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リーディング・ハイ

「やりたいのにやれない」という思いに苦しむ人がいたら、とある女性が書いたブログ日記が特効薬になるかもしれない《リーディング・ハイ》


記事:菊地功祐(リーディング・ライティング講座)

 

 

「やっと見つけた」

 

天狼院のフェイスブックページを初めて見たとき、直感的にそう思った。

 

池袋にある小さな本屋さん、天狼院書店。

私は去年の10月からこの小さな本屋さんに月に数回通っている。

天狼院のライティング・ゼミに通い始め、店主の三浦さんからライティングの

技術を学んでいった。

私はもともと、ものを書くことは好きだった。

いや、根本的にものを作るのが大好きな子供だったと思う。

 

幼稚園の頃には、映画「タイタニック」に衝撃を受け、牛乳パックで自家製のタイタニック号を作り、風呂場に沈めて遊んでいるような子供だったのだ。

 

昔から映画の世界に入り込んでしまう子供だったと思う。

自分が生まれ育った家の近所には「ゴジラ」などが撮影された東宝撮影所があった影響もあり、子供の頃から映画に親しみを持つ環境で育った。

 

その流れで自然と映画に興味を持ち、大学では自主映画制作に熱中していった。多くの人と関わりながら一本の映画を作るのは楽しかった。

 

どこか心の底でものを作る人間でありたいと思っている自分がいたのだ。

 

しかし、クリエイティブな世界では誰もが食っていけるわけではない。

映像が好きだという理由でテレビ業界に新卒で入ったが、好きだからこそ仕事は辛かった。

 

度重なる残業や睡眠不足のため、私はノイローゼになってしまったのだ。

もし、その仕事が自分にとって興味がないことだったら黙って耐えられていたのかもしれない。

 

しかし、映像制作は私が好きなことだったのだ。

好きだからこそ、自分の理想とのギャップに苦しみ、もがいていた。

 

結局、私は会社を辞めてしまった。

平均1日の睡眠時間は30分だった。

度重なる睡眠不足の影響もあって2ヶ月で8キロも体重が減っていた。

 

ノイローゼになり、世の中をさまよっている時に私は天狼院と出会った。

ある人は

「天狼院は人生に迷う人だけが出会える本屋なんです」

と言っていた。

 

本当にそうなのかもしれない。

私は人生のどん底を経験した時に、天狼院書店と出会えたのだった。

 

10月からライティング・ゼミに通い、私は必死に三浦さんの講義についていった。三浦さんの言葉を一言も漏らさないつもりで講義を受けていたと思う。

 

もう私にはこれしかないと思ったのだ。

 

書くことしかないのだと……

 

もがきながらも毎週記事を書いて投稿していった。

掲載オーケーがもらえるときもあれば、ダメ出しをもらうこともあった。

 

三浦さんや川代さんに記事を落とされた時は、死ぬほど悔しかった。

 

ちくしょう! と思った。

 

今まで適当に生きてきた私だったが、たった2000字の記事が掲載できなかっただけで、こんなに悔しい思いをするとは思わなかった。

 

いつの間にか「もっと書けるようになりたい」と私は思っていたのだ。

 

ライティング・ゼミも後半戦になり、記事の掲載率が上がってきた頃には、

ゼミ生内で知っている人ができ始めた。

 

毎週、記事を投稿していくと

「この人面白い記事書くな」

「この記事面白い!」

など、記事を書いている人に私は勝手にファンになってしまったのだ。

 

 

天狼院で実際にその記事を書いた人に会ってみると

「この記事はどんな思いで書いたのか?」

と、私は質問攻めにしてしまった。

 

相手の方も私の記事を読んでくれていたようで、

「実は私もあなたの記事を読んでいました」

と言ってくれる人もいた。

 

死ぬほど嬉しかった。

 

ライティングでこんなにも見知らぬ人と絆が生まれるとは思わなかった。

 

私はもがきながらも4ヶ月のライティング・ゼミを終え、次はどうしようかと迷っている時に、ふとフェイスブック上で三浦さんが書いていた投稿を見た。

 

それは就活生に対してのエールだった。

 

「親のために就活をやめること。それが結果的に最大の親孝行になる」

 

三浦さんのその強いメッセージに私のように心を打たれた人も多かったようで、

フェイスブックを通じて、ものすごい勢いで拡散されていた。

 

やはり三浦さんの熱意というか生きる力はすごいと思った。

ここまで人を動かすなんて。

 

 

私はその三浦さんの記事を読んで、自分が就活をしていた頃のことを思い出していた。

就活にもがき苦しんでいたあの頃を……

 

 

「御社に入社を希望する理由は〜」

 

