人生の分岐点になるかもしれない《リーディング・ハイ》
記事:カワノフミノリ(リーディング&ライティング講座)
人生はよく長い道に例えられる。
この世に生まれたときから人それぞれ自分の道を一歩ずつ歩き始める。
道の途中にはたくさんの分岐がある。
自動販売機の前で、ジュースにするかお茶にするかという小さな分岐、
誰と結婚するかという大きな分岐まで様々ある。
私はよく今まで通ってきた道を見て、分岐を振り返る。
今この道を歩いているのは、あの分岐があったからだなとか。
あの分岐のときに反対を選んでいたらどうなっていただろうかとか。
振り返ってみると、当時は分岐だとは思ってなくても、今はあれが分岐だったと気づいたりするものもある。
例えば、今私が東京で働いているのは、大学生のとき付き合っていた彼女に
「男なら一度は首都に出ろ」
と言われたからだ。
言われたときは「ふ~ん」と流して聞いていたくらいだったが、
就職活動をしているとき、いろんなときにその彼女の言葉が反芻して判断の材料になっていた。
今ならば彼女にそう言われたことが、東京で働くという道の分岐だったと確信できる。
最近、今こうして文章を書いていることの最初の分岐はなんだったのかと考えてみると、
「友人の結婚式で友人代表として挨拶をしたこと」と「一冊の本」
この2つが浮かんでくる。
なんでこの2つなのかと説明するためには、まず結婚式で挨拶したことから話さないといけない。
ちょうど3年ほど前、私は友人の結婚式に出席した。
友人は小学校からの大親友でお互いに結婚式では挨拶を頼もうと決めていた。
私は1ヶ月ほど前から着々と準備を進めた。
1ヶ月は少し早すぎると思われるかもしれないが、それだけ待ちに待ったものだったし、
親友をなんとしても喜ばせて、「やるじゃん」と言わせたかった。
「結婚式 友人挨拶」で検索し、使えそうな凡例を探す。
凡例や決まり文句と親友の人柄や自分とのエピソードをいろいろ混ぜ合わせて挨拶の文を考えた。
本番の3日前から練習して、すべて暗唱できるようにした。
準備は万端だった。
それだけ準備しても、本番はすごく緊張した。
する前は、いつまでも手汗が引かないし、いくらビールを飲んでも少しも酔わなかった。
いよいよ、私の挨拶になった。
会場は少しガヤついていて、新郎はこっちを見て軽くにやけている。
マイクの前に立つと声が震えて、一瞬いまから言い始めるフレーズを忘れそうになる。
「ただいまご紹介に預かりました新郎の友人のカワノです、新郎新婦、ならびにご両家の皆様におかれましては・・・・・・」
なんとか1回もカンペを見ずに、最後まで言い切ることが出来た。
たいした失敗をしなかったことに、まずは安心した。
新郎の方を向き、ガッツポーズを送った。
会場も少し受けていたようだし、自分でも上々の出来だった。
席に戻るまでの間に、知らないおじさんに
「上手だね、良かったよ」
と言われて、さらに調子に乗り、とても満足していた。
この良い思い出が、1年ほど前に「1冊の本」によって思いっきりぶん殴られてしまうとは思いもしなかった。
ふらりと何の調べもせず本を買ったのは久しぶりだった。
待ち合わせまでの時間潰しに入った新宿の紀伊国屋、
新しく出ている文芸書をチェックしたり、贔屓の作家さんの新作を立ち読みしたりしていた。
そろそろ時間かなと、店を出ようとしたとこで、文庫のコーナーに平積みになっているその本が目にとまった。
変わった表紙デザインが気になったのだ。
さらにタイトルと帯を読んで「なんか面白そ」と直感が働いた。
すぐレジに持っていく。
その日、読み始めると早々に、良い思い出がぶん殴られた。
「スピーチを舐めてなかったか!?」
「お前のスピーチで人は感動したのか!?」
と。
はい、舐めてました。
たぶん感動してくれたのは新郎くらいだった、いや新郎も感動まではしてくれてなかったと思います。
このスピーチに比べたらボロボロです。
冒頭は結婚式のスピーチの場面だった。
『えー、ただいまご紹介にあずかりました、鈴木でございます』
どこかで言ったことあるようなスピーチから始まる。
当然これはダメな例で、主人公はこれを聞いて寝そうになってたりする。
その後あるダメだしが耳に、いや目に痛かった。
私も挨拶もどこかで眠そうにしていた人が居たかもしれない。
最初は私もそうすれば良かったと反省することがちらほら出てくる。
けれど読み進めていくほどに、反省よりも洗練されている言葉の数々に魅せられていった。
『三時間後の君、涙が止まっている。二十四時間後の君、涙は乾いている。二日後の君、顔を上げている。三日後の君、歩き出している』
こんな文章を書けるってすごい。
もっと言葉の力を生かせるような文章を書きたい!
今、私は1歩でも近づけるように書いている。
この2つは間違いなく今のこの道への分岐になっている。
この文章もまたこの先の道のひとつの分岐になるかもしれない。
『本日は、お日柄もよく』原田マハ
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