メディアグランプリ

春の京都でカエルを食べた


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:近藤泰志 (ライティングゼミ平日コース)
 
 
「素揚げとバジル炒めがあります。どちらになさいますか?」
 
「えーっと、じゃあバジル炒めでお願いします」
 
「かしこまりました」
 
「どうして頼んでしまったのだろう」僕は厨房に消えていく店員さんの背中を眺めてそうつぶやいた。
 
話は数分前にさかのぼる。
 
ある土曜日の朝、コロナウィルスによる自粛要請のため僕は日課の空手道場にも行くことが出来ずにいた。休日に家の中でじっとしているとさすがに気が滅入ってしまうので、せめて気分転換に散歩をしようと思い自宅を飛び出した。
 
賀茂川を上流へと歩く。半木の道(なからぎのみち)と呼ばれる散歩道には見目麗しい桜が咲き誇り、この世の春を謳歌している。桜花爛漫とは正にこのことだろう。
コロナ騒動がなければこの美しい春の京都を皆、楽しんだはずだ。美しい桜を横目に複雑な思いを抱きながら、僕は足を進めた。
 
半木の道から歩くとこ数分、僕は北大路通りに着いた。
 
すると1軒のタイ料理店が目に飛び込んできた。
 
「あれ? このお店……」
 
お店の前には『トゥクトゥク』と呼ばれるタイの3輪自動車が飾られている。
 
「確かこのお店……カエル料理が食べられるってテレビでやっていたな」
 
僕は迷うことなくそのお店に入りカエルのバジル炒めを注文した。春の京都には美味しいランチが食べられるお店は数えきれないほどあるというのに、よりによってなんでカエル料理を頼んでしまったのだろう。
 
僕がカエル料理を頼んだ理由はこうだ。
 
今は世界中で暗いニュースが溢れている。
 
明るいニュースを探すほうが難しい。
 
テレビをつければ感染者の数が雨後の筍のように毎日増えていく。
 
コロナウィルスのせいで僕たちは今、まるで出口のみえない迷路に入り込んでしまったかのように不安を抱えて生きている。「明けない夜も、止まない雨もない」……と言うけれど、果たして本当に終息する日が来るのだろうかと弱気になってしまう。
 
この暗い毎日の中、「この前の休みにカエル料理を食べた」とみんなに話したら笑いの種になるのではないかと僕は思ったのだ。僕がカエルを食べたところでこの騒動が終息することはないのだけど、僕の内に秘めたる面白いネタ好きの血が騒いでしまい、僕はカエル料理を頼まずにはいられなかった。我ながら見事なサービス精神だ。
 
……なんてカッコいいことを言ってはみたが僕は注文してものすごく後悔していた。
 
だってカエルだ。
 
カエルは飼うもので食べるものではない。東南アジアの国ではカエルを食べる国があるというのは子供の頃に【なるほどザ・ワールド】というテレビ番組で観たことがあった。嬉しそうにカエル料理を食べる異国の人達を観て、僕は「うぁー」と奇声をあげていた。まさかそれから数十年後に僕自身もカエルを食べることになろうとは夢にも思わなかった。もし今、タイムマシンに乗ることが出来たらあの頃の僕の後ろに立って、耳元でそっと囁きたい。
 
「お前もそのうちカエル食べるよ」……と。
 
そんなことを考えていたら、店員さんがテーブルに『カエルのバジル炒め』を置いてくれた。
 
タイの香辛料をふんだんに使っているその料理からは美味しそうな匂いがこれでもかというぐらいしていた。細切りの人参などの中に小さな肉片が見えた。一見、鶏肉にも見えるそれは、おそらくカエルと言われなければわからないで食べてしまうのではないだろうか。
 
「これが、カエルなのかな?」
 
僕はその肉片を箸でつまんで恐る恐る口に入れた。
 
「ん? あれ? 美味しい……」
 
驚いた。
 
カエルはとても美味しかった。
 
いくつかの小さい骨は気になったが、鶏肉のような味で肉にも程よい弾力があった。
お店の方には失礼だが、おそらく口に合わずに残してしまうのではないだろうかという僕の心配は良い意味で外れ、人生初のカエル料理は予想を大きく裏切る絶品料理だった。
 
僕は一緒に頼んでいたグリーンカレーを食べながら、『カレー → カエル → カレー →カエル → カエル →カエル……』という不思議なローテーションを繰り返しながらあっという間に完食してしまった。まさかカエルがこんなに美味しいとは夢にも思わなかった。
 
「食べる前からゲテモノ料理だと決めつけてしまって正直、スマンかった」
 
僕は自分の無知を恥じて、カエルに心の中で謝罪した。やはり何事も経験してみなければわからないものだ。カエルがこんなに美味しいとは思いもしなかった。僕はカエル料理から1歩踏み出して挑戦することの大切さを改めて学んだ気がした。
 
でも、よく考えたらカエル料理じゃなくて素敵な春のケーキを食べた話でもみんなを明るい気持ちにすることはできたのではないかと思ったがそれはカエルに申し訳ないので今は内緒にしておこうと思う。
 
お会計を済ませて店の外に出た。
 
「ありがとう、カエル。また食べにくるからね」
 
僕はまた一つ大人の階段を上ったような清々しい気持ちで店を後にした。
 
目の前には麗しい春の京都が広がっていた。
 
 
 
 
***
 
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2020-04-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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