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お父さんは、もののふ(のようなもの)になりたい


記事:西部直樹(ライティングラボ)

ひと言、決めてみたいと思うことがある。

若い頃、本や映画に影響され、その中の名台詞を使ってみたくて仕方なかった。
ハードボイルド小説の主人公のように、セリフを決めたかった。
映画のヒーローのように、ヒロインの心を射止めたかった。

例えば、夜も若い頃にバーに行って
「ギムレットには早すぎる」とか、言ってみたい。

可憐な恋人に向かって
「君に瞳に乾杯」と囁いてみたい。

夢は、夢で、現実は厳しい。
知り合った佳人と朝別れる時に
「なぜ、あなたのような強い人が優しくなれるの」と聞かれたら、こう答えたいと思っていた
「強くなければ生きていけない、優しくなれなければその資格もない、からね」
でも、実際は
「なんで、あんたはへたれなくせして、気が利かないの!」と罵声を浴び、
「……」と打ちひしがれるしかないのである。

または、彼女から、最近の不品行とか、これからのことをこのように聞かれたら
「ねえ、昨日はどうしていたの? 明日はどうするの?」
こう答えるつもりだった
「昨日、そんな昔のことは覚えていない、明日、そんな未来のことは分からない」と決めるつもりだけれども、彼女から返ってくるのは辛らつな言葉だ
「昨日のことも覚えていない、物覚えが悪くて、明日の事も考えられない、計画性のない人とはつきあえないわ、さようなら」
「いやあ、これは、その、そういう事ではなくて……」しどろもどろに言い訳するしかないのである。

ボギーにはなれない、と悟ったところで、ある本を読んでいたら、こんなセリフに出会った。

「父さんは今日で父さんを辞めようと思う」

朝の食卓で、父は子どもたちに向かってこう宣言するのである。

「父さん」をやるとは、どういうことなのだろう。
親であることを辞めることはそもそもできるのか?
疑問は尽きないのだが、
この宣言の仕方は潔い。

潔く宣言したことをお父さん(ではなくなったけど)は貫くのである。
言行一致! 

これだ。

私も家族を前に宣ってみたい
「父さんは今日から『もののふ』(のようなもの)になろうと思う」と。

もののふ(のようなもの)とは、ある種のファンの名称である。
もののふとは、ももいろクローバーZなる、アイドルグループのファンのことを指すらしい。
のようなものは、そのようなグループのファンをいう。
「もののふ」のようなファンの名称を知らないので、そういうことにしておこう。

なぜ、そのようなファンになろうと思ったのかというと、こんなことがあったからだ。

youtubeをサーフィンしていた時、いや、ネットのニュースで見たのかな。
ある楽曲のプロモーションビデオが秀逸であるとのお知らせを目にした。

何となく見たその映像に引き込まれてしまった。
女子高から共学校になった高校に入ったたった一人の男子生徒、それを取り巻く女子生徒達。女性の中にたった一人の男子だ。彼の友人はうらやましがるが、本人は大変だ。男子トイレはないし、着替えはたった一人階段で済ませなくてはならない。なかなかコミュニケーションが取れない男子と女子。
男子が夢に見るような情景である。

甘酸っぱい青春を描いた曲のプロモーション映像なのであった。

その歌を歌っていたのが、赤坂の隣辺りのグループであった。

これが噂に聞く、いや聞いていないけど、AKBのライバルグループなのか。
なぜか、その中の、筒井康隆の名作の主人公と同じ名前の女性が特に気になった。

そして、同じようにyoutubeで踊り(古いか)というかダンスの切れが素晴らしい女性グループも見てしまった。
一番目立つのは金髪の女性だが、気になったのは、どうにもその場にそぐわないような雰囲気まとう、どこかのワイドショーのお天気お姉さんのような人である。

このように、この歳で、女性グループのことが気になってしまったの女性である。

この歳で、ファンになっていいものなのか、悶々としていたら、
youtubeから、勝谷誠彦さんの声が聞こえてきた。
勝谷誠彦さんは、硬派なジャーナリストである。
しかし、彼曰く、「ももいろクーバーZ」なるもののファンだと言うではないか。
勝谷さんは、私とほぼ同世代である。
おじさんが、堂々ともののふと名乗っているのだ。
そんなことをしていいのか。
いいのだろうな。

ならば私も、そういっていいのではないか。

それにしても、なぜ、今更ながら気になるのだろう。
赤坂の隣辺りのグループの女性とか、お天気お姉さんとか、
なぜなのだろう。

彼女をみていると、思い出すことがある。
小学生の頃の同級生である。
やまさきゆうこ(仮名)さんの面影があるのだ。
そして、もう一人は
いまかわあきこ(仮名)さんと相通じるものを感じるのである

そうか、初恋の投影なのか。
叶うことのなかった、初恋というには幼い頃の思い出を、彼女たちに投影しているのではないか。

うむ、そういうことにしておこう。

こういうことだから、ファンであることを堂々と宣言しよう。

まずは、
1月発売のアルバムが欲しい。
特典DVD 付きだし。
それぞれのグループがだしている。
2枚買うと、1万円である。
悩むのである。

一万円と言えば、娘の塾代一ヶ月分である
一万円と言えば、息子の家庭教師代2回分強である。
一万円と言えば、妻が好きなアーティストのライブ2回分弱である。
一万円と言えば、うまい棒1000本分である。

それを、アイドルグループのCDなどに出していいのだろうか。
しかし、握手券付きであるらしい。1枚で3秒握手できるという。

私は、アイドルと握手をしたいのか!

いや、あの甘酸っぱい青春を想起させる歌を聞きたいのだ。
キャンディポップな歌を聞き、軽やかな気分になりたいのだ。
おそらく……。

よし伝えよう、いや、堂々と宣言するのだ。

今までも、何かあると正々堂々と伝えてきたのである。

ある書店のイベントに参加しようと思ったら、事前に堂々と伝えてきた。
我が家では急にいくとなると、いろいろと大変だから、事前連絡、予定の確認は欠かせないのだ。

イベントに参加しようと思い立ったらその3週間前に伝える

「あの~、再来週の日曜日なんだけど」
「ええ、再来週の日曜日、娘のスイミングの試験なんで見るよね」
「はい」

1週間前

「あの~、今度の日曜日、娘の試験のあとなんだけど」
「食事しようと思うんだけど、どこがいいかな」
「近くのファミレスが」
「じゃあ、それでね」
「はい」

前日
「あの~、明日の日曜日の試験のあとの食事のあとなんだけど」
「なんかあるの?」
「ちょっとイベントに参加してもいいかな」
「いいけど、そんな予定があるなら、早めに言ってよね」
「はい、これから気をつけるよ」

と、根回しとか配慮とかいろいろして、宣言するのである。

よし、言うぞ。
明日こそは!

道のりは半ば、でも早くしないと、特典付きはなくなってしまう……

※引用した本のこと
・「プレイバック」 レイモンド・チャンドラー 清水俊二訳 ハヤカワミステリ文庫
・「優しい食卓」 瀬尾まいこ 講談社文庫
・映画 「カサブランカ」
***

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