魚屋から始まる冒険
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:mihana(ライティング・ゼミ日曜コース)
「うまい魚が食べたい!」
その強い思いが、私を魚屋へと導いた。
魚が好きだ。
小さい頃から、食卓に魚が出ると、小躍りして喜んでいた。
社会人になって、1人暮らしをしている今でも、
ランチや飲み会では、魚が食べられるお店に行くことが多い。
そんな中、コロナ禍で外食が減り、
お店で出てくるような美味しい魚を食べる機会も少なくなった。
思いは募り、ある日、魚屋へ行こうと思い立ったのだ。
家の近くの魚屋を覗いてみると、ケースの中に様々な種類の魚が置いてある。
プロに選び抜かれた魚は、どれもキラキラ輝いている。
明らかに一見さんお断りの雰囲気ではあったが、
おそるおそる、マグロの刺身を買ってみることにした。
注文すると、その場で切ってくれた。
値段は、なんと1人前で1500円。
「高いな、失敗したか……」
しかし、家に帰って、その考えは吹き飛んだ。
美味しい。切り立てのそのマグロは、明らかに美味しかった。
すっかり気に入って、週1・2回行くようになり、通い始めて1年以上経つ。
80歳近いおじちゃんとおばちゃんが、
ご夫婦で経営されている、アットホームな魚屋だ。
今では店に行くたび、「おかえり」と出迎えてくれるまでになった。
魚屋に行くと、旬の魚を知ることが出来る。
例えば、春はサワラやタイ、夏はアジやイサキ、
秋はサバやサンマ、冬はブリやタラ。
春と秋、年に2回旬がある、カツオなどもある。
当初、魚を見るだけでは種類が分からなかったが、
毎週見ていると、だんだん見た目と名前が一致するようになってくる。
美味しそうな魚を見分けることも出来るようになってきて、
「この魚、美味しそうですね!」と言って買おうとした魚が、
その日のおすすめ商品であるということも増えてきた。
魚は、毎日食べても良いくらい、体によい。
良質なタンパク質や脂質、カルシウムなどが豊富に含まれている。
ただ、毎日となると、料理が大変かな……。
そう思っていたのだが、素材が良いと、
あまり手を加えなくても、十分美味しく食べることが出来る。
基本的に私は、その場で刺身を作ってもらうか、
切り身を買って、家で焼くことが多い。
「そのまま焼くだけで大丈夫だよ。皮からではなく、身から焼いてね。
フライパンに敷く、魚焼き用のアルミホイルも使うと良いよ。」
おじちゃんが教えてくれた方法で調理すれば、
家にグリルがない私でも、焼き魚を気軽に楽しむことが出来る。
おばちゃんがレシピを教えてくれるので、試してみたりもする。
特に、マグロの漬け丼は気に入っている。
トレーに醤油と酒を半々、お好みでみりんを入れて、わさびを溶く。
中に刺身を入れて、20分待ち、あとはごはんの上に乗せるだけなので、簡単だ。
ムニエル、ホイル焼き、煮付け……、
たくさん教わって、レパートリーも徐々に増えて、料理も楽しくなってきた。
食べる時、1つだけ決めているルールがある。
せっかく美味しい魚を食べる機会なので、“テレビを見ない”ことだ。
机にお膳を敷いて、箸置きの上に箸を置く。
ごはんと味噌汁、そして魚をセッティングする。
「いただきます」
静寂の中、魚と向き合い、ゆっくりと味わう。
漁師によって捕られた魚は、仲介業者によって運ばれ、
市場で魚屋に選ばれて、今、私の皿の上に乗っている。
私たちが普段当たり前にしている“魚を食べる”という行為は、
目の前の命をいただくことであり、多くの人の働きがあって成り立っている。
魚と向き合うことで、食の有難さも、改めて感じるようになった。
そして何より、魚屋に行きたいと思う理由。
それは、おじちゃんとおばちゃんだ。
足繁く通うにつれて、次第に仲良くなり、
2人と世間話をする時間が、私にとって大切なものになっていった。
コロナ禍で、人と人との対面機会が減り、
オンラインで買い物を済ませることも多くなってきた。
だからこそ、信頼している人から、直接買うことの喜びは大きい。
そこには、確かな安心感と、温かさがある。
魚屋に通い始めてから、私はいつもワクワクしている。
次はどんな魚に会えるか、どうやって食べようか。
ちょっと時間があるから、料理もしてみようか。
食べるということについて、向き合う機会にもなっている。
魚屋との出会いは、人生を少し豊かにしてくれる冒険へと繋がっていた。
おじちゃんやおばちゃんのナビゲートで、日々レベルアップもしている。
もし、魚屋の前を通ることがあれば、少し覗いてみてほしい。
そこは、あなたを新たな冒険の世界へと誘う、入口かもしれない。
***
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