことになる。

しかし、つまらない。

もっと、ドリフターズとかなんとかを見たかった。

しかし、チャンネル権は父が握っていたから、子どもは強制的に観ることになっていた。

時代劇は、わたしの楽しみの番組を阻止する憎むべき存在だったのだ。

 

無理に観ていた時代劇、なぜ、つまらなかったのか?

何しろ、昔のことなので、何をしているのかよくわからない

小学校にとって、武士と町民の関係とか、

江戸時代の暮らしとか、武士たちの矜持とか

そんなことは、わからなかったのだ。

 

わからないものを観ることは、苦痛だ。

だから、嫌い、憎むべき存在になっていたのだ。

 

しかし、わからないといいながら見続けていると、

困ったことに(困らないけど)何となく、わかってくるのである。

 

いろいろとわかってきても、その時代劇を見ている限り、ドリフターズをみることはできない。

やっぱり嫌いだった。

 

小説をよく読むようになっても、時代小説や歴史小説は何となく敬遠していた。

時代劇の後遺症なのか、嫌な感情が先立ち、あまり面白いとは思えなかったのだ。

 

 

ところが、ある日、読書系の雑誌がやたらと時代小説が面白いと勧める特集をしていた。

そんなに面白いのか、とちょっと悔しくなってきた。

わたしは大勢(たいせい)に与したくない、という孤高を気取る気持ちがある反面、

流行とか常識とか大衆の動向とかに乗り遅れるのも良しとしないところがある。

天の邪鬼なのである。

そんなに面白いのなら、ひとつ読んでみてやってもいいかな、と上から目線で一冊の時代小説を手に取った。

 

夏休みに帰省しようとしていた時だった。

わたしの故郷は北海道である。

働きはじめて間もないころだったので、空路を行く経済力はなく、空路の半額以下の海路を使って返ることにしていた。

当時まだ航路があった東京――釧路間のフェリーを使った。

東京から釧路まで、30時間ほどの船旅である。

 

船に乗っている間は、何もすることがない。

本を読むか、食事をするか、船酔いをするか、それしかない。

だから、読書をすることにした。

 

北海道からの帰り、乗船して、さて、これから何を読もうかと手にしたのが、

池波正太郎「剣客商売」の一巻目であった。

 

参った、

秋山小兵衛(あきやま こへえ)、秋山大治郎の親子の話、絡む女性剣客三冬の凛とした姿、

飄然とした小兵衛の剣

大治郎の剛の剣

魅せられてしまった。

 

江戸時代の約束事とか、今は見ることのできない江戸時代の生活、風景、など何の障りにもならなかった。

あっという間に読んでしまった。

 

次が読みたい!

しかし、今は海の上、フェリーのささやかな売店には、文庫本は並んでいるけれど、剣客商売はない。

地団駄を踏む、焦がれる思いというのはこういうことなのか、と思ったものだ。

 

東京に着き、地面に脚をおろすやいなや、書店に走り、続きを買ったのである。

 

爾来、時代小説に対する忌避感はなくなった。

 

池波正太郎、藤沢周平、山本周五郎などなど、読み広めていった。

読むと面白い。

なぜ、今までこんなにも面白いジャンルを避けていたのだろう、と後悔の念が押し寄せる。

 

なぜ、こんなにも面白いのだろう。

時代小説といってもいろいろあるけれど、その中でも、この類の話は面白い。

「痛快TV スカッとジャパン」である。

 

痛快TV スカッとジャパンというバラエティ番組が好きである。

 

娘がバラエティ好きで、この番組をよく見ている。

ついでにわたしも観てしまう。

何年たっても、つい観てしまう派なのである。

このバラエティは、なかなか優れもので、観ているとスカッとするのである。

溜飲が下がる。胸のつかえがなくなるのである。

視聴者から送られてきた話を元に、

こざかしい後輩とか嫌みな上司などに対する復讐譚なのである。

なにかと嫌みなことを言う無能な上司をあることでぎゃふんと言わせたとか、

高慢ちきな女性店員をグーの音も出ないほどやり込めたとかという話なのだ。

 

散々いじめられたり、理不尽な抑圧を受けたり、そんな状況を打ち破ったとき

スカッとするのである。

 

う、これは、長年嫌っていた「水戸黄門」と同じではないか。

副将軍水戸光圀一行が、

さまざまなところで会う事件、蔑ろにされる庶民とか善良な人たち。

黄門様も、地方では顔を知られていないので、悪人から虐げられたり暴虐にあったり

とギリギリと抑圧されていくのである。

それが最後に、だいたい8時43分頃に、格さんが

「ひかえ! この紋所が目に入らぬか! こちらにおわすお方をどなたとこころえる。恐れ多くも先の副将軍、水戸光圀公であらせられるぞ!」と印籠を取り出して、それまでの暴虐の徒をひれ伏させるのである。

いやあ、気持ちがいい、スカッとする。

 

逆転とそういうのは、人の根源に触れることなのかもしれない。

抑圧からの脱出という情景は、気持ちがいいものなのだ。

 

 

江戸時代、武士や武家の生活は大変だったのだろうな、と思い巡らす。

殿様は絶対だし、凄まじきものは宮仕えというように、なかなかその社会で生きていくのは辛いものだったのかもしれない。

幕末にペリーが来航して日本中があたふたとしている頃、各藩の殿様たちもあたふたとしていたに違いない。

そこで、これからは体力だと言い出す殿様がいても不思議ではない。

武家は武家らしく、体力が肝要だ。ちょっと遠足(とおあしと読む。マラソンのこと)をさせてみるか、と思いつく殿様もいるだろう。

 

殿様の言うことがだからと、家臣も反対できない。

殿様は楽しそうだけれど、やる方、やらせる方も大変だ。

武家社会は、ひとつの藩組織というのは、もしかすると、今で言うところの「ブラック」だったところもあるのではないか。

このブラック武家組織は、逃げ場がないのが残念なところだ。

 

ハーフマラソンよりも少し長い距離を走らされることになったら、どうする?

 

功名心に走る者、これを機になにごとかを企てる者、隠密の暗闘とか……。

 

江戸時代の参勤交代は、強制単身赴任というか、別居結婚を領主に迫ることだったんだな。

城主の単身赴任に合わせて、部下も参勤交代する。

田舎侍が江戸にでたなら……

そんな物語もある。

 

そして、水戸黄門様の印籠である。

スカッとジャパンである。

最後の頁から、清々しい風を感じるのだ。

 

読み終えた本を片手に、ちょっと、遠足をしてみようかな、と思ってしまう。

この場合の「遠足」は、とおあしではなく、えんそくと読む方だけれど。

 

 

 

紹介した本:幕末マラソン侍 土橋章宏 角川春樹事務所

剣客商売 池波正太郎 新潮文庫

 

紹介した番組:痛快TV スカッとジャパン フジテレビ 月曜夜7時57分~

 

  
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2016-11-28 | Posted in リーディング・ハイ, 記事

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