岩井俊二監督の「リップヴァンウィンクルの花嫁」を見て、私はやっと自分の居場所を見つけられたのかもしれない《リーディング・ハイ》
記事:菊地功祐(ライティング・ゼミ)
「映画ラボはアメトークをイメージしてくれたら分かりやすい」
初めて来る天狼院映画ラボで緊張のあまりオドオドしていた私に声をかけてくれた、ある方の言葉だ。
池袋にあるちょっと変わった本屋さん「天狼院書店」。
私はそこに10月からライティング・ゼミに通い始め、週に数回、
この池袋にあるちょっと変わった本屋さんに通っている。
毎日のようにイベントが開催され、一年中怒涛のスケジュールでイベントが回っている本屋さんだ。(スタッフさんは本当に大変そうです)
そんなちょっと変わった本屋さんだが、数ある天狼院のイベントの中で気になっていたイベントがあった。
それは……天狼院映画ラボだ。
私は大の映画好きだ。
大学時代には暇な時間を持て余して年間350本以上の映画を見ていた。
自主映画制作に熱中していて、映画を撮るために走り回っては、家では浴びるように映画を見ていた。
映画が好きで好きで仕方がなかったのだ。
当時は本当に浴びるように映画を見ていたのだ。
あまりにも大量の映画をレンタルしていたので、TSUTAYAから年賀状が届いてしまった。
それほど映画が好きだった私だが、ある日を境に映画を見れなくなってしまった。
それは、会社を辞めてしまった日からだった。
私は前職でテレビ番組制作会社に勤めていた。
朝から晩まで働き、1日30分くらいしか寝れない日が続いた。
四六時中、走り回り、私は疲れ切ってしまった。
本当に疲れてしまった。
人間、精神的に疲労困憊が続くと頭がおかしくなってしまうものだ。
今でもぞっとするのだが、いつものように終電で家に帰る途中、新宿駅で、
ホームに入ってくる電車に吸い込まれそうになったことがあった。
無意識に電車が入ってくる線路に倒れこんでしまいそうになったのだ。
あと少しで、電車にぶつかりそうになった時に、ふと我に戻り、姿勢を立て直した。
自分でもぞっとした。
もし、あと少し、呆然と前に倒れこんでいたら、人身事故を起こしてしまっていたのかもしれないのだ。
本当に無意識に、ホームに入ってくる電車に吸い込まれそうになった。
結局私は新卒にも関わらず、数ヶ月で会社を辞めてしまった。
辞めると言った記憶すらない。
辞表を提出した記憶がないほど、精神的におかしくなっていたのもしれない。
同期の人たちは今でもテレビの世界で頑張っている。
会社にいた先輩ディレクターも、人見知りの私に会社での居場所を作ってくれようとしてくれた。
そんな先輩や同僚を裏切って、私は会社を辞めてしまったのだ。
その日から私は映画を見るのが辛くなった。
半年ほど過ぎたあたりから、徐々に映画を見れるようになったが、テレビを見るのは今でもきつい。
私は映画が昔から大好きだった。
子供の頃は「ジュラシック・パーク」や「スター・ウォーズ」がきかっけで
映画好きになった。
自主映画を作っていた頃は、多くの人と関わりながら、一つの作品を作り上げる映画作りというものが楽しくて仕方がなかった。
今思うと、映画が好きというよりも、必死に自分の居場所を追い求めていただけなのかもしれない……
私は中学や高校生では学校になじめず、ずっとクラスの隅っこにいるような
生徒だった。
そんな自分に嫌気がさし、大学では映画だけは誰にも負けないようにしようと思い、浴びるように映画を見て、アホみたいに映画を撮っていた。
自分の居場所が欲しかったのだと思う。
一つの映画を作ることで、スタッフや役者などいろんな人に声をかけ、多くの人が自分の映画作りに集まってきてくれた。
多くの人と関わりながら一本の映画を作っていく瞬間だけが、
自分の生きている意味だと感じていた。
映画を撮り続けることだけが、自分が生きていい理由のように感じていたのだ。
私は自分の居場所を必死に探し求めていたのだと思う。
就活では縁あって、テレビ制作会社に内定がもらえた。
憧れの映像業界だ。
しかし、現実はそんなに甘くない。
連日、朝の5時まで続く、ロケテープの取り込み作業で寝不足が続いた。
自分のプライドなどズタズタに切り刻まれた。
結局、私は会社に自分の居場所を見つけられなかった。
いや、見つけようと努力しなかっただけなのかもしれない。
