5歳の娘から生返事を指摘されて、子どもへの声かけを見直してみた
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記事:赤羽かなえ(ライティング実践教室)
朝の風はひんやりとしていた。
秋から冬に移っていくと子供達がいくら風の子と言ったって、いつでも機嫌よく動けるわけではないよね。5歳の末っ子が寒さに肩をすくめながら車に乗り込む表情を眺めた。半袖半ズボンは明らかに季節外れで、口を真一文字に結んでうつむいている。
でも、どうしてそんな表情をしているのか気にしている時間はない。時計とにらめっこしながら、車に乗り込んで慌ててエンジンをかける。園から指定されている到着時間に間に合うかな、渋滞の列にちょっと絶望的になりながらブレーキかける足に力を入れた。ふとバックミラーを見ると、末っ子は、相変わらず不機嫌そうな目で窓の外を眺めていた。
目線を渋滞の列に戻す。ノロノロと動く車を操りながら、今日は、戻ったらまず何をしようかと思いめぐらせていると、末っ子が口を開いた。
「ねえ、どうしてマミーはいつも生返事なの?!」
その声は思ったよりも強い口調で不満を表明していた。
私はドキッとした。でも、次の瞬間にニヤけてしまう。
今時の5歳児って生返事とか使う(笑)? しかも、間違いなく、正しく使っている。その語彙力に衝撃受けたわ。天才か。
いや、話をそらした、ちょっと胸に刺さる言葉で胸が痛んで、逃避してしまった。
「え、だって、お母さん、運転してるじゃん。そっちに集中しているから、色々話されたらそりゃあ、生返事にもなるよ」
「そういうことが言いたいんじゃないよ。いつも話、聞いてくれないじゃん」
自分が口に出したのは、なけなしの言い訳なのはわかっていたけれど、娘は私にお茶を濁すのを許してくれなかった。そこから先、口の中で生まれたいくつもの言い訳を外に出そうとしたけれど、それ以上何も言えなかった。
思い当たる節はある……というか、思い当る節しかない。
3人子供がいて、仕事もボチボチしている、となると、日々の生活はもぐらたたきゲームのようだ。出てきたものをとりあえず、こなすだけ。目下、表面に飛び出しているいる問題があったら、顔をちょっとのぞかせている別の問題はとりあえず後回し。
長子のことは見るものすべてが初体験だから気にかかるし、真ん中の子は全力で自己主張してくる……となると、空気が読めて年齢的にもまだ丸め込める5歳末っ子があおりをくらってしまう。おしゃべり好きでいろんなことを話してくれる姿をかわいいなと思っている。けれど、忙しい時は脳のキャパシティの3分の2は別のことを考えながら聞いているのだから、生返事と言われても仕方がない。
さて、どうしたものか……。
最近読んだ、子育ての本を見返してみることにした。プロコーチの田嶋英子さんが書かれている『親の聴き方ひとつで失敗に負けない子が育つ』という本だ。そのなかに、『子どもに「心の栄養」を与える魔法の呪文」』という項目がある。「人生にはいろいろあります。子供の世界でもいろいろあって、子どもたちも凹んだり、ダメダメになったり、します」という出だしで始まっている。田嶋さんは、それが悪いことなのではなくて、いつまでも続いて本来やりたいことができないことが困るので、親が回復の呪文をかけてあげましょう、といくつかの子どもたちが満たされる言葉を提案してくれている。
その項目を読みながら、末っ子の状況を思い返してみた。年長さんで、年に一度の運動会は中心になって頑張らなければいけない時期なのだ。挑戦する演目の難しさもさることながら、小さい子供達の面倒も同時に見ていかなければいけない立場にある。お迎えに行くと、年長が集まって長々と話し合いをしていることもある。その様子は、会社で働くサラリーマンのよう。大人だったらお酒を飲んで憂さ晴らしをしているところだろうけど、子どもだから、お菓子のやけ食いもできない。
そんな中で、小さな体にためこんだモヤモヤを私に向かって延々と話し続けることだけが、彼女の唯一の息抜きだったのかもしれない。核心につくような保育園の出来事から、一見全然関係のないことまで途切れる間もなく話し続けるところに、私が生返事でやり過ごそうとするからますます彼女のモヤモヤが溜まったのかなあ。
子どもなんて下手に口を出すよりも放っておくくらいの方が勝手に育っていくもの、と思っていたけれど、私だってモヤモヤしている時に話した相手が生返事だったらやっぱり気持ちはよくない。
田嶋さんが上げていた回復の呪文は、本当にちょっとしたことだ。大好きだと伝えるとか、がんばったと認めてあげるとか、ハグでもいいし、手を繋ぐだけでもいい。目を見て挨拶したり、にっこりしたり、無料で簡単にできることなんだ、と書いてある。
母は1人なのに子どもが3人いるから大変なんだよとか、ご飯も作らなきゃいけないし疲れるんだよ、とか言い訳したいことは沢山ある。でも、意識して工夫するのと、あきらめてやらないのでは大きく違う。
せめて、まず、笑顔で挨拶するところからやってみようか。
インターフォンが鳴って遊びに行っていた子供達が帰ってきた。
「おかえり!」と大きな声で言って、その後で目を見てにっこり笑う。子供達は一瞬不思議そうな顔をして、でも「ただいま」と言って嬉しそうに笑ってくれた。
それだけで、生返事問題が解消するかはまだわからない。でも、たったそれだけのことで、驚くほど、清々しかった。
参考文献
田嶋英子『親の聴き方ひとつで失敗に負けない子が育つ』青春出版社
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