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メディアグランプリ

マスクは私を守ってはくれなかった


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:蒼井とり(ライティング・ゼミGW集中コース)
 
 
「検査の結果、陽性でした。すぐ来られますか?」
電話の向こうで、保健師の女性がちょっと焦ったように言った。
私は、ショックのあまりしばらく返事をできないでいた。
「できれば、早めにお会いしてお話を聞いて、今後のご相談をさせていただきたいんです」
何回か言われて、ようやく震える手でスケジュールを確認した。
 
それが2年ほど前の話。
当然のことながら、これは新型コロナウイルスの話ではない。
私が感染したのは「結核菌」だった。
結核にかかったことで私のマスクに対する考え方は180度変わってしまった。
 
私は喘息持ちで、年中よく咳喘息にかかっている。
喘息がひどい時にはたびたび結核を疑い検査を受けていた。
というのも、うちの親が子供の頃に結核を患ったことがあった。
だから、感染しないように、多分一般の家庭よりだいぶ神経質に育てられていた。
 
仕事中、小さな部屋で人が集まる際には必ずマスクをする。マスクはお守りみたいなものだった。もちろん満員電車や飛行機でもマスクは欠かさない。マスクだって、1日何度か取り換える。除菌用のスプレーを持ち歩き、手を洗い、こまめに水分をとる。それにタイミングを見ては部屋を換気する。
 
そんな生活を送っていた時に、私の感染センサーがピコンピコンと反応することがあった。
ある仕事で月に2、3回ほどお会いする人がだいぶ長いこと夏風邪をひいたのだ。
その人はマスクはしてくるものの、喋る時にあごにひっかけていたりする。しかも喫煙家で、当然タバコを吸う時もマスクを外す。もちろん、私は会う前からマスクで対応する。
 
「その咳、ちょっと心配です。ちゃんと病院行ってください」
仕事が終わって別れる際にはそう伝えるようにしていた。
感染症の面倒なことは下手をすると相手を「バイ菌あつかいしている」と怒らせてしまうことがある。そうすると、「自分にそんなことがあるはずがない、失礼な!」と病院に行くのが遅れて治療のチャンスを逃してしまうことがある。だから、「あなたのことが心配です」のスタンスで病院にかかるように言うしかできないのだ。
 
その人は熱が下がると、マスクさえしなくなった。咳だけだと風邪のひき始め、治りかけによくあること。罪悪感や人にうつすかも、という危機感も少ないようだ。私は「病院行きましたか?」と毎回聞くので、「大丈夫だ、問題ない」とウザがられるようになった。そのうち「私が神経質なだけで、なんでもないかもしれない」と途中から思っていた。私のように咳喘息かもしれない、百日咳だってある。
 
結局、その人が結核だったとわかったのはその年の年末だった。その人は隔離入院となり、治療を開始していた。そして、私のところにも保健所から濃厚接触者として検査の勧告が届いた。
 
検査までの間、私も結核かもと恐怖していたとき、とにかく結核について調べまくった。
まず、日本は結核の中蔓延国だということ。
結核って、石川啄木、樋口一葉とか昔の人が患った過去のもので、現代でかかる病気ではないと思っていた。でも、欧米などでは10万人中だいたい5人くらいなのに対し、日本では13.3人と飛び抜けて多い。日本の医療は進んでいると思っていたから、これには驚いた。
 
それから、結核菌は感染と発症で大きく状況が変わること。
結核菌は感染しただけだと、人にうつすことはない。肺結核など発症したときに菌を排出する様になる。感染しても、すぐに命に関わるとかではない。症状が出ても病気はコントロールでき死亡率も低い。知ることで、少しだけ安心することができた。
 
結核陽性がわかって最初に先生に言われたことがまた衝撃だった。
「結核菌には特効薬はありません。感染したらこのままずっとあなたの体の中に菌は居続けます」
これから出来るのは、発症しないためにコントロールすることだけ。
私が元気ならば一生発症しないかもしれない。でも、もしかしたら、忘れたころの数十年後、私の体が弱った時にそれはいきなり暴れだす可能性がある。
私はずっと聞きたかったことを先生にぶつけた。
「マスクって無駄だったんですか?」
「マスクをすれば大丈夫とは言えません。ただ、少なくとも飛沫感染はだいぶ抑えられると思います。だから、喉に違和感を感じたりしたら、一応マスクをして早めに受診してください。近しい人のためにもね」
 
マスクは私を結核菌からは守ってくれなかった。もしかしたら、新型コロナウイルスからも守ってくれていないかもしれない。でも、大切な人の感染するリスクを減らせるのであればこれから暑くなるけれどちゃんとマスクで予防しようと思う。私のためではなく、その人のために。
 
 
 
 
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2020-05-09 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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