メディアグランプリ

もし、あの時、彼女が別の嘘をついていたら、学級会の議題なんかにされないですんだのかもしれない


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記事:中村美香(ライティング・ゼミ)

 

「お姉ちゃんが描いた漫画が、“ちゃお”に載ったんだよ」

「えー! 本当? すごい!」

その時、彼女は、確かに、みんなの中心にいた。

 

私は、嘘が苦手だ。つくのも、つかれるのも……。

 

私は、両親に、

「嘘はいけないよ」

と言われて育った。兄が、一度小さな嘘をついた時に、こっぴどく叱られていたのを見て、自分も、もし嘘をついたら、こんな風に叱られてしまうと思って怖かった。

 

私が小学3年生の時に、同じクラスに転校生がやってきた。くるっとした大きな目と栗毛色の髪のかわいらしい女の子だった。名前は、和子さん。多くの転校生と同じように、和子さんは目立った。クラスのみんなは、興味津々で、質問攻めにしていた。彼女は人懐こくて、よくしゃべった。そうして、普通に仲良くなるはずだった。

 

しかし、途中から、雲行きが怪しくなってきた。なぜなら、彼女がちょいちょい嘘をついたから。例えば、それぞれの筆箱の自慢をしあっていた時には

「私、もっといいやつ持っているよ」

と言い出した。

「じゃあ、見せてよ。持ってきてよ」

と誰かが言った。

「うん、わかったよ」

そう言ったのに、次の日に持ってこない。

「なんで持ってこないのよ。見せてよ」

「忘れちゃったのよ」

そして、また、次の日にも持ってこない。

「嘘なんじゃないの? 本当に持っているの?」

「嘘じゃないよ。本当に持ってるよ」

「じゃあ持ってきてよ!」

結局、いくらたっても彼女は持ってこなかった。

 

そんなのは、よくある話なのかもしれない。だけど、私を含めた女子たちは、それを、良しとしなかった。和子さんは、嘘つきなんじゃないか? という疑いを持ち始めた。

 

そんなある日、和子さんがこう言った。

「お姉ちゃんが描いた漫画が、“ちゃお”に載ったんだよ」

「えー! 本当? すごい!」

みんな口々に言った。“ちゃお”とは、今も健在の月刊少女漫画雑誌だ。内心、疑いながらも、本当にそうだったらすごいな! と、私も思った。その時、和子さんは、確かに、みんなの中心にいた。

 

「なんていう漫画なの?」

そう聞くと

「それは秘密」

と言った。あ、じゃあ、嘘だ! と、私は思った。そして、誰かが

「和子さんに、お姉ちゃんていたっけ?」

と言った。

「いるよ」

と彼女は答えた。

私も、彼女にお兄ちゃんがいることしか知らなかった。

「じゃあ、会わせてよ。あと、“ちゃお”も見せてよ」

誰かが言った。

 

子どもって残酷だ。みんなで、彼女の家に、そのまま確認に行くってことになった。

彼女の話では、家は、大きな一軒家のはずだったけれど、それは、賃貸のマンションの一室だった。私たちは、ひどいねって感じで、顔を見合わせた。

「お姉ちゃんは? “ちゃお”は?」

「まだ、帰ってきてないし、“ちゃお”も今はない」

彼女は、そう言い張った。

「嘘なんでしょ?」

誰かが言った。

「嘘じゃないよ」

彼女は言う。

イライラした私は、

「今、謝ってくれたら、許してあげるよ。本当のこと言ってよ」

そんな風に言ったんだと思う。しばらくしたら、彼女は

「ごめん。嘘だった……」

って言ったのかな? 正確には覚えてないけれど、彼女は謝って、私たちは、

「やっぱりね!」

なんて言って、正義感を振りかざして、プリプリ怒りながら、彼女の家を後にしたんだっけ。

 

それから、和子さんは、私たちに貼られた“嘘つき”のレッテルのせいで、少しずつ嫌われていった。学級会の議題にまでなって『和子さんに直してほしいこと』をみんなで話し合った。先生も、それに参加していたから、それでいいと思っていた。その時は、私たちは正しいことをしているんだと思っていた。

 

だけど、大人になってから、《正義》という名の暴力があることを知って、あの時の私たちは、《正義》の名のもとに、暴力をふるっていたのではないかと怖くなった。

 

セピア色のその記憶からは、被害者だったのか? それとも、加害者だったのか? 些細なことだったのか? あるいは、重大なことだったのか? それらさえ、正確に判断できない。

 

今思えば、和子さんは、ただ、みんなに注目してほしかっただけで、寂しかっただけなのかもしれない。そして、私たちは、「嘘はよくない」という大人から教わった教えを守っていただけだったと思う。

 

「嘘はよくない」と、今でも、基本的には思っている。嘘は、できればつきたくないし、つかれたくない。だけど、どうしても、大人になれば、嘘をつかないと乗り切れない場面もある。

 

そして、大人になってから、嘘をつくことが苦手な自分に気づいた。嘘をつくと、いちいち罪悪感を持つのだ。嘘をつき通せず、人を傷つけてしまったこともある。平気で嘘をつくのと同じくらい、嘘の全てを悪者にするのも厄介だ。

 

私には、7歳になる息子がいる。まだ、友だちに嘘をついたとか、嘘をつかれたとか、そういった話は聞いていない。もし、話す機会があるのなら、イソップ物語の“オオカミ少年”の話をして、

「嘘をつくと人から信用されなくなっちゃうんだよ」

ということは伝えたいと思っている。けれど、それだけではなくて、世の中には、ついても大丈夫な嘘もあるんだよということも、やんわりと伝えたいと思う。

 

例えば、“お笑い”の世界には楽しい嘘がたくさんあるし、小説だってフィクションだ。UFOが本当にあるのかどうか、私は半信半疑だけれど、“UFOビジネス”というのがあって、フィクションと知りながら、その精巧さ、あるいは逆に、その出来の悪さを楽しむこともあるようだ。そこには、嘘と知りながらの、感動や喜びがあるから、きっと幸せな嘘なんだと思う。

 

良い嘘と悪い嘘の違いがあるとすれば、それは、きっと、その嘘が人を喜ばせているかと、人に迷惑をかけているかの違いなのだろう。

 

もし、あの時、和子さんが、みんなが幸せになるような嘘をついていたら、学級会の議題なんかにされないですんだのかもしれない。だけど、果たして小学3年生に、みんなが幸せになるような嘘をつくことができるのだろうか?

 

幸せな嘘がつけるようになるというのは、大人になるということと近い気がする。

 

大人になった和子さんは、みんなが笑顔になるような幸せな嘘がうまい女性になっているだろうか? そうだったらいいな。

 

私も、幸せな嘘を、少しずつ、つけるようになりたいなと思う。

***
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
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2016-09-21 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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