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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:まいける(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「僕、経営において一番大事な仕事が何なのかわかりました。それって、資金調達なんですよね」
 
私は会計事務所の職員として、日々たくさんの起業家の方と出会っている。
毎月、10~20人くらいの方と会っているだろうか。結構な数だと我ながら思う。
 
皆さん個性的で、年齢も経歴もバラバラ。ビジネスの内容も千差万別だ。
早々に結果を出す人もいれば、大器晩成型の人もいる。
 
それでも意外なことに、経営者の多くの方が共通して冒頭のようなことを言うのである。
 
面白かったのは、天狼院書店の三浦社長もこの前のライティング・ゼミでそのようなことをおっしゃっていた。
私は「うんうん、そうですよね」とドヤ顔で共感していたものだ。
 
なぜ、資金調達って大事なのだろう。
 
その理由は単純で、お金がある限り会社は潰れないからだ。
 
商品が売れなくて困っている?
家賃や人件費などの出費が苦しい?
毎年毎年赤字が続いてしまっている?
 
全部、関係ない。
勘違いしている人が多いのだが、これらは会社が潰れる直接的な原因ではない(ただ、かなりやばい状況であることには変わりがないが)。
 
会社が潰れる原因はただ一つ。それはお金がなくなることなのだ。
 
それは逆に、サービスや商品が良いものでどれだけ売れていても、お金が枯渇して支払いができなくなれば会社が倒産することを意味する。
 
よく耳にする「黒字倒産」というのがこれだ。
利益が出ていることと、会社が潤っていることは全然違うことなのである。
 
経営者の多くが口を揃えて資金調達の重要性を語るのは、お金が無くなって明日のご飯すらも食べられなくなりそうな経験を、みんな少なくとも一度は経験しているからだ。
 
「先生、お金がなくて死にそうです……。助けてください……」
 
そして私は、一人の起業家のことを思い出していた。
 
あくまでも自分はただの顧問税理士であり、決して経営を行う当事者であるわけではなく、実に無力であることを思い知らされた、一人の起業家との出会い。
 
彼は日本でも有名な企業に30年近く勤め上げ、夢を叶えるために独立を決意した。
 
膨大な退職金を得て、その資金を元手に銀行融資を起こして設備投資や運転資金に充てる計画だった。
 
私は彼と何度も何度も打合せをし、綿密に事業計画を立て、プレゼンのリハーサルをして融資面談に臨んだ。
 
結果は期待通り、申請した満額の融資を受けることができた。
彼は大喜びで、私にたくさんの感謝の言葉をくれた。
 
私も素直に嬉しかったし、これから彼の事業をより一層支援していきたいと、誇らしい気持ちになっていた。
 
融資を受けたおかげで、彼は元手の何倍もの資金をわずか1~2か月で得ることに成功した。
普通に貯めようと思ったら、何年も十数年もかかる金額だ。
 
それをわずか1~2か月で。
これが銀行融資の大きな効能なのだ。まるで特効薬のようである。
 
全てが、順調に進んでいるように見えた。
 
しかし、私たちは肝に銘じておかなければならなかった。
 
どんな薬にも、副作用があるということを。
 
私も得意げになっていたのだと思う。
 
融資が成功して彼に感謝された。もっと彼の役に立ちたい。
夢を叶える手助けをするためなら、できることを全部やってあげたい。
 
そんな気持ちだった。
 
彼は手にした資金を設備投資や人材の雇用、営業費用に使った。
新しく事業を起こすときはとにかくお金がいる。
 
サービスを創り、優秀な人材を雇い、どんどん営業をかけていく。
少しずつ契約が取れていき、投資したお金を回収できる。
 
はずだった。
はずだったのだが。
 
思うように契約は取れなかった。
 
従業員には高い給料を払っていたが成果は出ず、挙句の果てにはトラブルになり退職した。
 
事務所を勢い余って借りたため、月々の固定費は重くのしかかる。
 
気付くと、あれだけあった口座残高がみるみるうちに減っていった。
お金とはこんなに早くなくなっていくものなのかと、驚愕した。
 
私は焦って彼に連絡を取り、打合せをした。
 
あれだけ自信満々だった彼の姿は、久しぶりに会ったときすでにボロボロだった。
 
「お金がなくて死にそうです……。助けてください……」
 
その言葉を聞き私は戸惑いを隠せなかったが、それでも彼の事業を諦めたくない気持ちが私に訴えかけてくる。
 
何とかしてあげなくてはと思った。
自分しかこの人を助けられる人はいないと。
 
彼は、銀行から追加融資を受けてもう数ヶ月耐え忍ぶことができれば、この状況を打開して事業を軌道に乗せることができると言った。
 
私は彼の言葉を信じて背中を押すことを決め、銀行から追加融資を受ける支援に全力を注いだ。それが正しいことだと思ったのだ。
 
ミスだった。
 
すでに彼が、融資がもたらすある種の麻薬的副作用に侵されていることに気付いてあげられなかった。
 
人は一度大金を手にすると、何かデカいことをやってやれそうな気持ちになるらしい。
一時的に「万能感」、「幸福感」を得ている状態。
 
そして厄介なことに、その感覚はなかなか忘れられないものだ。
 
その結果、繰り返し融資に依存することに繋がり、
お金に困ったら銀行がお金を貸してくれるから大丈夫という錯覚や、
お金は貸してもらえて当然という幻想まで抱いてしまう。
 
過度な自信の増大や幸福感の充足をもたらし、
そして反復服用により過剰摂取と依存状態に陥る。
 
まさに麻薬に似た性質を、銀行融資は帯びているのだ。
 
最終的にどうなったか、概ね予想はつくと思う。
 
結果としては追加融資を銀行から受けることができたが状況は良くならなかった。むしろ悪くなってしまったと言っていい。
 
収益が借入返済に追いつかず、ただ資金だけが垂れ流されていく状態になった。
 
売上は、結局立たなかった。
会社は実質倒産状態になり、家もローンを残したまま失い、家族とも離別することになったと、顧問が解除された後に個人的に連絡をくれた。
 
私はなんて声をかけてよいかわからず、
ただただ、「そうでしたか」「何かできることがあれば言ってくださいね」という無責任な言葉が出てくるだけだった。
 
無力感を味わった。
後悔もしたし反省もした。
どうすればよかったか、今でもずっと考えている。
 
それ以降、私は資金調達や銀行融資の大事さを起業家の方にお伝えする一方で、
それに依存することの怖さも大げさなほどに注意喚起するようにしている。
 
同じような境遇になる人が出てこないように、大げさなくらいで丁度よいのだ。
 
融資の乱用「ダメ、ゼッタイ」。
 
起業家の方には効能と副作用をしっかり押さえて、融資とうまく付き合いながら経営をしてもらえたらと願う。
 
私にそれを教えてくれた、彼のためにも。
 
 
 
 
***
 
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2020-04-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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