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ライティング・ラボ

【私的福岡】バトルロイヤル in 福岡


 

記事: Ryosuke Koike (ライティング・ラボ)

 

 

数年前の昼下がり、午後から休みをとった私は福岡市の中心部の公園を散策していた。

 

顔を撫でる5月の風は心地よく、日光で汗ばむスーツ姿の体を適度に冷ましてくれる。公園内の池を囲むように植えられた木々も、流れる風に身を任せ、その葉はゆったりと揺れている。芝生に横になればそのまま寝られる気候だ。

 

歩いていると、にぎやかな子供たちの声が耳に入ってきた。近所の保育園児たちだろうか。先生に連れられ、公園内に設置されていた遊具でそれぞれがおもむろに遊んでいる。

 

遊具の反対側に目をやると、やや大きめの何匹かのハクチョウが、池の中をゆっくりと「前進」していた。

鳥形のボートである。親子連れが必死で漕いでいるものもあれば、若い男女が仲好くゆったりと漕いでいるものもあった。

 

絵に描いたような穏やかな光景。

心地よい気分のまま私は家路に着いた。

 

大濠公園。

地下鉄の駅名にもなっているし、夏には大きな花火大会もあるし、福岡市民で知らない者はいない憩いの場である。

隣には福岡城跡のある舞鶴公園があり、福岡市の進める「セントラルパーク構想」により一体的な公園として整備が進めば、よりシンボリックな観光スポットになるだろう。

 

仕事を終えた夜、数か月ぶりに大濠公園に行ってみた。

公園内には、巨大な渦が回っていた。

 

 

職場の同僚でリレーマラソンに出るという話が、突如降ってわいた。

学校のマラソン大会以外にマラソンとは無縁の私だったが、大濠公園1周2kmを2回走ればよいという条件だったので、運動不足のため参加してみることにした。

 

自分のペースで走ればよいと思っていたが、監督(職場の上司)から参加者各自に達成タイムが言い渡された。監督自身のフルマラソンでの目標タイムを達成しようと画策しているらしい。他の同僚はマラソン経験者が多く余裕に見えたが、私にとってはかなり厳しい内容だったので、とにかく練習することにした。

 

練習のため、リレーマラソンの会場となる大濠公園を訪れた。

数か月前に見た風景とはうってかわり、日が沈んだ直後の公園内は、どこを見ても走る人ばかりだった。

もし当時ドローンが存在したら、空からは巨大な反時計回りの渦を一望できたに違いない。

 

しばらく人の流れを見ていたが、見ているだけでは何も始まらないので準備運動をして渦に飛び込んだ。

 

流れの中を走る。

思いのほか足が進む。

意外といけるぞ。

が、数百メートルですぐに息が上がり、みるみるうちに歩幅が狭くなっていった。

 

そんな自分の横を、いかにも普段からマラソンしてます風の男性が、一瞬のうちに現れては消えていった。

はつらつとしたおじいちゃんが、鮮やかに抜き去っていった。

若い女性の集団が、おしゃべりしながら何事もなく横を通り過ぎていった。

小学生の子供たちが、ふざけあいながら私を置いていった。

あげくの果てには、自転車が矢のように飛んでいった。

 

年齢も男女も何も関係ない。

半周もしないうちに、この無差別な戦いに打ちひしがれそうになっていた。

 

追い打ちをかけるようにコース条件が私を苦しめる。想像していただきたい。

1周2kmとキリのいい距離のはずが、実は少し足りず余計に走らされる。

微妙に坂がある。

ベンチにはところどころいい雰囲気のカップルの影がちらつく。

当時はなかったが最近ではコース沿いにスタバもできて、いつも若い人たちでいっぱいである。ヘロヘロに走る姿は嘲笑の的になること間違いなし。

 

初練習は散々な結果に終わり、翌日からは筋肉痛も襲ってきた。もう練習しなくてもいいかなと思った。

しかし、監督のリレーマラソンにかける思いは強く、仕事の指示に混じってリレーマラソンの話が飛んでくる。参加する他の同僚に迷惑をかけるにはいかなかった。

 

その後も週2回のペースで練習に出かけたが、タイムはなかなか伸びなかった。

 

練習中、公園の出入口から新たな人がやってきては、出ていく。

今日も様々な人が私を抜いていく。

一方、軽めのジョギングをしている人達を抜くこともあった。

 

それぞれがそれぞれのペースで走っている。

当たり前のことだが、今ごろ気付いた。

優劣などない。進むスピード、目標とする距離は人それぞれである。

他人との戦いではなく、自分との戦い。

 

共通するのは、ただ同じ方向に向かって進んでいること。

ああ、これは人生だ。

心にも、体にもほんの少し余裕ができた気がした。

 

リレーマラソンの開催日はすぐにやってきた。

私なりに練習したつもりだったが、残念ながら目標タイムには届かなかった。

けれど同僚の皆にカバーしてもらい、全体としての目標は達成することができた。

全員でつないだタスキをゴールで迎えたときの感動は今でも覚えている。

 

心からの歓喜と惜しみない拍手は、勝利のゴングだ。

 

 

***

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