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息子は5歳の時に白血病と診断された


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記事:馬場さかゑ(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「残念ながらあなたの息子さんは白血病です」
 
検査結果を聞くために個室に呼び出されて、すぐに、医師はそう言った。
 
冷静なつもりだったのに、かなり動揺していたらしい。
 
振り返って、思い出せるのは、
 
「7割は治ります。でもこの病院では8割をめざしています」
「日本中で年間3000人の子供が白血病にかかっています」
 
という医者の説明を聞きながら
 
「3割死ぬ、今入院している20人のうち6人は来年生きていない」
「ああ、今日、日本中のどこかで、7組の親が、私と同じように、『あなたのお子さんは白血病です』と宣言されているのか」
 
などと考えていたことだけだった。
 
その時、息子は5歳だった。
 
一人っ子。
 
失ったと思った。
 
撮影したばかりの七五三の写真が辛くて見られなかった。
 
白血病は血液のがん。手術で切り取ることができない。
 
薬で可能な限り白血球を殺し、ぎりぎりのところで、今度は白血球を増やす薬を入れる。
 
ふつうの細胞の方が、先に増えるからだ。
 
それを繰り返しながら、徐々にがん細胞を殺していく。
 
文字通り命がけの治療をする。
 
しかし、私にとって、大変だったのは、入院中ではなく、退院した後だった。
 
長い治療の後、1ヶ月遅れで小学校に入学した彼は、髪の毛はない、社会性はない、勉強はできない、体力はないということで学校では劣等生であるばかりか、周囲の子どもたちのいじめの対象にもなった。
 
担任に相談しても
 
「馬場君は、ああいう子だからいじめられてもしかたがない」
 
と言われたこともある。
 
遅れを取り戻させることが重要と、病気上がりの息子を深夜までつきっきりで宿題をさせたりもした。
 
大人になってわかったことだったが、彼には発達障害があり、他の子供たちと同じ勉強方法ではついていけなかったのだ。
 
しかし、それも、長期入院のためと誤解していて、いつまでも遅れを取り戻せないばかりか、ますます、差がついていく様子に未熟な母親の私は、いらだっていた。
 
一度だけ、たった一瞬だけだったけれど、「あの時、病気で死んでいた方が、この子にとっても私にとっても幸せだったかもしれない」と思ったことさえある。
 
そして、再発。
 
再び入院。
 
10ヶ月の厳しい治療の後、退院。
 
病院を出るときに、
「もう、ここには戻ってこないようにしようね」
 
という私に、彼は、
 
「お母さん、再発しても、ぼく、退院したでしょう。
また、再発しても、大丈夫、退院するから」
 
と、笑って言った。
 
でもね、再発の生存率は5割。
 
再再発の生存率は2割をきる。
 
もう、絶対に入院しちゃダメ。
 
普通級には戻せないと、養護学級に。
 
そこでも、担任からの連絡帳には、
「馬場くんは、これができません」
「馬場くんは、こんな困ったことをしました」
といった指摘が毎日のように書かれていた。
 
そして、再再発。
 
10ヶ月の入院と骨髄移植手術。
 
「今晩がヤマです」
と、家族を集められたこともあった。
 
でも、彼は、約束どおり、また、退院した。
 
その後、夫の赴任でスウェーデンに住むことになった。
 
インターナショナルスクールに通わせて、1か月ほどした時に、夫婦で担任に事情を説明に行った。
 
言葉がわからないだけでなく、色々な点で、きっと先生を手こずらせていることだろうと思ったからだ。
 
私たちの話を聞くとイギリス人のパトリックという担任は、手に持っていたバインダーをポンと机の上に投げた。
 
きっと、そこには、あれも言おうこれも伝えなければといっぱい書かれていたのだと思う。
 
そして、彼は私たちにこう言った。
 
「勉強ができないとか、そんなことは彼にとって全く問題じゃない」
 
「He is a good fighter, You must be proud of him」
 
彼は素晴らしい戦士だ。あなた方は彼のことを誇りに思うべきだ。
 
うれしかった。
 
日本ではかけられたことのない言葉だった。
 
そうだ。
 
彼は、文字通り命を懸けた戦いに勝ったGood Fighter。
 
その戦いぶりを一番身近に見ていたのは、わたしだったはずなのに。
 
パトリックの言葉で、わたしは、息子が自慢の息子だったということを思い出させてもらったのだった。
 
3度の入院中に私は多くのGood Fighterに会った。
 
8歳のMちゃんは戦いの後、ギリギリの体力の中で「おとうさんありがとう、おかあさんありがとう。お姉ちゃんありがとう。H先生ありがとう。看護婦さんありがとう」と周りの人にお礼を言って亡くなった。
 
お礼を言わなくてはならないのは、あなたの見事な戦いぶりを見せてもらった私の方だよ。
 
18歳の智也君は、何年も待って骨髄移植が決まった時、お母さんに
 
「これで僕も将来のことを考えていいんだね」
 
と訊いた。
 
発病して以来、ずっと、自分には将来がないかもしれないという不安な気持ちと闘っていたのだった。
 
しかし、度重なる輸血に心臓が耐えきれず、移植後の回復ができなかった。
 
「彼らがあれほど生きたかった『将来』を私は今生きている」
 
彼らに恥ずかしくない生き方をしなければいけないと強く思う。
 
 
 
 
***

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