メディアグランプリ

40年越しのアラベスク 幼なじみとの思い出とトラウマからの解放


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:道上 香織(ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
「はい、もう次の子の時間だから、今日はおしまいね」
 
今日も前の子の練習が押して、次の子が前倒しで、わたしは15分しか教えてもらえなかった。
 
「えっ、まだ15分しか弾いてないです。
うちにはエレクトーンがないから、ここでベースの練習をしたいのに」
 
「また次回ね、もう次の子が来ているの。お疲れ様」
 
10歳からの鍵盤に対するトラウマ。
小学校で高学年になったら参加できる鼓笛隊に入ってアコーディオンがやりたい、鍵盤を覚えたくて親に無理言って習わせてもらったエレクトーン。
 
でも、いつもこんな感じだった。
先生は入った時からわたしの何かが気に入らなかったようで、最初から時間通りに教えてくれなかった。
次の子が来るって言うかー、あからさまだなぁと子どもながらに感じたものだ。
当然わたしはその先生のことが大嫌いになったし、音符も読むことはもちろん出来ないので、エレクトーンは辞めてしまったし、鼓笛隊に入ることも、アコーディオンを弾くことも諦めてしまった。
 
いまだにあの先生と同じようなシルエットの女性をみると、ぞっとする。
 
鍵盤をちゃんと習いたいと思った動機は、もう一つあった。
同じ社宅内で生まれ育ったKちゃんと言う友達がいる。
幼稚園までずうっと一緒だったKちゃんは、小学校一年生の時に電車で30分くらいの少し遠い街に引っ越していった。
一軒家に住み、自分の部屋があって、そこには当時の憧れ「オルガン学習机」があった。
70年代にブラザーから発売された、勉強机の天板を開くとオルガンになるという斬新な発想の製品がうらやましくて、うらやましくてしょうがなかった。
でも我が家には勉強机を置くスペースも買う余裕もなかったから、Kちゃんの家に行っては、彼女がいないときでも上がり込んでオルガンを使わせてもらっていた。
いま思えば相当図々しい子だ。
でもKちゃんのママはとっても優しくて、当時妹が産まれたばかりで忙しい母に甘えられないわたしを可愛がってくれた。
 
お稽古とかで忙しいKちゃんも家にいるときは、「今習っているんだよ」ってブルグミュラーの「アラベスク」を教えてくれた。
「左手は、ラとドとミを一緒に弾くの。右手はラシドで始まって、戻ってシラ。1の指から始まって1の指に戻ってね」と言う感じで。
Kちゃんのその教えがあったから、わたしはエレクトーンを習った時も指の使い方はちょっと知っていた。
楽しかった。
Kちゃんと一緒にいられる時間はもちろんだけど、右手と左手が違う動きで弾くってすごい! って感じ。
それからKちゃんの家に行く度に練習させてもらって、10小節くらいまで弾けるようになっていた、もっと弾けるようになりたいって思った。
でも、小学生は忙しいからだんだんとKちゃんの家に行くことが少なくなってしまった。
だからエレクトーンを習ったのに、先生からの嬉しくない待遇を受けてから完全に鍵盤から離れた。
弾きたいって気持ちを残したまま。
 
そして、Kちゃんは家庭の事情で優しかったママとは高校生からは別に住むことになった。
高校は同じところに通っていたものの、クラスも違ったりなんかわたしがうまく話せなくって、交流がなくなってしまった。
 
 
それからだいぶ時が流れ、テレビやYouTubeでストリートピアノを観たら、弾いてみたいと言う気持ちがむくむくとわいてきた。
でも、知らない教室に入るのもなぁと考えていたら、友人が「大人の為のピアノ教室」を開校すると言うので飛びついた!
同じように飛びついた先輩と共に月に2回のお稽古がはじまった。
 
「楽譜は読めなくていいよ、書いてあげるから」と先生は言った。
この教室に入るにあたって、子どもの頃の例のトラウマを話した。
そして、練習する時間はそんなにないし、自分が弾いてみたいって思う曲をリクエストさせて欲しいとわがままを申し入れた。
すると、先生は全てを受け入れてくれて、わがままな大人のレッスンが始まった。
とは言え、もちろん最初は指の使い方を教えてもらう基礎はしっかりおこなう。
そこから「かっこう」や「きらきら星」を弾いてみる。真夏なのに「ジングルベル」を弾いた。
練習すればどんどん弾けるようになるから、楽しくて仕方ない。
集中する時間はメディテーションだと言うことにも気づく。
普通のピアノ教室だったら、ありえない展開なのだろうが、先生は生徒の好きに合わせて気持ちよく弾かせてくれる。
そして、相変わらず我が家にピアノはない。
妹が高校の時に買ったキーボードで練習している。
 
そんなこんなで昨年の夏からはじめたピアノは10ヶ月が経過した。
ある日先生から「秋に発表会をやろうと思うので出てみない? 」
と言われた。
最初は全力で拒否したが、ちょっとオシャレしてグランドピアノを弾く自分を想像したら、やろうと言う気持ちになった。
子供の頃に出られなかった発表会のリベンジだ。
 
最近では指の使い方、左で和音、右でメロディなんかもできるようになってきたので、発表曲は「アラベスク」を選んだ。
先生も「良いわね」と言ってくれて、早速楽譜に読みがなをふってくれた。
40年ぶりに弾くアラベスク。
そう、そう、うん、うん、この辺までは弾ける!
 
40年前にKちゃんに教えてもらった10小節目以降は未知の世界だが、秋までに練習して、発表会では10歳の自分と一緒に精いっぱい弾こう。
動画を撮ってもらって、最近になってまた交流が始まったKちゃんと毎年美味しいくぎ煮を送ってくれるKちゃんのママに送るんだ。
 
 
 
 
***
 
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2022-05-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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