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毎日が変わる、猫という名のASMR


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:杉村仁子(ライティング・ライブ東京会場)
 
 
三匹の猫と暮らし、猫という名のASMRにどっぷり浸かった日々を送る私。
実は重度の猫アレルギーで、毎日薬を服用しなければならないのだ。
今日は、そんな疾患のデメリットを大きく上回る、猫の魅力について書きたいと思う。
 
そもそも、世界的に話題を集めているASMRをご存じだろうか。英語のAutonomous Sensory Meridian Responseの略だ。
 
五感への刺激がきっかけとなって感じる、脳の反応を意味し、心地よい没入感、高揚感を伴うのが特徴だ。
 
ASMRが注目を集めたのは、焚火のパチパチという音やフライを食べるサクサクという咀しゃく音だけを集めたYouTubeが始まりだ。聞くと安眠できるということで記録的な再生回数となった。
 
独特の食感のグミもASMRの新ジャンルだ。国内外の珍しいグミを集めた専門ショップでは、すぐに売り切れる商品もある。多くの人々がASMRに癒しを求めている証拠だろう。
 
ASMRは、10年くらい前に生まれた言葉らしいが、私はずっと昔からはまっている。対象は、もちろん猫だ。
 
彼らがゴロゴロと喉を鳴らす音やスースーとたてる深い寝息は、聴覚を介した恍惚感をもたらしてくれる。
肉球を手でもてあそび、頬にあてると、それこそグミのようなプニプニ感に陶酔できる。
視覚的に「おおっ」と美を感じるのは、猫が後ろ足で首元を掻いた時に大量の毛が宙に舞い散るのを見たときだ。
 
猫のすべての動作は、五感に訴え、小さな歓びをもたらしてくれる。
 
私が猫という存在と出会ったのは、子供の頃だ。捨て猫を見つけるたびに拾ってしまうのでいつも実家には、数匹がいた。同級生よりも猫と遊ぶ時間のほうが長かったのを覚えている。猫に惹かれる理由は、理屈ではなく本能的なもののように思えた。
 
当時、我が家は近所で猫屋敷として有名だったらしい。
 
「猫を捨てたいときは、あの家の前に捨てたらいい」
 
大人になってからそんなことを陰で言われていたと両親に打ち明けられ、何も言わずに猫たちとの生活を満喫できる環境を作ってくれた二人に感謝した。
 
猫が放つかぐわしい香りとの再会
 
そんな私にも、猫ASMR氷河期があった。上京して就職したあとは、忙しくて猫の存在が頭からなくなったのだ。
 
氷が溶けたのは、40代のある午後のこと。近所のアンティークショップの前を通りかかると、私を導くかのようにさび猫(写真参照。黒や茶、オレンジなどがまだらに入った柄)が黄色いドアの前にちょこんと座っていた。
 
「かわいい……」
 
近づいても逃げる気配がない。陽にあたった猫ならではの香ばしいにおいが鼻をくすぐる。久しぶりの刺激を脳が求めているのがわかった。撫でながらにおいを嗅いでいると、店主が中へ招き入れてくれた。いつも急ぎ足で前を通っていたから入るのは初めてだ。
 
オーナーは、いかにもヨーロッパの骨董を扱うにふさわしい高齢の上品な婦人だった。彼女が淹れたコーヒーを飲みながら交わした会話から、猫の名前が「ハナ」であることを知った。以来、ハナに会うために店に通うようになった。
 
ある日、店主が高齢者ホームへ引っ越すので店を閉めることになったと切り出した。ペットを飼えないので、ハナを動物病院へ連れて行って注射で天国へ行かせるつもりだと涙を浮かべた。
 
ハナを見ると、大きな目で私を見つめていた。
 
「引き取りますよ」
 
と自然に言葉が口をついて出た。
 
すでに高齢だったハナと生活できたのは、結局3年だけだった。大きな存在となっていたハナを失って失意のなかにいた私に、地域猫のボランティアさんが5歳の保護猫をすすめてくれた。飼ったことがないサバ猫(グレーに黒い縞模様が入った柄)だった。ワクワクして、すぐに家に迎え入れた。
 
