我が家の男の子になりたい女の子
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:ノリイ(ライティング・ライブ東京会場)
涼しげな目元に短い髪、タボダボのTシャツを2枚以上重ねて、ズボンは3サイズぐらい大きいものを履いているのが我が家の男の子になりたい女の子。
最近丸みを帯びてきた身体を隠すための精一杯の装いだ。
外出先では「お兄ちゃん」と声をかけられるので、周りからからみると男の子に見えているのは本人の意向とも合っていてとても喜ばしい。
幼稚園年中の頃、色んなことに憤りを感じていた彼女はまずは髪の毛を短く切った。そしてスカートを履くことがなくなった。キラキラ、ヒラヒラといった女の子向けに作られた服も着なくなった。
親の好みで入手したオシャレで可愛いワンピースは、もしかしたら着るかもしれないという貧乏性の母の淡い期待も虚しく、結局、一度も袖を通すことなくサイズアウト。新品のままお下がりとして近所の子に譲り、とっても喜ばれた。
いつの間にかボーイッシュな女の子から、言動もどんどん男の子らしくなり、自分のことを「息子」だと言ったりすることもある。
わたしにとっても、夫にとっても、我が子が「彼女」でも「彼」でも、どちらでもいということが共通認識として持ててきているのは幸いなことだなと最近改めて思っていて、もしもこれがズレていたら我が家の男の子になりたい女の子は親から存在を否定されるという、一番悲しい事態になっていたのかもしれない。世の中には親に自分のセクシュアリティを告げられずに苦しんでいる人がいることを想像すると、うちの子どもは私たちが親でラッキーだったねと、夫婦でお互いを褒めあってる。
昔は孫娘に可愛いワンピースやヒラヒラ、キラキラな文具を送ってきてくれた夫の両親も数年前からは文房具や鞄の色は青か黒、着るものならばボーイズのものを送ってくれるようになったことには本当に感謝している。
でも、覆し用のない現実として我が家の男の子になりたい女の子の身体は女の子。
今年の初詣で欲しがったお守りは『心願成熟』。
彼女の願いはただ一つ、『男の子になること』。
小学校高学年、自分の身体が女の子なのは認識しているけれど本気の願望だ。
公立の小学校に通っているのだが、本当にありがたいことに我が家の男の子になりたい女の子は、友だちからも先生からもそのままで受け入れられている。男の子の友だちも、女の子の友だちも沢山いて、公園で追いかけっこをしたり、友だちの家でテレビゲームをしたり、オンラインゲームで盛り上がったりする仲間もいる。
とはいえ、クラスメートからオトコ女と言われたりして複雑な気持ちになることもあり、ケンカをしたり不機嫌に帰宅してきて家族に八つ当たりをしながら
「もう学校なんかいかない!!」
と叫ぶこともある。そんな翌朝はグズグズ文句を言い遅刻をすることもあるが、結局は登校をして元気に帰宅するので、今のところは愚痴を聞きつつ静観している。
同時に、向き合わなきゃいけない現実もある。
胸の膨らみや丸みをおびる身体は本人にとって嫌悪の対象になってきているのだ。周りの目に映る自分の女性らしくなってきた身体に耐えられないから家から出ないと言っていた時期もあった。胸を圧迫して目立たなくできるナベシャツと呼ばれる下着を見つけ、そのお陰で最近は生活できている。
その嫌悪感が自分だけに向けられたもので、周りの女性に対して向けられたわけではないのは救いだと思う。女性の身体全てが嫌悪の対象になってしまったら、さらに生きづらくなってしまうだろうから。
ある日、帰宅してきたと思ったらいきなり大号泣したことあった。何があったのか聞いたところ、
「学校の先生に夢を打ち砕かれた!」
と激怒している。
どうやら、学校で性教育の授業があり、女性の身体には月経があることを学んだという。自分に月経が来てしまったら女性であることが決定してしまうからもう男性にはなれなくなるんだと言って泣き叫んでいた。成長に伴う身体の変化すら受け入れられていないのに、大人の女性になっていく身体の現実を突きつけられたんだからその怒りは相当なもので、親とはいえ安易に理解できるとは言えなかった。
正直、途方に暮れた。
「なんだかんだ言っても、あなたは女の子だから!!」
と心の中で叫んだけど、そんな追い討ちをかけるようなことはとても口にできない。そこで女性の身体を男性の身体のようにできる手術があることを情報として教えてみた。
「それは本当の男になれるの?」
と聞かれて”本当の男”ってなんだろう? 性別を決めるものは何? 性器で決まるものなの?
逆にこちらが困惑してしまい、わたしにはそれに対する答えが見つけられなかった。なので正直に「わからない」と伝えた。
唯一、心を込めて伝えたのは、誰でも自分の好きなことを好き、嫌いなことを嫌いと表現できる自由があるということ。
我が家の男の子になりたい女の子は、履きたいくないスカートは履かなくていいし、性別に関係なく誰を好きになってもいい。今後どんな選択をしても我が家の男の子になりたい女の子を受け入れてくれる人たちはきっといるし、ありのままの自分を受け入れてくれる人がいることに感謝を忘れないでほしい、と。
それが素晴らしく幸せだということに気づいてくれたら親冥利に尽きるのだが、そこまではまだ考えが及ばないようだった。
一方のわたしも子どものお陰で広がる世界がある。先述のナベシャツなんかはその一例だが、世の中で多様性がうたわれ、著名人のカミングアウト、LGBTQや同性婚の話題も当たり前に聞くようになった。今後はセクシュアリティの選択肢はどんどん増えるのだろう。同時に思い込みや偏見は根強く、人として親として、学んで進化していかなくちゃいけないということを子どもに教えてもらっている。
そんな我が家の男の子になりたい女の子はずっと大好きな女の子がいるのだが、同性では結婚ができないと学校で聞き、悲観に暮れるのかなと思ったら、残念だけどそれは仕方がないからと割り切っていた。なんと、結婚する予定の男の子がいると言うのだ。
どういうことかと聞き返したら、
「親友っていうか、一緒にいると面白いヤツだから結婚して一緒にいるのにいいかなと思って」
とサラリと言う。
なんというか、その感覚の柔軟さと適当さというか図々しさ、そして前向きに捉える姿勢は失わないでほしいと心から思った。
***
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