いろんな素敵な先輩に囲まれ、今思えばすごく恵まれた環境だったと思う。
もっとがむしゃらに働けばよかったとも思う。
しかし、私は逃げ出してしまったのだ。
仕事がつらく、周囲に溶け込めなくて、会社に自分の居場所をどうしても見つけられなかったのだ。
自分の居場所を追い求め、会社を辞めてから海外へ旅に出た。
バックパッカーの貧乏旅行で東南アジアをぐるっと回った。
私はラオスの山奥にある秘境まで行ってみた。
しかし、どこまで行っても自分の居場所は見つけられなかった。
ここだ! と思う場所が見つけられなかったのだ。
日本に帰ってから、悶々とした日々を過ごしていたある日、
私はFacebookで天狼院のページを見かけた。
そこには天狼院のライティング・ゼミに通う受講生が書いた記事が投稿されていた。
私はある記事が目に止まった。
それは、妊娠8ヶ月の時点で、ライティング・ゼミに通い始め、
4ヶ月に及ぶライティング・ゼミの間に出産を経験したという女性の方の記事だった。
毎週記事を投稿しながら子供を出産するって凄すぎるだろ!
陣痛の痛みに耐えながら、記事を書くって……
この人、どんだけ精神力強いんだと思った。
その記事に興味を持ったことがきっかけで私は天狼院のライティング・ゼミを受講することに決めた。
あの日から三ヶ月経ち、毎週月曜日のメディアグランプリの締め切りに向けて、
私はライティングに励む毎日を送っている。
ライティングは書くのが辛くなる時もあるが、楽しい。
楽しくて仕方ない!
ライティングをしていると私は映画作りに熱中して、走り回っていた日々を思い出す。やはり、私はものづくりが好きなのかもしれない。
そんな時に天狼院映画ラボに参加し、岩井俊二監督の
「リップヴァンウィンクルの花嫁」という映画に出会った。
熱狂的な映画好きの人たちが
「この映画いいよ」
「黒木華かわいいよ」
「婚活物のAVみたいで面白い映画だよ」
と笑いを交えながら絶賛していた映画だ。
私もこの映画を見てみたが、中盤で涙が止まらなくなってしまった。
完全に主人公の黒木華と自分が同化してしまったのだ。
SNS時代にネット上にアカウントを作り、ネットだけの出会いに、救いを求めていた主人公は、現実の社会で多くの人たちに裏切られ、人間関係に苦しんでいく。
しかし、彼女はどこか生きづらさを抱えながら、社会に溶け込もうと必死に努力しているのだ。
そんな彼女もある日を境に限界がくる……
「私はどこに向かって歩けばいいんですか?」
黒木華は携帯に向かって、ある人に話しかける。
「私はどこに向かって歩けばいいんですか?」
そのセリフを聞いた時、私は自分の居場所を求めて世の中をさまよっていた日々を思い出す。
海外まで飛び出してみたが、結局自分の居場所は見つけられなかった。
「私はどこに向かって歩けばいいんですか?」
私は今、ライティング・ゼミに通い始め天狼院という居場所を見つけられた。
必死に記事を書く中で、やっと見つけた居場所だ。
フェイスブックグループに流れる文章見て、この人の書き方うまいな〜。
自分なんてまだまだだ……
とメディアグランプリに投稿される記事を読んでは毎回思う。
その中でも文章だけのつながりが生まれていった。
まだ会ったことすらないのに
「記事を読んで感動しました」
などとメッセージを飛ばしてくれる人もできた。
ネット上のつながりだが、そのつながりを大切にしなければいけないと思う。
ネットの世界に自分の居場所を求めて、さまよっていた
「リップヴァンウィンクルの花嫁」も、最後には現実の社会の中で、
小さな場所だが、自分の居場所を見つけられた。
私も彼女のように、自分の居場所を見つけるためにも、
今は必死こいてライティングに励むしかない。
そう思って、私は日々ライティングに励んでいる。
………
「読/書部」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、スタッフのOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。
また、直近の「リーディング&ライティング講座」に参加いただくことでも、投稿権が得られます。
【リーディング・ハイとは?】
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