私はその時、とあるテレビ局の面接に挑んでいた。

相手はマスコミ関係者だ。

 

一般の企業のような硬い自己PRは通用しないと就活対策本に書いてあった。

 

「私は大学時代に自主映画サークルの仲間を集めてゾンビ映画を作りました」

 

「え? ゾンビ映画!」

面接官の食いつきは良かったと思う。

自己PRの時間でゾンビについて語り出す就活生は私ぐらいだろう。

 

「どうやってゾンビを作ったの?」

 

「ネットでゾンビメイクについて調べたんです。10リットルの血糊を用意しました!」

 

面接官は爆笑していた。

マスコミ就活の場合は、きちんとした会話でなく、面白い会話をしたほうが

いい印象を持たれる場合が多い。

 

面接官の多くがマスコミの世界で働く人たちだ。

常に面白いネタを探している。

 

そんな人たちに向けて面白いネタを提供するのがマスコミ就活で生き残るコツなのかもしれない。(というか就活対策本にそう書いてあった!)

 

面接官に対して笑いをとったあと、私は最後にこう聞かれた。

 

「それで君は何がやりたいの?」

 

私はすぐには答えられなかった。

自分はいったい何がしたいんだろう?

 

映画が好きなのは事実だ。

自主映画を作るのもとても楽しかった。

しかし、何の仕事をしたいのか? と聞かれたらすぐには答えられなかった。

 

本当にテレビや映像の世界に行きたいのかもわからなかったのだ。

 

私はテレビ局や大手の広告代理店を受けては落とされまくった。

本当にそのようなマスコミの世界に行きたかったのかはわからない。

 

今思うと、私はただクリエイティブな人間になりたかっただけなのだと思う。

 

誰でも知っているような民放のテレビ局に内定して

「お前すごいな」

「やっぱり持っている奴は違うな」

と大学の同級生に言われたかっただけなのだ。

 

自分は人と違っている何かを持っていると思い込みたかっただけなのだ。

そんな自意識過剰でイタイ奴に内定を出すほど、世の中はあまくない。

 

 

マスコミ関係の会社は、ほぼすべて落ちた。

20社以上のエントリーシートを書いていたのに、ほぼすべて落ちた。

 

落ちて落ちて落ちまくっていたのに、まだ私は大手企業ばかりを受けていた。

 

 

大学の同級生は次々と内定をもらい、就活を終えていった。

大学三年まで飲みまくっていただけなのに、なんであいつらは内定を取れるんだ……

 

自分は努力していたつもりだった。

誰よりも映画を見て、誰よりもクリエイティブな存在になろうと努力していたつもりだった。

 

年間350本の映画を見て、人を感動させるコンテンツについて自分なりに

ずっと考えていた。

 

だけど、そんなことは社会では必要とされない。

私のことを気にかけてくれる会社はほとんどなかった。

 

なんで誰も自分のことを見てくれない。

自分はすごい人間であることになぜ気付いてくれないんだ! と思っていた。

 

私はずっと、ものを作る人間でありたいと思っていた。

だけど、就活という波に翻弄されているうちに、

私は本来、何がしたいのかわからなくなってしまったのだ。

 

結局、私の就活は長引いて6月まで続いてしまった。

その頃にはほとんどの就活生が少なくとも1社は内定をもらっていた。

 

私は内定ゼロだった。

焦っていた。

 

どうすればいいんだと真っ暗闇の中をひたすら走り回っていたと思う。

 

結局、運良くとあるテレビ番組制作会社に内定をいただき、就活を終えることはできた。

 

終えることはできたが、まだ釈然としない自分がいた。

この結果でいいのかと悩んでいたのだ。

 

自分がやりたいことって何なんだろう……

そう思っていた。

 

自分が心から望んでいるものと社会とのギャップがあってどこに進んでいいかわからなくなっていたのだ。

 

就活セミナーの人は

「自分がやりたいことを社会が求めているものに合わせることが大切だ」

と言っていた。

しかし、その答えに釈然としない自分がいたのだ。

 

どこかモヤモヤを抱えたまま、就活を終えてしまっていた。

 

 

そんなモヤモヤを抱えていた時だった。

この本と出会ったのは。

 

いつものように家の近所にある本屋をブラブラしている時に棚の下に置かれてあったその本が目にはいった。

 

私はその本のタイトルに惹かれてしまった。

 

「えいやっ! と飛び出すあの一瞬を愛している」

 

聞いたことがないタイトルだった。

誰が書いた本なんだろうと思った。

 

私は手にとって本を読んでみることにした。

 

すると、驚いた。

作者が書いた文章が心に染みわたっていったのだ。

とにかく作者の文才が凄まじい。

 

今の自分が追い求めているものが、この本に書かれているのかもしれないと

直感的に思った。

 