新しい猫との暮らしに慣れた頃、所用で地元の警察署へ行ったとき、どこからかミーミーと子猫の鳴き声が聞こえてきた。生まれて数日の白猫と黒猫が入った段ボールがカウンターに置いてあるのが目に入った。
 
理由を聞くと、落とし物として小学生が届けに来たそうだ。
「今日中に飼い主が決まらないと保健所へ連れていかないといけません」と窓口の人が言う。
 
「何かの縁だろう」と二匹を引き取ることに決めた。これで計三匹となったわけだ。
  
猫は神経質なので多頭飼いは難しい。相性が良いのは年齢が離れた猫の組み合わせで、それも子猫のうちに引き合わせることだ。我が家の猫たちは、それが功を奏したのかとても仲が良い。
 
しかし、良いことばかりではない。最初に言った通り、私は重度の猫アレルギーなのだ。
 
発病したのは、ハナを飼い始めたとき。くしゃみと涙が止まらなくなり、病院へ行くとそのような残酷な診断がくだった。
 
「猫の毛や唾液が、アレルゲンですよ」と医師。
 
「だって先生、毎晩、猫たちが布団に入れてくれって言うんですよ。断れないじゃないですか」
 
「わかる、わかりますよ。かわいいですからね〜」と厳格そうなベテランの医師は、目を細めた。そして、猫と寝床をともにすることを禁ずることはなく、すぐにアレルギー薬の処方箋を書いてくれた。
 
今も毎日服用が必要だが、飼わないという選択はよぎりもしない。この魅力的な生き物たちとの暮らしは、心が享受するメリットのほうがはるかに上回っているからだ。
 
頼むから床の上で吐いて
 
とは言え、デメリットはある。猫が吐いたものを片づけなければならないことだ。彼らは常に毛づくろいして飲み込んでしまった毛を吐く。
 
習性だから受け入れるしかないが、一応、猫たちには拭き取りやすいように床で吐くように指導した。その甲斐あって、二匹はそうするようになった。
 
しかし、ロッソという名前の末娘にだけは話が通じない。彼女は、替えたばかりのシーツの上、クッションなどなぜか布を選んで吐くのだ。兄たちにおびえながら慌てて食べるせいなのか、単に食い意地が張っているだけなのか、いつも食べ過ぎてしまい、すぐに吐き気が襲ってくる。だからといって、目の前の床ではなくわざわざ寝床まで行って吐くのは、納得できない行動だ。
 
粗相をした彼女に対して烈火のごとく怒るかというと、怒りは全くわかない。しかし、他の二匹への教育もあるので私は毎回怒ったふりをして、まずは彼女を無視することにしている。
 
かわいそうなのだが、猫のショボンとしたしぐさは、とても愛らしい。
 
最初は、上目遣いで何度も私の足に顔をこすりつけてくる。「フン」と言って私が顔をそむけると、タンスの陰に隠れ、半身だけを出してこっちを見る。自分の駄目さを申し訳なく思っているのが伝わってくる。最後にはカラーボックスにつくった寝床に入って食事の時も出てこなくなる。
 
「確かに反省はしているんだよね」
 
それで怒ったふりは一日で解消することにしている。ロッソはその様子を見て徐々に近づいてきて、またいつも通り甘えてくる。その繰り返しだ。
 
これが私の日常だ。猫と暮らすようになって、以前よりよく眠れるようになり、この子たちのために自分が元気でいなければという張り合いも出た。
 
流行のASMRのように一瞬で消えてしまう癒しは、どこか虚しい。心の底から生まれてくる安らぎやひとりでに笑みがこぼれるような幸せを求めるなら猫を飼うことを試していただきたいと思う。きっと日常が変わっていくことを約束する。
 
 
 
 
***
 
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2022-10-12 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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