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人生を変えた、たったひとつの石との出逢い


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記事:鈴木みえ(ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
一目惚れだった。
 
「とても綺麗な子が手に入ったの」
 
目の前に座った女性が小さな巾着から取り出し、手のひらに大切そうに乗せた。
 
それは青い海に眩い光が射し、白い波しぶきがゆらゆら揺れて輝く水面を閉じ込めたような小さな石だった。
 
懐かしさと同時に、なぜか心が満たされていくような、幸せな気持ちになったことを鮮明に覚えている。
 
その石はカリブ海に浮かぶ「ドミニカ共和国」でしか採掘されない、世界三大ヒーリングストーンのひとつで「ラリマー」という名前だった。
 
なぜこんな美しい色が自然に出来上がるのだろう。不思議で仕方なかった。でも、それ以上に胸がときめいた。
 
その頃の私は全くといって良いほど、天然石に興味がなかった。
 
だけど、どうしてもその美しい海のような青い石を手に入れたいと思い、その女性にお願いし、譲ってもらった。
 
最初はただ「綺麗だなあ」と、見ているだけで癒された。
 
仕事や子育てが忙しく、心に余裕がなくなり疲れを感じたとき、石を空にかざしてぼんやりと眺めていると、その美しさに不思議と元気を取り戻すことができた。
 
また大切にすればするほど石の光が増し、どんどん輝いていくことにも驚いた。
 
それは人も同じなのだろうな、ということに気が付き、自分を大切に扱うようになり、「私なんて」と口にしなくなった。
 
「なんか、石ってすごい」そう思うと、他の石にも興味を持った。
 
調べてみると、東京で年に2回、世界各国から天然石が集まる国際宝飾展という催しが開催されるそうだ。
 
会場に出向き、1日では周りきれない程の天然石を目にした時は、子供の頃に戻ったように心が躍り、ときめいた。
 
日帰りの予定だったのに、急遽ホテルを取ったことを思い出す。
 
クリスタルは自然が悠久の年月をかけて創り出す地球からの贈り物だ。
何万年前もの時間をかけて今ここにある奇跡にはロマンすら感じる。
 
例えば水晶はマグマによって熱くなった水が冷えることによって形成されるのだが、成長するスピードは100年で僅か1mm。
 
手のひらに水晶乗せて眺めていると、どの位の年月をかけ、どんな経路でどれだけの人の手を渡ってここにあるのか、と想像が膨らみ感慨も一入だ。
 
そして、同じ石でもひとつひとつ違うのだ。
優しくあたたかみを感じる石もあれば、キリリとして気持ちがすっと整うものもある。
 
すっかり天然石に魅了された私は、丸く加工し穴を開けた天然石をつかってアクセサリーを造り始めることにした。
 
ゴムテグスと呼ばれる糸状のものに、天然石を通していく。
 
まず、メインを決める。
 
そしてこの石の横にはこれ、そして次はこれ。と40個前後の石達のバランスをみながら紡いでいくのだ。
 
まるでオーケストラのようだな、といつも感じる。
 
指揮者がいて弦楽器、管楽器、打楽器。どんな構成にするのか。そして何を演奏するのか。
 
ブレスレットが出来上がるとひとつの曲を聴いたような気持ちになる。
その楽しさから、気が付いたらブレスレットを造ること。それが仕事になっていた。
 
天然石が手に入ると、まずは浄化するところから始めるようにしている。
いろんな場所、人の手を渡ってここに来てくれたことへの感謝と、石を初期化するために。
 
海や山、神社などパワースポットと呼ばれる場所へ国内外問わず出向き浄化する。
 
基本はひとり旅だ。
 
まず石を手にして、どこに行こうかなとイメージする。航空券とホテルだけ取って後は気ままにその土地を巡る。
 
北は北海道、南は沖縄。
 
特に離島が好きで屋久島、宮古島、石垣島、久高島、奄美大島、壱岐島、ハワイ島……。神社も何ヵ所参拝しただろう。御朱印帳は1年と少しで2冊埋まった。
 
不思議と石によって共鳴する場所が違うのだ。そこではたくさんの美しい景色や優しい人達にも出逢えた。
 
地元の人におすすめスポットを聞くのも旅の楽しみのひとつだ。
 
屋久島に行った時の話だ。
 
屋久島と言えば屋久杉が有名だが、地元の人に教えてもらったのは海岸沿いに位置する鉱山跡。これといった目印もなく、本当にここで合っているのだろうか、と恐る恐る林の暗がりを抜けると視界に飛び込んできたのは切り立った崖と雄大な海。断崖絶壁に足がすくむがまさに絶景。そこで石達はキラキラと輝きを取り戻すのだ。
 
きっと石に出逢っていなければ、こんなに旅はしなかっただろう。石を浄化しに行く、というより石が連れて行ってくれたのかな、と思う。
 
天然石、というと「開運グッズ」のイメージがあり、どこか怪しい印象を持つ人も多いかもしれない。私自身もそうだった。
 
「パワーストーン」という名称で呼ばれるが、実は造語で日本でしか通じないのだ。
欧米ではクリスタル、ジェムストーンと呼ばれている。
 
天然石は人や場所と共鳴し、足らないエネルギーを補ったり、過剰なエネルギーを減らしたり、停滞しているエネルギーを動かす働きをするとされている。
だから結果的に「運気」が良くなったと感じ、これが「パワーストーン」と呼ばれる所以なのかもしれない。
 
だが、考えてみれば、あの時のたったひとつの石との出逢いが人生に大きく影響した、と考えると私にとってはやはり「開運グッズ」だったのかもしれない。

 
 
 
 
***
 
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2022-07-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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