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「二宮金次郎の一生」を読んで


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記事:渡辺正喜(超ライティング通信講座)
 
 
僕は昔から、本の虫だった。家の近くの図書館に親が呼ぶまでどこまでも入り浸った。
特に小説を好んで読んでいた。SFスペースオペラの「銀河英雄伝説」や別世界の日本を舞台にした「バトル・ロワイアル」など、ここではないどこかの物語に思いを馳せることが多かった。
そんな僕は今、「異世界転生」というジャンルの小説にハマっている。
 
「異世界転生」とは、不慮の事故や寿命で亡くなった人が異世界にて生まれ変わり、活躍する物語だ。大体は現代の知識を持ち、その力と生まれ持った強力な魔法や才能でもって異世界を無双する話が多い。ドラクエのような世界で最初からレベルが最強または経験値が他人より100倍上がりやすい世界で活躍するといえばわかりやすいだろうか。
 
人によっては「異世界物語に多少興味はある。けれど、いざ読もうとすると少し躊躇してしまう」と思う人もいるかもしれない。
そんな方に、ぜひお勧めしたい本がある。
それが、「二宮金次郎の一生」という本だ。
 
二宮金次郎は江戸時代後期に経済や農業の政策で活躍した思想家だ。
もっとも、多くの人が二宮金次郎を知っているとしたら、それは小学校の入り口によくあった銅像を思い出すからだと思う。あの薪を背中に背負いながらも本を見る少年の銅像だ。
かくいう僕もこの本を読むまでは「よくわからないが、勉強熱心な少年だったのだろう」としか思っていなかった。ところが、この本を見てイメージががらりと変わった。
一言でいうと、「異世界から日本の江戸時代に転生してきて無双した男」にしか見えないのだ。
 
まず、この男、江戸時代の世界において異質すぎる。
身長は185cm、体重も80kgある。身長だけで言えば、同じ銅像仲間の西郷隆盛の身長178cmよりも7cm高い(ただし、現代でいえば、人気俳優の竹内涼真さんを少し太らせた大きさでしかないが)。江戸時代当時の平均身長は155cm。平均体重も50kg前後であったことを考えると当時として大男であったことに間違いはない。
 
また、頭もかなり良くて、極貧の農家の出でありながら、とにかく大の勉強好き。
12歳の頃には中国の孔子が広めた儒教で特に大切な文書とされた「大学」や「論語」などの書物を持ち歩いている。それも薪を背負い、毎日往復8kmの道を歩きながらである。
この姿が、後々、僕らが小学校時代に見かけた銅像の原型となっていくわけだが、当時の常識では学問は武士やお殿様がすることで百姓が学問にのめり込むことは珍しかった。
そのため、村人にとっては「すこし頭の悪い変な人」という見方をされている。
 
そして、よく働く。普段はどこにでもいる農民らしく農業に精を出すが、少し余裕ができると、すぐ日雇いや藩主邸で働いて給金をもらうなど現金収入を得るための仕事に着手している。
また、その稼いだお金を人に貸し、利益を得るなど商人としての才能も持つ。
それが、段々、農民に留まらず、藩主邸に住む武士や女中などにも広がっていき、荒れ地を耕して広がっていく田畑開発も相まってどんどん村の中でも随一の大地主になっていく。
そして、その実績が藩主の耳にも届き、二宮金次郎の一生は貧困に喘ぐ村や藩の立て直しを命じられては、それを鮮やかに立て直していくという、一代経営コンサルタントの物語に発展していく。
 
勿論、全てが順調にうまくいくわけでない。
途中、藩主によって武士に出世することはあっても、もとはただの農民。
小説「半沢直樹シリーズ」の半沢直樹の如く、次々と妨害に遭うこともある。
しかし、二宮金次郎はブレない。
誠実にどこまでも実直に物事に対処し、結果数々の困難に打ち勝っていく。
 
ぜひ、「異世界もの」を読もうかどうしようか迷っている方がおられたら、まず、江戸後期に実際に行われた「異世界もの」のような物語である「二宮金次郎の一生」を読んでいただきたい。
 
一つ問題としては、この本は全部で529ページ、分厚さにして3cmとかなりのボリュームで書かれた一冊である。中身も江戸時代時に使われた長さの単位である「尺」やお金の単位である「両」、「文」等といった言葉が多く出てくる。そのため、読んでいて、今何が起きているのか一瞬わからないときもあるかもしれない。その時は、ざっくり「お金が増えた」、「お金が減った」など大体のイメージで読み飛ばしてもらって構わないと僕としては思う。
 
なぜなら、この本を読んで感じていただきたいのは、具体的な数字や彼の功績などではなく、「無名の人物が周囲の反対や目線など物ともせず、自分の才能や数少ない協力者を得て日本という舞台で無双する」爽快感だからである。
現在にも通じる「快進撃」をぜひ、この本を手にとって感じてほしい。
そして「異世界転生」への足がかりになれば、これほど嬉しいことはない。
 
 
 
 
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2021-06-12 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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