そろそろ本音で話そうか。
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:曽我部うらら(ライティング・ゼミ日曜コース)
「Sさん、Sさんはうちの会社でダイバーシティを推進してますよね」
「うん、そうだけど、何いきなり」
「去年の年末で女性管理職の比率を15%にするって目標、未達成でしたよね」
「……そうだけど」
「なんで女性管理職を増やすのは難しいんですかね?」
「……」
時計の針を15年ほど戻そう。時は2004年。Sさんは、30代半ば、離婚して独身に戻ったばかり。主婦だったのに離婚したものだから、銀行預金には〇万円程度の貯金しか無い。道を歩いていると、「今、車に轢かれたら、保険も入っていないし入院したり治療を受けるお金もない。死ぬしかないんだ…」そんな考えが頭を離れなかった。知人の伝手で契約社員を半年やっていたが、「このままではダメだ、ちゃんとした仕事を探さないと」と考え、ある金融機関のはしくれに派遣社員としてやっと採用された。派遣社員として半年か1年働いて正社員採用してもらえなければ、正社員採用してもらえそうな会社をまた探すつもりだった。
まったく当てずっぽうのプランでもなかった。得意の英語力と法律の知識、どちらも中途半端なものではあるが、中途半端でもこの二つを持っている人間がいたら重宝する法務部が、世にあまたある会社の中に幾つかくらいはあるはずだ、と考えていた。
Sさんは派遣社員ながら、働いた。上司の仕事も、進んで自分から「私、やりますよ」「私、やりましょうか?」と取りに行った。プライベート重視の上司はそんなSさんを上手く使った。それだけでなく、転職先を見つけてさっと会社を辞めてしまったのだ。
これは好機!さらに仕事するチャンスだ!Sさんはそう思って、より一層働いた。朝は始業の1時間前から、夜は7時になるとコンビニやコーヒーショップで買ってきた夜食を会社で食べ、22時から24時まで、毎日、働いた。週末は、ただぐったりと横になるしか出来ないことも、よくあった。それでも、まだ30代で体力があった。「しっかりした仕事に就きたい」という夢もあった。
それだけでなかった。Sさんは、「自分の食い扶持は一生自分で稼いでいく」という覚悟があった。そもそも、「女性であっても自立して生きていけるよう、しっかり手に職を」と言われ続けて育った。ではなぜ主婦だったか?それは司法試験受験のためだった。将来弁護士になって、一生の職業として全うする夢があった。しかし、30歳に司法試験を目指す人間が数年勉強したくらいで受かる生易しい試験ではない。おまけに試験勉強中に離婚のスッタモンダもあった。司法試験はあきらめて仕事を探し、やっと見つけた居場所だった。その場所で頑張りたい。
一方で危機感もあった。会社は外資系の金融機関でコスト意識が政府系や日本企業とまるで違う。将来デジタル化が進めばコンピューター等がすぐに取って代わるような単純な事務作業しか出来ないと、いつか職を失うという危機感が常にあった。「専門知識を身に着けて、一定の年齢になったら管理職になっていないと先はない」そう思うようになっていた。
当時、女性で管理職は殆どいなかった。本社1000人規模で、2人くらいだろうか。しかし危機感を強く持っていたSさんには確率論ではなく「いつかならないと」という気持ちしかなかった。男性と同じかそれ以上に働かないと管理職になんか絶対になれない。さらにそんな危機感をもって、Sさんはより一層働くようになった。また、仕事を通じた知識や経験が自信となり、会議や相談の場で、ときに厳しい顔を見せることも増えた。
そんなこんなで入社から5年経った頃、上司の上司である役員に「課長になるから」と辞令をもらったのだった。
Sさんはうれしかった。一緒に仕事する相手の多くは管理職だったから、やっと人並みになれた、そんな気がした。
数少ない女性管理職だからといって嫌な思いをすることはなかった。それどころか、管理職としてのメリット、例えば裁量労働制適用で割と自由に働けたり、給与がぐんと上がったり、課長とはいえ無役職の頃より発言しやすくなったり、これらを享受できる管理職は、「女性こそなるべきだ!」と思うようになった。
それから10年。転職後の会社で、女性の中で一番役職が高いポジションとなった今、ダイバーシティを推進する立場になった。多くの女性社員を見ていて思うのは、「一生自分で稼いでいく覚悟がない。腹をくくれていない」ということだ。だから甘えが生じる。すぐに上司の悪口を言う。不平を、不満を言う。
だから管理職になれない。上司は上にあげようと思わない。しかし、Sさんはそのことを女性社員に言ったことは殆どない。女性社員に一度嫌われたら修復は難しい、そんな先入観があるからだ。
しかし、そんな本音を伝えられないから、ダイバーシティ推進をしていても、女性社員全体がパリっとせず、なんとなく仕事をしているまま、なのかもしれない。
そろそろ本音で話そうか、とSさんは考えている。
***
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