この本は早稲田に通っていたとある女性が、大学生の頃から書いていたブログ日記を本にまとめたものだった。

作者は若者に絶大な人気を誇ったバンドリーダーの姉だった。

小山田咲子さんという方だ。

 

バンドリーダーである彼女の弟が書いた歌詞は多くの若者の心を動かしていたと思う。歌詞の中にちらっと姉のことも書かれてあった。

 

彼女は大学時代にはよく海外を旅していたらしい。

本の序文にも書かれてあるが、早稲田のゼミの教授も呆れていたようだ。

「また、君は旅に出るの?」

と何度も休みがくるたびに問い詰めていたらしいのだ。

 

そんなパワフルで行動力のある彼女が世界中の人と触れ合いながら人生について考え、生きることについて書いたのが、このブログ日記だった。

 

パワフルな生き方をした彼女らしい言葉がそこには書いてある。

 

私は本を読んでいくうちに心が洗われていくように感じていた。

彼女の文章は透き通っていて、透明な海の中で泳いでいるような感じがしたのだ。

読んでいて心地いいのだ。

 

2002年から始まるその日記は毎日更新されているわけではなく、数ヶ月に一回の時もあれば、数日に一回の時もあった。

 

彼女は気まぐれで書いていたのかもしれない。

しかし、一個一個の文章がとても洗練されていて、読んでいて心地がいいのだ。

 

私はその日記を読んでいく中で、ある文章がとても気になってしまった。

それは2003年の4月に書かれたものだった。

 

その文を読んだ時に私は思わず涙しそうになった。

自分が思い悩んでいたことがそこに書いてあったのだ。

 

それは「思いの強さ」というタイトルだった。

 

「人が本当に何かをやろうと決めた時にはそれを邪魔するような巨大な壁って実はあまりなくて、環境はむしろびっくりするような偶然を用意して背中を押してくれることも多い」

 

 

やりたいことがあってもやれないというのはその人の言い訳なのだろう。

自分自身としっかりと向き合える環境が作れていないだけの問題なのだろう。

 

私はこの一文を読んで心が震えた。

 

私がやりたかったこと…‥

それはものを作ることだった。

ものを書くことだった。

 

何かをやりたい気持ちがあっても、モヤモヤを抱えていたのは自分自身としっかりと向き合える環境ができていなかっただけなのかもしれない。

 

本気でやりたいという思いが強かったら、目の前に壁などないのだ。

就活をしている時は、自分と社会との間に強大な壁が立ち塞がっているように感じていたが、そんな壁などなかったのだ。

 

 

本気でやりたいと思っていたら、目の前に壁などあるはずがない。

そう思えた。

 

私はその後、内定をいただいたテレビ番組制作で働くことになった。

しかし、何かが違う。自分はもっと夢中になりたいものがあるはずという気持ちがずっと心の隅っこにあった。

 

結局、あまりにも過酷な労働環境のため、私は会社を辞める選択をした。

新卒で入った会社を数ヶ月で辞めてしまったのだ。

転職活動の時には苦労した。

社会人を数ヶ月でドロップアウトした人間には、日本という社会はとても冷たかった。

 

会社を辞めなければよかったと後悔したことも正直ある。

 

しかし、今となってみればこれでよかったと思う。

もし会社を辞めていなかったら、私は天狼院と出会うこともなかっただろう。

ライティングの楽しさに気づくこともなかったのだ。

 

4ヶ月のライティング・ゼミが終わった今、私はよく彼女が書いたブログ日記を読み返す。

 

2002年から始まったこのブログ日記は2005年のある日を境にして終わっている。

 

いつものように休みを利用してアルゼンチンまで旅に出た彼女はそこで交通事故に遭い、この世を去ってしまったのだ。

 

この本は残された両親と弟が出版社に掛け合い、早稲田の教授たちの協力もあって、出版された本だったのだ。

 

この本を書いた彼女はもうこの世にはいない。

しかし、彼女が書いた言葉はこの世に残っている。

 

私は彼女のように人の心に染みわたり、いつまでも今を生きている人に届くような文章を書きたいと思っている。

 

就活で苦しみ、社会に出た後ももがき苦しんでいた私がたどり着いた答えがそれだった。

お金の面や社会との建前などいろんな壁があるだろう。

 

だけど、自分が完全に自分と向き合える環境を作れた時、

周りの景色は思いもかけない偶然を用意してくれるはずなのだ。

そう言った彼女の言葉を信じて、私は今日もライティングに励んでいる。

 

 

「えいやっ! と飛び出すあの一瞬を愛している」   小山田咲子著

 

 

 

  
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2017-03-08 | Posted in リーディング・ハイ, 記事

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