ふるさとグランプリ

季節外れの隠し球。10月の沖縄。《ふるさとグランプリ》


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記事:liko(ライティング・ゼミ)

3ヶ月前。私は隠し球を仕込んだ。
ターゲットは5歳の長男、共犯者は旦那だ。

6月の終わりのある日のこと。
私はいつものように会社のデスクに座り、カタカタとキーボードをうっていた。
うーん、肩凝ったなぁ。
キーボードを打つ手を止めて首を回す。
首を回すときはどこの筋が伸びているかを意識して、その筋に意識を集中するのがコツである。
頭を左に傾け右側の筋をゆっくり伸ばすとミシミシと音がした。
窓の外はしとしとと雨が降っている。
まだ梅雨明けしていなかった。
フロアでは同じ職場のNさんがお菓子を配っている。
なんだろう。
旅行でもいっていたのかな。
「どうぞ〜」
手渡されたお菓子はちんすこうだった。
ちんすこう?
バッと身を起こしNさんの方に向き直る。
「Nさん沖縄行ったんですか!?」
「ウフフ。そうなの」
と晴れやかな顔でNさん。
「いーーなーー!! ってか去年も行ってませんでしたっけ?」
「そうそう、今年で、えーと、3年連続かな」
「いつも、シーズン前に行かれますよね?」
「うん、この時期の沖縄はいいよ。夏休み前で空いてるしね」
「海とかもう入れるんですか」
「あーもー全然入れるよ」
すっかりリフレッシュした顔のNさんを見た私はすっかり羨ましくなってしまった。

何を隠そう私は沖縄が大好きなのだ。
初めて沖縄に言ったのは家族旅行だった。美しい海にじゃぶじゃぶ入り、美しい魚を間近で見た。東京生まれ、東京育ちで野生生物に縁のない環境で育った私は、こんなにも近くで魚や海の生き物と触れ合えるのかと、感動した。
修学旅行も沖縄だった。悪天候の中、西表島に行きカヌーがひっくり返ったのも良い思い出だ。
大学時代の女友達といった沖縄旅行は、お決まりの夜のトークが大盛り上がりだった。彼女たちは一生の心の友だ。
私にとっての沖縄は、楽しかった思い出と青春が凝縮された心のふるさとだ。
美しい海、ゆったりした時間。遊んでよし、食べてよし。かれこれ10回は行っているが、いつもまだまだ帰りたくない、と思いながら帰ってくる。

よし、今年の夏は家族で沖縄に行こう。
そう決めた私は早速ネットで調べ始めた。
ところが。
た、高い……。
最も沖縄に足しげく通ったのは学生の頃。
独り身だったので、旅費は数万円だった。
8月なんかに4人家族で3泊すると4、50万かかる。
少し遅らせてシルバーウイークとか?
うーん、まだ、かなり高い。
諦めかけたその時、Nさんの話しが頭をよぎった。
6月に泳げるなら10月でも泳げるかもしれない。
沖縄の気候を調べてみる。10月の平均気温は25度以上、最高気温は30度超えとのこと。
いける。

しかし、と私は思った。
秋の沖縄は台風のリスクが高い。
沖縄に行くといっておいて、台風で中止になったら?
長男のがっかりする顔が思い浮かんだ。
ついこの間も、風邪をひいて夏祭りに行けなくて、随分引きずった。
迷いながらも10月の沖縄旅行の価格を調べる。
20万。夏休みシーズンの半額である。

よし。
私は腹を決めた。
出発の5日前になれば、天気もわかろう。
それまでは伏せておこう。
台風でいけなかったら、なかったことにしよう。
会社の有休だけとっておこう。旦那とそう打ち合わせた。
こうして球は仕込まれた。
3か月前のことである。

9月になると、沖縄の天気が気になり始めた。
出発の一週間前、台風16号が発生した。
幸いにも出発までにはまだ日がある。
さっさといってくれ、と願いながら毎日天気予報を見続けた。
幸いにも16号は通過し、出発予定日の3日前になった。
時は満ちた。

その日の保育園の帰り道のことである。
「ママ、今度のお休みの日、あそぼーの行こうよ」
「うーん、今度のお休みの日はちょっとねぇ」
「えー、行―きーたーいー」
「飛行機乗って、沖縄に行くんだよ」
「……沖縄?」「沖縄」
「飛行機で?」「飛行機で」
「海で遊べる?」「遊べる」
テンションがあがった長男は何度も何度も仮面ライダーの変身ポーズをとって家にダッシュした。
玄関前で追いつくと、ハメハメハーと歌いながら踊っていた。1歳の次男も真似をする。
カギを開けるとそのまま家になだれ込んでいく。
「帰ってきたらまず手洗うんだよ~!」
夏休みの前みたいな夜だった。

10月の沖縄は素晴らしかった。
東京はすでに肌寒くなっていたが、飛行機を降りると、夏だった。
その温度のギャップが、終わってしまったはずの夏休みがもう一度やってきたようなお得感を盛り上げてくれた。
波打ち際で戯れた後は、潮だまりでの磯遊び。ビーチでの昼寝。
絵に描いたような沖縄ライフを満喫してきた。
最終日に「また来ようね」と長男がいった。
沖縄は長男にとっても、こころのふるさとになるだろうか。
飛行機を見に窓辺にダッシュする長男の後姿を見ながら、来年も仕込むかな、隠し球、と思った。

 

***

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