出産でこれだけは準備しておきたい、アレのこと。
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:鈴木かおる(ライティング・ゼミ日曜コース)
「出産で準備しておいたほうがいいもの、おススメある?」
友人が待望の第一子を妊娠したので、
激励の会と称してみんなで集まった。
そこで訊かれた、冒頭の質問で求められていたのはおそらく、
肌着は?
おむつは?
おしりふきは?
などなど、ハード面のことだったろうけど、
その場にいた、出産経験のある友人Mと私は、口をそろえて言った。
「産褥ヘルプ!」
産褥ヘルプって何よ。
2児の母である私は、今でこそ鼻息荒く「産褥ヘルプ!」と言っているけど、
子どもを産むまで、そもそも、「産褥期」って何?からのスタートだった。
「さんじょくき」
それは、妊娠と出産で変化した女性の身体がもとに戻っていくための期間。
一般的に産後6~8週間のことで、
その傷ついた身体は、交通事故に例えると、全治2か月の大けがだと言われている。
「産褥ヘルプ」は、その「産褥期」のあいだ、
母となった女性に、授乳・自身の食事・自身の風呂トイレ以外、
横たわって養生してもらえるようにするための、助け合いプロジェクト。
ヘルパーさんなどのプロや、友人同士できることを持ち寄り
掃除洗濯料理や赤ちゃんのお風呂などを物理的に助けるだけでなく、
赤ちゃんとしか話さなくなる母を、孤独にさせないというとりくみだ。
最初の出産のとき、私はとにかく赤ちゃんが無事に生まれてくることだけを祈っていた。
自治体の両親学級で教わったのは、
妊婦体操、ヨガ、 呼吸法、赤ちゃんのお風呂の入れ方、着替えさせ方、抱き方……。
つまり、
「妊娠中の自分のこと」
「生むときのこと」
「生まれた後の赤ちゃんのこと」
は知っていたが、
「生んだ後の自分のこと」
が、すっぽり抜け落ちていたのだった。
だから、テレビやネットニュースで著名人が、
「変わらぬ美しさ!」なんつってサクッと復帰しているのを見て、
ああ、少し休んだら元に戻るのだな、よしよし、などと思っていた。
友達に出産報告連絡しまくったり、
横になるのもそこそこに、
夜な夜な、お宮参りや出産祝いお返しの手配。
なんだかまだいろいろと痛いな、でも、私がやらなきゃいけないよね、
と、2週間もたたないうちから、毎日何かと忙しくしていた。
いま、あの頃の私に大きな声で言いたい。
「寝てろ!」
こうして産後の養生を怠った私は、
尾てい骨の痛み、腰痛、腱鞘炎、頻繁に38度以上の熱を出すという、
不調に見舞われることになった。
……想像と全然違くないですか?
変わらぬ美しさ微塵もなくないですか?
あったのは、あちこち痛くていっこうにすっきりしない身体に頭。
夫とは赤ちゃんの話しかしなくなり、
自分のことを話す機会がめっきり減って言葉がうまく出てこず、
日中ずっと赤ちゃんと2人、ふいに涙が出る心の不安定さ。
その後、友人Mに紹介してもらった産後ケア教室で、
心と身体を回復させた私は、「産褥ヘルプ」という取り組みを知り、
自身の2度目の出産時には、たくさんの手を借りて自分の養生を第一優先し、
乗り切ることができた。
最初の出産より年を重ねているのに、
2度目の出産後のほうが元気だということを実感している。
そんな私と同じような経験を持つ友人Mと、
「産褥ヘルプ!」と息巻いた後、おせっかい婆よろしく、
「何をやってほしい?」
「こだわりはある?」
「そもそも、来て嫌じゃない?」
などなど、半ば強引に、出産する友人の希望を聴きながら作戦をたてていった。
彼女は、最初は遠慮しながらも、でも、必要そうだな……と思ってくれたようで、
束の間、わくわく感が広がる。
しかし。
彼女の出産が近づいてきた頃、COVID-19の影響で、
想定していなかった世界があれよあれよと広がっていった。
入院中の面会はもちろん、配偶者の立ち合い出産も禁止に。
彼女は無事出産したが、「産褥ヘルプ!」と自分で言い出しておきながら、
生まれたばかりの小さなひとと、
弱った母に、よくわからないウイルスを感染させてしまう可能性がある、
というリスクを考えると、訪問を躊躇する私がいた。
そんな気持ちを伝えたところ、
「短時間でもいいので来てほしい」
「赤ちゃんをお風呂に入れてもらうだけでもありがたい」
と強くリクエストをもらい、迷いながらも、行くことにした。
おやつの差し入れ持って、食器洗って洗濯物干して赤ちゃんお風呂に入れて、
赤ちゃん見ている間に、母になった彼女にシャワーしてもらって……。
事前に打ち合わせておいた内容を粛々とすすめていく。
久しぶりの彼女はやや暗い面持ち、
生まれたての赤ちゃんはあたたかく、ちいさい。
1週ごとに赤ちゃんのしわしわがなくなっていく。
1週ごとに友人の顔色がよくなってくる。
ソーシャルディスタンスを気にしながらも、大人同士の会話は弾む。
「いや、ほんと、話せるだけでうれしい。私と話しに来て。」
切実なことばを受け取った。
聞けば、友人の夫は仕事で朝早く夜遅いという。
人に頼ることの必要性を実感した、と彼女は言う。
「提案してもらわなければ、家族以外の誰かに頼るってこと、
思いつかなかった」
そうだ。
こんな世界になっても、子供は生まれてくる。
「生まれてくるの自粛してください」なんてことはない。
そして、生まれた子は育つし、生んだ母の身体は傷ついている。
それは、変わらない事実。
なんでも自分や家族でしなければ。
誰かに頼るのは迷惑に思われるんじゃないかと恐れ、避ける。
ときにそれは未来に影を落とすのかもしれない。
出産で準備しておきたい、産褥ヘルプ。
つらいとき、困ったときに、自分や家族だけに閉じないで、
助けてほしいって、いえる世界に、
少しずつしていけるといいな、と、思うのだった。
赤ちゃんが、満足そうにあくびをした。
彼女も、安心した顔であくびをして、笑った。
***
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